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“イマイチな文章”の一つの共通点...面白いネタは前と後、どっちにあるべき?

杉山直隆(ライター/編集者)

2023年07月07日 公開

 

(1)最も伝えたいポイント

「最も伝えたいポイント」は何かを考え、「つかみ」に持っていきます。

誰かに何かを教えようという文章なら、「最も重要なノウハウ」や「最も伝えたい教訓」。誰かのすごさを読み手に伝えたいなら、「最もすごいところ」。注意喚起をするなら、「最も注意すべきこと」。商品やサービスの魅力を伝えたいなら、「最も魅力的で、差別化できる特徴」「最もPRしたいポイント」などです。

最大のポイントを「つかみ」に持ってくるという手法は、一般に出回るWebメディアの記事や書籍では定番中の定番です。たとえば、こんなふうによく使われます。

ワークマンは「しない会社」だ。
『ワークマン式「しない経営」』土屋哲雄/ダイヤモンド社

中年になってからの仕事に関する持論は、「35歳を過ぎたら好きなことより得意なこと」だ。
『婦人公論.JP』

「得意ばかりを磨いていたら、夢中になるほどの好きがわからなくなってしまった」
ジェーン・スー

いずれも1文目から最大のポイントをあげることで、この本や記事には何が書かれているのかがパッとわかりますし、インパクトもあって、興味をそそられますよね。

「最も伝えたいポイント」を「つかみ」に持ってくる方法の長所は、メッセージが明確に伝わりやすくなることです。

 

(2)印象的な情景・シーン

「印象的な情景・シーン」も、文中に埋もれやすい最もおいしいネタの1つです。もし文中にあるようなら、「つかみ」に持ってくることを検討してみましょう。

「印象的な情景・シーン」の「つかみ」は、小説やノンフィクションを読むと、たくさん出てきます。たとえば、しまだあや(島田彩)さんのエッセイの「つかみ」をご覧ください。

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今週末の日曜日、私はユニクロで泣く。

いつも行く、イオンの4階に入っているユニクロで。きっと、震えながら白のエアリズムコットンオーバーサイズTシャツ(5分袖)を手に取って、泣く。

何の話か全くわからないと思うけど、今、たった今3時間前に起きたことを、心臓をばくばくさせながら、今日は書く。

note「今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く」しまだあや(島田彩)
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「ユニクロで泣く」「震えながら白のエアリズムコットンオーバーサイズTシャツ(5分袖)を手に取って、泣く」という、意外なシーンを描くことで、「え、どういうこと!?」と強烈に興味を惹かれます。

「泣いた」ではなく、「(これから)泣く」というのも、「何があったんだろう?」と想像をかきたてられます。

ちなみに、この「つかみ」のあとには、次の文章が続きます。

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私の家は、奈良にある。近鉄電車の快速急行が止まる駅。そして、家の94%を、地元の20代以下に開放している。
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ここから文章をはじめていたら、「ユニクロで泣く」ほどのインパクトは出せなかったでしょう。

もちろん、例にあげたような、ありありと情景が浮かんでくるシーンは誰でも描けるものではありませんし、そればかり目指そうとすると筆がなかなか進みません。

それでも、「印象的な情景・シーンを『つかみ』に持ってくる」ように意識することで、人を惹きつける「つかみ」となります。

 

(3)感情・気持ち

読み手の心を惹きつける「つかみ」にするためには、「感情・気持ち」にも注目しましょう。

喜びや怒り、悲しみ、楽しさといった「喜怒哀楽」だけでなく、あせりや苦悩、逡巡といった「感情・気持ち」が「つかみ」に入っていると、読み手は興味を持ちやすくなります。

なぜその気持ちになったのかが気になったり、共感を覚えたりして、先を読みたくなるのです。感情や気持ちの主は、自分でもほかの人でもよいでしょう。

みなさんが書く文章でも、文中に自分や他人の「感情・気持ち」が描かれているときは、それを「つかみ」に持ってくることができないか検討してみてください。

例として、次の文章をご覧ください(著者作成)。

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子どものときからバレエをしてみたかったのだが、家計が苦しくてできなかった。しかし、いつか挑戦したいとずっと考えていた。

社会人になって10年目の32歳のとき、生活に余裕ができてきた。そこで勇気を振り絞って、近所のバレエスタジオの門を叩いてみた。

週3回レッスンに通ったが、なかなかうまくならない。年1回の発表会でも脇役ばかり。

しかし、5年目の発表会で、ようやくソロパートを任せてもらえるようになった。

本番当日。緊張で食事が喉を通らない。私にできるんだろうか...。舞台袖で待機すると緊張はマックスに。舞台に立った瞬間、観客の視線を一身に受け、頭が真っ白になった。

しかし、なんとか間違えることなく、最後までやりきった。踊り終わったあと、多くの観客が私に対して拍手を送ってくださった。

「あのとき、勇気を出して本当によかった」

大勢の観客にあいさつをしながら、涙がこぼれそうになった。発表会が終わり、今度はもっと多くのパートを担当したいと欲が出てきた。何ごともはじめるのは何歳からでも遅くない。私のバレエ人生はこれからだ。
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今のところは時系列で書かれているだけで、(ここでは文章の内容の良し悪しはさておき)とくに印象的な「つかみ」ではないですよね。

そこで、「気持ち・感情」を「つかみ」に持ってくるとどうなるでしょうか。いくつかのパターンが考えられそうです。1つは、踊り終わったあとの感情を「つかみ」に持ってくるパターン。

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「あのとき、勇気を出して本当によかった」
大勢の観客に向かってあいさつをしながら、涙がこぼれそうになった。子どものときからバレエをしてみたかったのだが、家計が苦しくてできなかった。しかし、いつか挑戦したいとずっと考えていた。
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次のように一連の出来事を踏まえた実感を「つかみ」に持ってくるパターンも考えられます。

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何ごともはじめるのは何歳からでも遅くない。
あらためてそう実感した出来事がある。大人になってからはじめたバレエのことだ。子どものときからバレエをしてみたかったのだが、家計が苦しくてできなかった。しかし、いつか挑戦したいとずっと考えていた。
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どの「つかみ」がよいかは伝えたい意図にもよると思いますが、いずれも元の文章の「つかみ」と比べれば、読み手の興味を惹きます。

たとえ文章全体では同じような内容でも、「つかみ」にどのような部分を持っていくかによって、読み手の印象は大きく変わることが実感できるでしょう。

 

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