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「30代前半で年収420万円」は平均以下? 偏った統計が歪める日本の実態

斎藤広達(経営コンサルタント)

2023年03月21日 公開 2023年03月23日 更新

 

有給休暇の消化率を考える

中央値の説明をするため、もう少し少人数の身近なケースで考えてみましょう。

昨今、働き方改革の波もあり、社員の残業時間や有給休暇消化率を気にする企業が増えているようです。あなたの会社でもひょっとすると、「有給休暇消化率○○%を達成せよ」などのお達しが出ているかもしれません。

ここに、メンバー9人の部署があり、与えられる有給休暇日数が10日だとします。会社から求められている目標は消化率50%。つまり、1人当たり5日取れば50%ということになります。

そして期末に集計したところ、結果はちょうど50%だったとします。目標を達成できてほっとひと安心です。

しかし、ちょっと待ってください。もしその中に、「その年の有給休暇だけでなく、これまで累積してきた有給休暇をフルに使いきった人」がいたらどうなるでしょうか。こんな感じです。

Aさん 5日
Bさん 2日
Cさん 0日
Dさん 0日
Eさん 8日
Fさん 20日
Gさん 5日
Hさん 2日
Iさん 3日

計算すると、これで平均有給休暇消化日数は5日です。

ただ、改めて指摘するまでもなく、何かおかしいと気づくでしょう。有給休暇消化がゼロの人がいる一方、20日も有給休暇を取っている人がいるからです。

こうした場合、極端な数字を外して平均値を取る、という考え方もあります。フィギュアスケートの採点では、最高得点と最低得点を外してカウントしていますが、それと同じような考え方です。

しかし、では何が極端な数字なのかという判断は結局、その人の主観になってしまいます。

 

そもそも「有給休暇消化」を平均で見ることが誤り

そこで、より実感に近い数字を得たい場合、「中央値」を探るのです。

中央値とは、すべての人を並べたときに、そのちょうど真ん中に位置する人の数値を示すものです。このケースの場合は9人のチームですから、ちょうど「上からも下からも5番目」に当たる人を指します。

この場合、中央値は「3」です。となると、消化率は30%。このほうがむしろ、肌感覚に合う数値になると思います。

そもそも、誰かが極端な数字を出す可能性がある場合、目標を「平均値」で定めてはいけないのです。

ちなみに労働基準法の改正により、2019年4月1日以降、従業員に年5日の有給休暇を取得させなければ、企業に罰則が科されることになりました。もし平均が5日であっても、1人でも5日未満の人がいてはならないのです。

つまり、目標は平均値でも中央値でもなく、「5日」という明確な数字で定めるべきなのです。

 

世界の富は偏っている

さて、最初の「日本人の平均年収」の話に戻りましょう。実は年収や資産というのは、大きな偏りがあるものです。

「世界の富の半分近くを、世界人口のたった1%の富裕層が握っている」という話を聞いたことがある人もいるかと思います。この数値の信憑性については諸説あるようですが、世界の富が偏在しているというのは、おそらく多くの人の共通認識だと思われます。

日本は欧米に比べれば格差が小さいと言われていますが、年々格差が広がっていることは多くの人が実感していることでしょう。

厳密に言えば富(資産)と年収(収入)とは違いますが、やはりここにも大きな格差があるのは事実です。そのため、年収の平均値を取ろうとすると、どうしても実感よりも引き上げられてしまうのです。

そこで、日本人男性の年収の「中央値」を見てみることにしましょう。

いろいろなデータがあるのですが、たとえば、

30代前半:330万円
30代後半:367万円

という数字が出てきます。

つまり、日本人の30代前半の男性を年収順にずらっと並べたとき、ちょうどその真ん中にいる人の年収は330万円ということです。

上の数字にはボーナスが含まれていないようですが、先ほどの問題に出てきた年収420万円の人は、平均値以下ではあっても、順序的には「半分より上」に当たると考えられるでしょう。

「勝ち組」「負け組」という言葉は好きではありませんが、仮にちょうど中央にいる人より上が勝ち組で、それより下の人が負け組とするのなら、年収420万円は勝ち組になる、ということです。

 

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