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スマートフォンで激変する通信業界

山本一郎(イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役)

2010年11月08日 公開 2022年08月17日 更新

スマートフォンで激変する通信業界

ソフトバンクモバイルの躍進

 9月7日にTCA(電気通信事業者協会)が発表した2010年8月末の携帯電話・PHSの契約者数では、累積契約数での市場シェアでソフトバンクモバイル(以下、SBM)が初めて20%を超えた。SBMといえば、テレビでの宣伝も盛んなとおりiPhone4をはじめとするスマートフォンが契約者数増に大きく貢献しており、データ通信量においてもデータ通信による顧客当たりの月間売上げが通話のそれを超えた。

 スマートフォンの利用はNTTドコモ、KDDIなど、SBMより上位のキャリアにおいても急速に広がっており、いわゆる「ガラケー」といわれたわが国独特の端末による携帯電話業界界隈が激変しはじめている。スマートフォンという、より普遍的で、高機能で、何よりネットワークに負担のかかる機器の普及によって、新しい技術トレンドや電波・産業政策が大幅に変わりつつあるのだ。

 総務省は増大するブロードバンド通信や携帯電話向け情報トラフィックに対応するため、土台となる電波の周波数帯域をより有効に活用する方策を模索してきた。その一つが周波数オークションであり、地デジ化にともなうアナログ放送向け帯域の開放である。

 周波数オークションとは、周波数帯域の利用免許を政府主導の競売を通じ、電気通信事業者に落札させて免許を与え、事業を行なわせるもの。有限な公共財である電波を有効利用するための手法として2001年ごろから他国の事例を参考に提唱され、アメリカでは07年にグーグルが応札するなどで騒ぎになった。

 効率的な電波利用と革新的な新規事業者の参入、さらには国家に入るライセンス収入という効果が得られる一方、高額な落札金額やその後の事業投資の拡大が通信キャリアに対して大きな負担となり、より多国籍な資本によって通信事業が牛耳られ、安全保障上の問題に影響を及ぼすなどの副作用も考えられ、わが国でも大きな議論の対象となってきた。

明確化する「NTTとそれ以外」

 しかし、実際にスマートフォンの利用がこのままのペースで拡大していくとすると、現在の携帯電話によるデータ通信量そのものも激増することは間違いない。さらには携帯端末向けマルチメディア放送という次世代の通信・放送インフラ双方を担う重要な政策テーマも控えている。V-High帯を利用した全国の携帯端末向けマルチメディア放送における開設計画の認定作業を、総務省案の提示なしに電波監理審議会が判断するという微妙な事態になったのも、デリケートな政策環境を示している。

 というのも、この認定対象となる事業者はたった一枠、ここにドコモ系とKDDI系の2社が名乗りを上げ、長時間にわたる公開ヒアリングを経て激しい論戦が繰り広げられたが、結果として電波監理審議会は9月8日、本件ではドコモ系を認定先として適当とする答申を打ち出した。これでメディアのインフラを担う事業者がほぼ決まったわけだが、次にはマルチメディア放送のソフト側の事業参入に関する議論が始まる。これら放送の受け皿は携帯端末であり、動画による配信が本格的に始まれば、文字や画像がメインであった携帯電話通信のトラフィックがいかに膨大になるかは想像に難くない。

 こうなると、物理的に基地局を増やす3Gから、データ通信向けの新規格であるLTE(3.9G)への移行を促すといった、かなり本格的な地殻変動が日本の通信業界を襲う一方、これらの新規の投資負担を通信各社がどう担っていくのかという根本的な議論が始まらざるをえない。というのも、すぐそこまできている次世代通信に真正面から取り組もうと思ったら、携帯電話業界2位の地位にあるKDDIですら、自己資本や技術的バックボーンでは設備の入れ替えと最適化だけでも対応できるかわからないからだ。前述のとおり、通信ニーズの大きいスマートフォンが急伸しているSBMは、文字どおり都市圏でデータ通信が滞る現象がすでに発生している。アンテナは5本立っているのに、データが落ちてこないという事態に陥っているのだ。

 結論として、次世代通信技術には早々にシフトしなければならないが、体力的にも技術的にも「NTTとそれ以外」という図式が明確化しはじめ、「それ以外」は資本を外部調達せざるをえず、技術的にも海外の有力ベンダーたるノキア、シーメンスやエリクソンといったパワフルな多国籍企業に頼らざるをえなくなる。しかしそれでも、日本人の恒常的なテレビ離れの行き着く先は、大量のデータ通信に支えられた携帯電話でのコンテンツサービス依存にほかならないのだ。まさに携帯電話社会先進国である日本の真価が問われているといっても過言ではない状況だろう。その出口はまだよくみえない。

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