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官房長官・菅義偉のマネジメント力

2013年08月16日 公開

菊池正史(日本テレビ政治部前首相官邸キャップ)

《PHP新書『官房長官を見れば政権の実力がわかる』より》

 

あるべき「政治主導」の姿

 「舞台回し」

 ある日、私が官房長官に就任した菅義偉にその役割を尋ねると、こんな答えが返ってきた。舞台に立って聴衆に呼びかけるリーダーを、舞台裏から支えるということだろう。演説の材料をそろえ、引き立たせるセット、照明を整える。そして、多くのスタッフをまとめていくのが役割。

 民主党政権への国民の失望が、自民党政権への「仕方がない支持」につながっていることも確かだ。しかし、第2次安倍政権では、菅の「舞台回し」がうまくいっている。菅にとって「舞台回し」の原則は「政治主導」だ。

 菅は、著者『政治家の覚悟』(文藝春秋)のなかで、枝野が官房長官を務めた菅直人政権について「従来の政治家と官僚の関係を全否定し、あろうことか官僚の排除に努めました。その結果、巨大な国家の運営に失敗した」と批判している。また、野田政権については「官僚との関係修復を図りましたが、今度は逆に官僚に取り込まれてしまい、総理の顔が見えないまま」だと指摘した。

 では菅にとって、あるべき「政治主導」の姿とは何か。

 「真の政治主導とは、官僚を使いこなしながら、国民の声を国会に反映させつつ、国益を最大限に増大させること」

 この理念を発揮するときが、さっそく訪れた。菅は、アルジェリア人質事件の際、邦人救出のために政府専用機の派遣を主導した。そのとき防衛省は、テスト飛行をしたことのない、初めての空港での離着陸になることを理由に首を縦にふらなかった。また、飛行ルートがロシア上空にかかるため、外務省がロシア政府に許可を取るのに一週間程度かかるという意見も出た。これを菅は一蹴する。

 「自衛隊のパイロットは予行演習しなければ離着陸できないのか。ロシアだって人命救助の飛行の許可に、そんなに時間をかけるはずがない。すぐに飛ばせないということは君らが仕事をしっかりしていないということだ」

 事件の発生は2013年1月16日。派遣の検討を始めたのは現地邦人の犠牲が明らかとなった19日。そして22日に、専用機は現地に派遣された。菅の一喝により、短時間で派遣が実現した。

 

派閥を渡り歩くなかで

 菅は1996年に初当選し、その当時、内閣官房長官だった梶山静六を政治の師と仰ぐ。梶山は菅につねづねこう語ったという。

 「官僚は説明の天才であるから、政治家はすぐ丸め込まれる。おまえには、俺が学者、経済人、マスコミを紹介してやる。その人たちの意見を聞いたうえで、官僚の説明を聞き、自分で判断できるようにしろ」

 しかし、この「判断力」は、一朝一夕に身につくものではない。菅は、度重なる政治的敗北と流転を経て習得することになる。

 菅は秋田県出身で、高校卒業後、集団就職で上京し、働きながら法政大学に通った。サラリーマン生活から議員秘書、市議も経験した叩き上げだ。初当選してからは小渕派に所属したが、1998年の総裁選では派閥トップの小渕氏ではなく、元官房長官の梶山静六を担いだ。梶山は、金融危機が叫ばれるなか、不良債権の処理を積極的に進めるハードランディング路線を主張していた。小渕恵三をトップに、派閥の大勢は、従来どおりの財政出動と金融緩和によるソフトランディング路線だった。

 菅は「あのときはハードランディングしかなかった」と、派閥の方針に反して梶山支持を決意したと語る。菅は当時をふりかえり「みんなで渡れば怖くないという、日本型の調整政治では日本がおかしくなる。風穴を開けようと思った」という。

 しかし、当時は派閥の論理がまだまだ生き残っていた時代。結果として梶山は敗北し、総理の椅子は小渕がものにする。

 菅は小渕派を脱退。元総理の池田勇人が創設し、数多の総理大臣を輩出した宏池会、当時は元幹事長の加藤紘一率いる加藤派へ移籍した。

 ところが、2000年、森内閣不信任案をめぐる「加藤の乱」が勃発。菅自身も、野中広務ら当時の自民党実力者5人、いわゆる「五人組」が水面下で誕生させた森政権には批判的だったという経緯もあり、加藤に同調する。しかし、森政権を支える野中らの逆襲にあって、この反乱劇は、あえなく失敗した。

 菅は加藤から離れて、同じ宏池会でも加藤に同調しなかったグループである堀内派、その後の古賀派に移籍する。

 派閥を転々としながらも、菅は安倍との関係を深めることになる。きっかけとなったのは北朝鮮問題だ。

<<次ページ>> 「安倍擁立の立役者」

iyashi

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