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生き方

ペットロスに苦しむ40代男性を救った「1匹の保護犬との出会い」

ベン・ムーン(著)、岩崎晋也(訳)

2023年10月31日 公開

 

愛を教えてくれる存在

心から愛する犬、犬のソウルメイトは一匹だけだと言う人は多い。ぼくもそのひとりだったが、ノリを飼ったことで少し意見が変わり、新しい愛が始まることもあるのだと知った。

人間同士についても同じことが言える。ある人はぼくたちの人生に現れ、心を開いて愛することを教えてくれる。またある人は、つらいときに優しく包み、成長を促してくれる。それに、犬が生涯の友人と引きあわせてくれることもある。

たとえ1時間であれ1か月であれ、相手が犬でも人でも、ぼくたちが心を開くのは、そのときにちょうど必要としている存在だからだ。デナリは挑戦的で、独立心があり、優しく包みこむような犬で、ぼくがあきれるほど長い時間をかけて人として成長するあいだ、ずっとそばにいてくれた。

ノリはデナリと同じく大人びていて、冒険が大好きだが、もっと優しく、ぼくの気まぐれにつきあってくれる。ノリはまさに、人として少しは成長したいまのぼくが必要としている存在だ。良きにつけ悪しきにつけ、犬はぼくたちの鏡なのだ。

自分の物語を、何度も何度も書き換えよう。成長や人生の本質はきっとそこにある。

火に顔を近づけたことのない人は、すべての感情の振幅を経験しているとは言えない。魂を打ち砕くようなメラニーとの別れ、芸術家としてキャリアを切り拓き、続けるための苦闘、ガンとの闘い、そのどれもがぼくに大事なことを教えてくれ、"気楽"に生きていては決してできなかっただろう成長をもたらしてくれた。

デナリという友達が隣にいれば、苦しみに耐え、それぞれの瞬間を楽しむことができた。ノリも同じだ。犬は抱きしめてくれる......ぼくはよくデナリと額をくっつけて愛情を伝えあっていたし、ノリとも同じようにしている。

デナリ以上にハグが大好きで、呼ばれるとすぐにぼくの首に腕をかけて身体を寄せる。そのたびに喜びで声をあげたくなる。犬との絆を感じる静かな瞬間は、どんな人間にも与えることができないすばらしさがある。

だから、友人たちを抱きしめ、心の声を聞き、傷つきやすさをさらけだそう。そこにこそ最高の、最も真実の経験が現れるのだから。

 

ノリとの満たされた生活

この2年は、父と数年前に作ったキャンピングカーで暮らしている。車のなかでこの本を書き、そのあいだに貯めたお金でビーチに家を建てている。友人たちとシェアするため、そして多くの人に泊まってもらうことで、これまでに自分の家に住ませてくれた人々から受けた親切を、今度は差しだすためのものだ。

夜眠る準備をするときは、昼のあいだに張りついたビーチの砂を払い落とし、快適なマットレスに寝ころがる。ノリは軽やかに飛びあがってきて、ぼくと左の枕の上に細身の身体を横たえ、あごをぼくの胸に乗せて、ため息をついてから目を閉じる。

重たいノリの頭の下でぼくも息を吐き、さねはぎ継ぎのヒマラヤスギの天井につけた薄暗い明かりを見つめる。ああ、40代の独身男が、犬と車で暮らしてる。デナリと旅を始めたころのことを思いだしながら考える。だけど、それも悪くない。

ノリを見つめる。その目は満足そうに閉じられている。「どう思う?」ぼくはノリに尋ねる。彼女は片目を開き、しばらくこちらを見つめ、長く息を吸ってまた満足げに息を吐く。

「ありがとう、ノリ」もう一度ハグしながらささやく。

 

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