【雑談力】いい会社は必ず「雑談」を大切にしている!
2013年06月05日 公開 2024年12月16日 更新
『THE21』2013年6月号より
<取材構成:山口雅之/写真:長谷川博一>
雑談が組織で果たす重要な意味とは?
「社長の時間は4倍速で進む」
アサヒグループホールディングスの泉谷直木社長は、常々、経営トップの激務をこう表現している。だから、今回の特集のテーマをぶつけるには少々勇気が要った。なぜなら、「雑談」はどう考えても効率や能率とは相容れそうにないからだ。
「雑談をしている暇があったら仕事をしろ」
もしかしたらそう一喝されるかもしれない……。ところが、そんな心配は杞憂にすぎなかった。それどころか、「雑談力は重要なビジネススキルの1つだ」と泉谷氏は言う。その真意はいったいどこにあるのだろう。
「雑談を禁じたら、会社でのコミュニケーションは、指示・命令だけになってしまいます。それでは『何をやるか』や『目標数値』といった基本的なビジネス情報が、上から下に一方的に伝わるだけです。しかし、伝えたからそれで良しとはなりません。仕事で大事なのは、伝えたことがどこまで達成できるかなのです。
『何をやるかは戦略で決まり、どこまでやるかは風土で決まる』という言い方がありますが、部下が伝えられた戦略をどこまで理解し、どの程度のモチベーションで臨むかを左右するのが、会社の風土。そして、成功に必要な風土を醸成するのは、答えを出す必要のない会話、つまりは雑談なのです。
私はそう考えるので、部下との雑談の機会はなるべく増やすようにしています。スケジュールを社員に公開し、社長室のドアをいつもオープンにしているのもその一環です。それで社員がやってきたら、たとえメールを打っている最中でも手を止めて、その場で必ず話を聞きます。さすがに社長室に茶飲み話に来る人はいません。皆きちんと準備をし、それなりの心構えでやってきます。だから、話を聞けば必ず仕事のヒントが見つかります。それなのに忙しいからと後回しにしたり、断わったりしたらもったいないじゃありませんか。自分の時間は自分さえ工夫すれば、あとでいくらでも取り返しがきくのですから。
それから、時間があれば現場に行って社員と話し、夜は一杯飲むようにしています。社員の人となりを知って、同時に自分のこともわかってもらう。これがいい風土づくりの第一歩。それには社長が雲の上の人ではダメなのです」
リーダーシップとは雑談で磨かれるもの
たとえば、営業職は商品の特徴や機能を熟知して、それを立て板に水のごとく説明できても、それだけでは売れない。商品と同時に自分という人間も売り込み、信頼してもらえて初めて結果につながる。だから、いい営業マンは用がなくても取引先に頻繁に顔を出す。もちろん、そういうときには雑談力はとても重要になる。さらにリーダーという立場においても、雑談力は不可欠の力なのだと泉谷氏は続ける。
「リーダーに必要な能力は、戦略構築力、目標達成力、リーダーシップの3つです。このうち研修などで身につけられるのは戦略構築力だけ。残りの2つはコミュニケーションを通してしか習得できません。そのコミュニケーションの中核にあるのが雑談力なのです。
目標達成力は、先ほどお話したように、部下と雑談を重ねることで組織の風土に馴染み、また、それを良くすることで高まっていきます。
また、リーダーシップを発揮するには、部下を説得するのではなく、納得させなければなりません。それには質問が有効です。『君の担当するお客様は、いまどんな課題を抱えておられるんだろう?』『そのために、君ができることとは何だろうか?』。このように部下に質問をしながら、やるべきことを本人に考えさせることが大切です。
こうした質問がスムーズにできるようになるには、やはり雑談の量が必要になります。リーダーは意識して部下との雑談を増やし、自らの質問の質を高めていかなくてはなりません」
雑談とは「言葉の炎」で化学反応を起こすこと
ここまで話をうかがってきて、日本を代表する企業のトップが、いかに雑談を重要視しているかがよくわかった。しかし一方で、雑談が苦手などジネスパーソンも少なくない。どうやってそのスキルを鍛えたらいいのだろう。
「まずは自分を飾らず、相手の話に虚心坦懐に耳を傾けることを心がけるべきでしょう。
それから、初対面の場合は、事前に相手の情報を入手しておくことを勧めます。私は、あらかじめ誰と会うかわかっている場合は、その人や家族の誕生日を調べておいて、日付が近いとわかったら花を持参するようにしています。ちょっとしたことですが、これで一気に相手との距離が縮まって、以降の会話が弾むこと請け合いです。
相手の情報が手許にないときは、『最近、何か面白いことはありましたか?』『困っていることは何かありますか?』といった質問から入るといいでしょう。面白いことや困っていることは、誰でも思い当たることがありますから、話のきっかけにはもってこいです。
あとは、何であってもその話題に興味を持ち、素直に感心することです。仕事に関係ない話であっても、無駄などと思ってはいけません。そもそも、何が無駄で何が無駄じゃないかなんて、あとになってみなければわからないのです。ちなみに私は、新聞や雑誌を読んでいて、この人に会いたいと思ったら、すぐに連絡を取って会いに行くようにしています。
雑談の「雑」には混ぜるという意味があります。それから「談」は「言」と「炎」という字からできている。混ぜ合わされた何かを言葉の炎で加熱して、新しいものを生み出していく。雑談というのは、本来そういう力強いものなのです。そして、混ぜるものが増えれば増えるほど化学反応は活発になり、思いもよらないものがそこから立ち上がってくる。それこそがいい仕事であり、それが人生の豊かさにもつながってくると私は思います」
泉谷直木(いずみや・なおき)
アサヒグループホールディングス〔株〕社長
1948年、京都府生まれ。1972年、京都産業大学法学部を卒業し、朝日麦酒〔株〕(現・アサヒグループホールディングス〔株〕)に入社。2003年取締役。広報部門や経営戦略部門を長く経験。常務酒類本部長時代には、「クリアアサヒ」などのヒット商品を生み出す。2010年にアサヒビール〔株〕社長。2011年7月の純粋持ち株会社移行により現職に就任。