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「お前、死ぬ気で押せよ」ラグビー19年W杯、堀江翔太が“あえて怒った”真意

堀江翔太(ラグビー選手)

2023年09月29日 公開

 

リーダーそれぞれに、ふさわしい言葉のトーンってあると思うんです

言葉のトーンって、大事だと思ってるんです。気持ちを伝えるうえで。ラグビーのキャプテンのイメージというと、ロッカールームの円陣の真ん中で、大きな声でみんなを叱咤激励する姿を思い浮かべる人も多いと思います。

でも、これは僕のスタイルじゃないと思っていて、常に落ちついたトーンで話すように心掛けていました。どんな時であっても。

もちろん、気合いを入れる必要がある時は、「しっかりやろう」と声のトーンを変えることはあるんですが、具体的な修正点を伝える時に、同じようなノリで声を荒らげてもあんまりいいことはないですね。

お願いなのに、怒鳴っても意味ないですよね。スクラムとか、ラインアウトで修正点が見つかれば、「もうちょっと、ああしてくれへん?」とか、「ああしてな」とか、そんな調子で伝えてます。努めて冷静というか、普段通りに。ここで激しいトーンで言っても、あんまり意味ないです。

試合でも、練習でも、熱いテンションでバーッと言ってしまうと、ほとんどの選手は僕よりも年齢が下になってますから、きっと怒られているように聞こえてしまうでしょうし、「あの人、なんやねん」と思うんじゃないですか。

なぜ、落ちついたトーンが好ましいと思っているかというと、本当に緊急性の高いことが起きた時に、きちんと自分の意図が伝わらないからです。テストマッチとかで、さすがに気合いを入れなあかん時は、焦るような声で「早く来て!」と叫びますよ。

要は、リーダー的な立場になればなるほど、声のトーンというのは使い分けが必要になるということです。

緊急性が高ければ、叫ぶ。でも、それでみんなが集まったらいつもと同じ落ちついたトーンで話す。注意すべきポイントがあれば、冷静になって伝えたほうが、結果としてはいいように思います。

これまでの自分の経験でもあったんです。あるコーチが、試合のままのテンションを練習に持ち込んで、試合のままのノリで怒られていると、「いったい、なにについて怒ってんのかな?」とワケがわからなくなって、自分なんかは冷めた目線になってしまいました。

具体的な修正点が明確ならば、感情を荒らげる必要はないんです。選手に自分で気づいて欲しいなあと思うような場合には、トーンを落としたほうが、しっかりと考えるようになりますよね。

反対に、指導者がめちゃめちゃ怒ってるということは、単に感情を爆発させたいだけなんじゃないかと選手は疑ってしまいますから。

結局、普段のコミュニケーションがベースなんです。試合でもいつもの調子で話せれば、効果的に修正が可能になるんです。

2019年のW杯のアイルランド戦でも、プロップ(PR)3番の具くんとこんなやり取りがありました。

最初のスクラムでは反則を取られましたが、結構、いい感触で組めていたので、「今日のスクラムはいける」という手ごたえを具くんも僕も感じていたと思います。

具くんはスクラムが大好きなので、自分でいけると思った時は後ろからの押しをあまり気にせず、自分でどんどん押していってしまうタイプです。でも、そうなると8人じゃなく、7人のスクラムになってしまう。これは長谷川慎さんが理想とするスクラムとかけ離れてしまうので、全員で押すことを具くんとの対話で共有する必要がありました。

ペナルティを取られたあと、具くんとこんなやり取りをしました。

「どうなん、いける? 対面(トイメン)どうなの?」と聞くと、具くんが「今日はいけそうな気がします」と答えたので、「具くん、いける時はいっていいよ。でも、ひとりでいくんじゃなくて、俺とガッキーの力を感じながらいってね。俺たちもしっかり乗せていくから」とこんな調子で伝えたんです。

それが前半25分に、アイルランドのコラプシングを誘うスクラムにつながったんじゃないですかね。

それがもし、僕が感情を露あらわにして、こんな伝え方になってたら、どうなったでしょう。

「具くん、今日、いけるやろ。これ、いかんかったら、男やないで。なっ、なっ?」

具くんは韓国出身ということもあり、目上の人間の言うことを大切にするので、「ハイ」と答えて、そこで終わり。たぶん、技術的なフィードバックなどしないままで、いいスクラムなんか組めなかったでしょう。

具くん、どんどん押していったんちゃいますかね。ビッグゲームほど、冷静に言葉を尽くしたほうがええなと思います。

でも、W杯で怒ったこともありました。正直に告白すると、準々決勝進出がかかったスコットランド戦では、怒鳴ったんです。後半17分に中島イシレリがガッキーの交代で入ってきたんです。

ちょうどスコットランドにトライを取られ、28対21とワントライ、ワンゴール差まで追い上げられた場面。イシレリには怒りますよ。怒らないと、やらないんで(笑)。イシレリに、僕はこう言いました。

「お前、死ぬ気で押せよ」

イシレリはゴツいですけど、めちゃめちゃ優しくて、おもろいヤツでね。この言葉はイシレリ向けというか、彼はわりとのんびりしているから言ったんですよ。

トンガ出身の選手たちは時間に対する概念も違うし、日本人の尺度からすると「大丈夫かな」と思うこともあります。だから交代で入ってきても、ちょっとエンジンのかかりが遅いかなという時があったので、僕としては珍しくキツい調子で言いました。日本のラグビーのすべてが懸かってたような試合でしたから。

しっかりと応えてくれましたよ、イシレリは。たぶん、緊急事態ってわかったんじゃないですかね。僕がこれだけキツいことを言うのは、よっぽどの試合なんだと理解してくれたんじゃないかと思います。あの試合の意味、あの会場の雰囲気で、のんびりしてたイシレリはかなりの大物ですけど(笑)。

でも、書いていて思い出しました。恥ずかしながら自分もかなり怒鳴っていた時代がありました。高校生の時です。

後輩がミスをしたら、「なにしとんじゃ」というような言い方をしていたんですよ。恥ずかしいですね。

いま思うと、3年生の自分が怒鳴ったり、ネガティブなことを言っていたら、チームの雰囲気は悪くなるばかりだし、後輩たちのパフォーマンスも落ちるだけです。自分が未熟な時代。でも、人は経験をうまく積んでいけば、変われるんですよ。

 

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