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人格を変える効果も? 「なりたい自分」を叶える服選びとは

小川仁志(哲学者/山口大学教授)

2013年05月24日 公開 2022年12月15日 更新

人格を変える効果も? 「なりたい自分」を叶える服選びとは

人々にとって、服装とは何なのか? なりたい自分になるには、どういった服を着ればよいのか? 哲学者の小川仁氏が、人格にも影響を与える「服選び」のコツについて解説します。

※本稿は、小川仁志著『眠れぬ夜のための哲学』(PHP研究所)から一部を抜粋し、編集したものです。

 

服を選ぶとは?

明日着る服のことが気になって、夜も寝られないということがありませんか? デートや大事な会議がある時など、特別な日はなおさらです。本当にあの服でいいだろうかと。

そもそも皆さんは、どうやってその日着る服を選んでいますか? おしゃれを楽しむ人は、その日のTPOに合わせて選んだり、気分によって選んだりするのでしょうね。その対極で、まったく無頓着な人は、毎日同じ格好をしたり、適当に手に取ったものを着たりするのでしょう。

私自身はどうかといいますと、やはりTPOでしょうか。月曜日は一週間の初めなので、割とかっちりと。水曜日はイベントなどで外に出ることが多いので、印象的なものを、金曜日は週末なのでよりカジュアルにといった感じです。

なぜTPOに合わせるかというと、服装は第一印象を決めるだけでなく、その人のキャラクターにもなるからです。いつも決まった衣装で出てくる芸能人などはその典型ですよね。

つまり、服装はその人の人格の一部なのです。ダークスーツを着ている人はカチッとした性格を、派手な色のシャツを着ている人は外向的な性格を表現しているのです。

 

服装はもうひとつの人格?

そしてその日の仕事に合わせて服装を変えるということは、その日の自分の態度や方針を服装から表現することになるのです。いくら真剣な雰囲気を出したくても、私たちは顔を変えることはできませんよね。表情は変えられても、それだけでは伝わらないものもあるのです。

髪型やメークにも限界があります。その点、服装であれば、いとも簡単にかつ大胆に印象を変えることができるのです。まるで仮面のような役割を果たすわけです。

仮面といえば、もともとラテン語で仮面を意味したペルソナという概念があります。英語のパーソンのことで、人格や個性を意味する語です。近代における個人の主体性や人権を重視する思想とともに確立されてきました。

現代では、人間があたかも仮面をかぶるかのように、対外的に複数の人格を使い分ける様を形容する心理学用語としても使われています。スイスの心理学者ユング(1875~1961年)の用法です。

服装とはこのペルソナと同じで、状況に応じて変えることによって、複数の人格を使い分けるための道具として利用できるように思うのです。そういわれてみると、カチッとしたスーツを着ると、人格までカチッとしたような気になりませんか?

あれは服装が人の一部になるのでしょう。よく「勝負服」などといいますが、服装を選ぶということは、その日自分が戦う相手や獲物に合わせて、武器を選ぶのと同じなのです。

そして生きるということは何らかの意味で勝負といえるので、私たちは毎日勝負服を選んでいることになるわけです。いわば、その日なるべき自分を選んでいるのです。

 

「なりたい自分」は服でつくれる

ちなみに私の場合、議論をする日は黒い服を選ぶようにしています。裁判官が黒い服を着ているのは、何ものにも染まらないという意味だそうです。

私も議論する際、人に流されず自分の頭でしっかりと考えるという意志の表れとして、あえて黒を選んでいるのです。これがなるべき自分のイメージです。

服装で人の心が変わるなら、逆に服装で人格をコントロールすることもできるのではないでしょうか? イライラする時は落ち着いた色やデザインの服を着てみたり、落ち込んでいる時は明るい色や遊び心のあるデザインの服を着てみたりと。

もちろん夜眠れない時もそうです。たとえば心が落ち着く淡い色みの、奇抜でないデザインのものがいいのでは? 基本的にはパジャマって、そのような色とデザインになっているような気がしますが。ぜひ一度お試しください。

[お題] 服を選ぶとは?
[哲訳] なるべき自分を選ぶこと

 

 小川仁志

(おがわ・ひとし)
哲学者、徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員(2011年度)

1970年、京都府生まれ。京都大学法学部卒業、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。
伊藤忠商事に入社するも台湾の民主化運動に啓発され退社。アルバイト生活をしながら司法試験を目指す。その後、名古屋市役所に勤務、哲学を学ぶために社会人大学院にかよい博士号を取得。商社マン、フリーター、市役所職員を経て哲学者へ、という異色の経歴を持つ。
また、商店街で「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している。専門は欧米の政治哲学。朝日放送『キャスト』レギュラーコメンター。

著書に『スッキリわかる! 超訳「哲学用語」事典』『7日間で突然頭がよくなる本』(ともにPHP研究所)『哲学カフェ!』(祥伝社黄金文庫)など多数。

 

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