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ケタ違いに売る人・森令子の「景気が関係なくなる魔法」

森令子(研修講師/元フェラガモジャパン店長)

2012年05月29日 公開 2022年11月14日 更新

ケタ違いに売る人・森令子の「景気が関係なくなる魔法」

ブランド業界専門の人材紹介や接客・接遇指導を行っている森令子氏は、接客は、現場で経験を重ねるうちに、自ら学んで「自己流」をつくり出すものであり、先輩やお客様に育ててものだと語る。

同氏の著書『ケタ違いに売る人の57の流儀』にて、「いまの時代、どのように販売しなければならないのか」を伝えている。

※本稿は、森令子 著『ケタ違いに売る人の57の流儀』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

【Ryugiの16 】つかみの2分間、話しかけはどうする?

「いらっしゃいませ。よろしければ、お手にとってご覧くださいませ」

最近、私は接客・接遇のセミナーで、この台詞は「絶対に使わないようにしましょう」と研修生に指導しています。といってもこの言葉、読者のみなさんにもお馴染みのはずです。お客様が店に入って、商品を目にした段階で、まずいわれる言葉です。

しかしこの言葉は、お客様に話しかけているようで、実際には目線も合わせず、実に軽い感じでいわれることが多い言葉です。お客様にとっては、そのたびに「聞き流す言葉」になっています。これは、お互いにとって何か意味があるでしょうか?

お客様は、「いらっしゃいませ。よろしければ、お手にとってご覧くださいませ」と挨拶代わりにいわれるよりも、
「秋冬物のコレクションが昨日入ってまいりました」あるいは、
「大丈夫ですか。雨が降ってきましたけれど、傘はお持ちでしたか」と声をかけられるほうが、言葉を自然と受け止めやすくはないでしょうか。

昔は、「いらっしゃいませ。よろしければお手にとってご覧くださいませ」とオウム返しのようにいうことを仕込まれていましたから、いまの若手販売スタッフも先輩たちのその姿を見て、同じ言葉で声がけをしています。しかし、お客様はこの言葉に慣れっこになってしまい、もはや新鮮な響きを感じなくなっているのです。

私はセミナーで、初めてのお客様の気持ちをつかむために、コーチングのテクニックで「イエスセット」を取り入れています。

「いらっしゃいませ」といったあとに、そのお客様に3~4回、続けてイエスといわせる言葉をかけるのです。その言葉は、その場で、お客様と共通認識できる話題です。テレビのニュースではいけません。

「今日のニュース、ご覧になりました? と聞いても、「いや、テレビは見ないから」といわれたら、イエスではなくノーといわれたことになりますので、それで終わりです。

そうではなく、「ちょうど全店合わせてセールが始まりました」「どこも秋冬物が揃ってまいりました」「今年の夏も暑くなりましたよね。やっと秋らしくなりましたね」といった、その場で、目で見てわかる状況を取り入れます。

私はそれを「つかみのための2分間」の初めに使います。

「いらっしゃいませ」と話しかけてから、お客様の関心が商品へと移るまでの間。この2分間に、お客様との気持ちの距離を縮めて、信頼関係を築くきっかけをつくるのです。

「つかみのための2分間」とは、販売営業ではないおしゃべりをすることです。営業の方も、初めの挨拶から商品説明までには一定の間があるのではないでしょうか。そのための話しかけです。

セミナーでは、決まりきったマニュアルにとらわれず、自分の話しかけの言葉を考えるロールプレイングをしてもらいます。

店外の状況や午前・午後の時間帯などによって、いろいろな話しかけのネタをつくってもらうのです。そして「つかみの2分間」の話しかけについて、研修生たちの中でバラエティを増やしていくのです。

状況を考えて自分でつくった声がけは、お客様が変わればいつでも使える言葉です。

入店されたお客様が何をお求めかは一目ではわからないので、少なくともお客様に対して、「サイズ違いがございますよ」「色違いもございますよ」といった「速攻営業」の話しかけはやめましょうと指導しています。

すぐに商品ごとの各論に移って話しかけてもよかった時代がありました。お客様も買う気満々で来店していたからです。

しかしいまは、「今年の流行って、どうなんだろう?」「ちょっと雨宿りのために入ろう」という方も多くいらっしゃいます。「来店=買い物」ではない時代になってきたので、ニーズが読み取れないのです。

ですから、お客様のニーズをゆったりと引き出す時間が必要になってきました。昔と違ってお客様はガツガツと商品に飛びついてきませんから、売り手だけがガツガツしたところで売り上げは取れません。

そのため、「つかみのための2分間」が必要になってきました。私たちのような商品を提供する側も、ニーズに合わせた売り方をしなくてはいけない時代なのです。

 

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