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日高義樹・ワシントン情報 「アメリカは尖閣で戦う!」

日高義樹(ハドソン研究所首席研究員)

2013年02月19日 公開 2022年11月02日 更新

エア・シー・バトルが緊急事態に備えた計画を持っている

日高:確かに朝鮮だけでなく、台湾についても有事の緊急プランがあるはずですね。

イーデルマン:その通り、台湾についての有事計画があります。

日高:東シナ海や南シナ海で軍事的な緊急事態が起きた場合の対応策について話してもらうわけにはいきませんか。

イーデルマン:緊急計画については話したくない。私はすでに国防総省を辞めた身で、実際の計画には関わり合っていない。何が起きるかという仮定の質問に答えるわけにはいきません。それに緊急計画の内容をしゃべれば、そのまま敵である相手側に筒抜けになり、我々がどのような軍事行動を準備しているのかを知らせてしまうことになる。実際に戦闘が始まった時に不利になってしまう。

日高:しかしながら、緊急事態に備えた軍事対応策はきちんとつくってあるのですね。

イーデルマン:きっちりした緊急計画を持っていますよ。現在、国防総省にはエア・シー・バトル(空と海の闘い)という部局があり、我々が話し合っている戦争を担当している。このエア・シー・バトルの担当者は計画書をつくっているだけでなく、戦闘が起きた時の当事者になります。

エア・シー・バトルの担当者たちは、中国がいま進めているAAやADといわれるアメリカに対抗するための戦術にどう対処するか、実際の戦い方を検討しています。

中国はいま、艦艇を攻撃するクルージングミサイルや弾道弾を開発しており、アメリカにとって軍事的脅威になっている。中国の軍事力増強に対処する準備と行動がすでにとられているのです。

日高:分かりました。緊急事態の内容をしゃべりたくない理由は了解します。しかしながら、尖閣列島で軍事行動が始まった場合、アメリカは日米安保条約に基づいて日本を助けることになるのでしょうね。

イーデルマン:これまでも言ってきたように、日米安保条約はアジアの安全保障の基礎になっています。日米安保条約によって我々は日本を守る。日本の人は、この点について疑いを持つ必要は全くありません。アメリカは必要とあらば日本を防衛します。

日高:つまり、日米安保条約第4条、同盟国に対する攻撃は自分の国に対する攻撃と見なして反撃する、という条項を履行するわけですね。

イーデルマン:当然、そうなります。

日高:尖閣列島に対する攻撃をアメリカに対する攻撃と見なすのですね。

イーデルマン:その通りです。有事の際、アメリカはあくまで条約を履行し、条約に基づいて日本の安全を守るために戦います。最も重要な問題は、日本とアメリカがどのような軍事協力を行い、中国に対抗してどのような戦闘行動を分担するのかを話し合うことです。東シナ海、南シナ海においても共同責任と分担を決めることがきわめて重要です。

日高:しつこいようですが、この問題について、もう少しお聞きしたい。日本にとっては重大事で、国民の関心が高いのです。

イーデルマン:よく分かりますよ。どうぞ続けてください。できるだけのことをお話ししましょう。いつも私が主張しているのですが、同盟体制というのはどこの国とも同じです。

日高さん、あなたは日米安保条約第4条に言及しましたが、同じ条項がNATO条約の第5条にもあります。それによると、どのNATO加盟国に対する攻撃もNATO全体に対する攻撃と見なすことになっています。

ここ何年間もアメリカは、ヨーロッパの同盟国が攻撃された場合、あらゆる手段で対抗する準備を進めていると言い続けてきました。そして、それが条約を履行することを意味しているのだということを強調してきました。アメリカのこういった条約上の義務は、ヨーロッパ、アジアを問わず、同じです。

日高:それでは最後の質問をさせていただきます。あなたが言及したエア・シー・バトルの中身は、いったい何でしょうか。説明してくれますか。現在のアジアにおけるアメリカの戦闘計画とは全く違っているのですか。

イーデルマン:エア・シー・バトルの構想は、基本的にはヨーロッパにおける戦いと一緒です。しかしヨーロッパでは戦場が大陸であるため、空と陸、つまりエア・ランド・オペレーションでした。太平洋では、その地面が海と変わるのです。

問題は、どのような強力で有効な軍事的な対応と打撃を相手側に与えるかです。ソビエトの場合は強力なタンク軍団を有しており、その強力なタンク軍団を打ち負かすために、空軍と地上部隊が協力することが必要でした。ソビエト帝国はこれに対して軍事力を増強して立ち向かってきましたが、アメリカと西側の有力な軍事力によって敗れ、ソビエト帝国は崩壊しました。そして危機はなくなったのでした。

エア・シー・バトルというのはソビエトとの戦争とよく似ているものですが、全く同じというわけではありません。中国はいま、中国にアメリカ軍を近づけない、中国を攻撃する能力を与えない、という戦略目標を立て、艦船攻撃用のクルージングミサイルを開発強化していますが、これにどう対抗するか、アメリカと同盟国が共同してソビエトのタンク軍団を打ち負かしたような軍事力と技術力を開発し、中国の海軍力を打ち負かさねばなりません。このエア・シー・バトルというのは計画ではなく、実際の戦闘態勢です。つまり、緊急有事の対応策と言っていいでしょう。

 

日高義樹

(ひだか・よしき)

ハドソン研究所首席研究員

1935年、名古屋市生まれ。東京大学英文科卒。1959年、NHKに入局。ワシントン特派員をかわきりに、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長を歴任。その後NHKエンタープライズ・アメリカ代表を経て、理事待遇アメリカ総局長。審議委員を最後に、1992年退職。その後、ハーバード大学タウブマン・センター諮問委員、ハドソン研究所首席研究員として、日米関係の将来に関する調査・研究の責任者を務める。「ワシントンの日高義樹です」(テレビ東京系)でも活躍中。
主な著書に、『世界の変化を知らない日本人』『アメリカの歴史的危機で円・ドルはどうなる』(以上、徳間書店)『私の第七艦隊』(集英社インターナショナル)『資源世界大戦が始まった』(ダイヤモンド社)『いまアメリカで起きている本当のこと』『帝国の終焉』『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか」(以上、PHP研究所)など。

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