1. PHPオンライン
  2. 仕事
  3. 「丸見え経営」が価値観の共有を生んだ

仕事

「丸見え経営」が価値観の共有を生んだ

平本清(21〈トゥーワン〉相談役)

2013年09月02日 公開 2022年12月28日 更新

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年9・10月号 特集 「打てば響く組織」への挑戦 より》

 

――管理職も部署もなくした「人事破壊」が意味するもの

どんなに実績をあげようとも、年収の上限は一定。昇給は30歳でストップ。自分の給与やボーナスの額を社員全員が知っている。何年勤めても、絶対に店長にもなれなければ部長にもなれない。そんな「理不尽」な会社にもかかわらず、5年間の入社3年以内退職者がわずかに1名だという。
家族経営の零細企業の話ではない。社員170名、店舗数120を数える企業である。
社員が意欲を持って働き、画期的な商品を提案し続けるチェーン店「メガネ21〈トゥーワン〉」の共同創業者である平本清氏に、その経営哲学を聞いた。
<取材・構成:森末祐二/写真撮影:石田貴大>

 

ないないづくしの〝非常識〟な会社

 当社は〝非常識〟な会社です。

 肩書がまずない。2013年7月時点で170名の社員がいますが、専務も常務も部長も課長も係長もいません。社長はいちおういますが、あくまで対外的な肩書で、しかも4年の任期付き。社内ではだれも「社長」なんて呼びませんし、仕事は店舗での接客やメガネの調整など、ほかの社員と同じ仕事をしています。またルール上、社長より社員のほうが年収が高くなるケースもあります(後述)。

 社長以外には、現在の私のような “相談役” がいますが、これもおおぜいいるので、決して特別な存在ではありません。月給だって14万円前後ですから。

 肩書だけでなく、部署もありません。人事部、経理部、総務部、広報部……いずれも当社にはなく、本社的な業務はすべて、「21本部」のわずか8名の女性社員がこなしています。少人数でいくつもの役割を担っているからといって、コマネズミのように立ち働いているということはありません。出勤時間はフレックスで自由。連絡はほとんど電子メールですから、電話もめったに鳴りません。実にゆったりとした様子で仕事をしています。

 「チェーン展開をしているのだから、店長ぐらいいるだろう」と思われるでしょう。たしかに、店舗の責任者の役割を果たす人はいます。しかし店長はいません。店舗責任者は、万が一クレームが発生したときに矢面に立つ係であって、その店でいちばん〝偉い〟わけではないのです。

 社員たちにはノルマもありません。各店舗は売上予測は立てますが、それはあくまで予測であって、達成すべき目標ではないのです。だからといって、ぐうたら社員は皆無。皆、一所懸命に働いています。

 こうした “ないないづくし” の非常識な会社ですが、社員たちはモチベーション高く働いてくれているようです。2012年までの直近5年間の入社3年以内退職者がわずか1名のみ、という事実が、そのことを示していると思います。

 

あらゆる情報を “丸見え” に

 非常識ぶりは、まだ続きます。

 21では、ありとあらゆる情報をオープンにしています。もちろん社内向け、社外向けという一定の区分はありますが、社内向けに関しては、「21Network」という名称の社内ウェブを最大限活用して、ほんとうに何もかも “丸見え” にしているのです。会社の財務状況はもちろん、各店舗の損益、出店計画の進捗など、いま会社がどのような状態にあるのか、社員はすべて知ることができます。

 入社希望者や取引先、各メーカー、マスコミといった外部の方々との電子メールのやり取りについても、社内で共有すべき内容があるものは社内ウェブに掲載します。これにより、たとえばある社員が休んでいるあいだに、その人が担当する案件で問い合わせがあっても、他の社員がウェブを見て対応できます。これだけでもかなり業務の効率化が図れます。

 当社には稟議書もありません。重要事項を含むあらゆる提案は社内ウェブに書き込みます。反対意見があればだれでもそこに書き込めますが、特に反対の理由がなければ何も書きません。反対がないイコール賛成とみなして、その提案は提案者によって実行に移されるのです。いちいち会議を開く必要もないので、手間も時間も費用も省かれ、話が早い。「何日間反対がなかったらOK」といった決まりはありませんが、そのあたりは阿吽の呼吸で臨機応変に判断します。緊急の案件なら事後報告でもかまいません。

 あるとき、私は新店舗に適した約2億円の土地を見つけました。土地の取得を社内ウェブで提案したところ、特に反対意見が出なかったので、すんなり購入に至ったことがあります。当社の規模で2億円の投資は、経営に大きな影響を与える金額ですから、もし問題があれば、必ずだれかが反対意見を述べるはずですし、以前にはそうした例もありました。

 会社の経営方針も、社員からの提案も、いつでもだれでも書き込むことができ、だれでも反対意見を述べられる。あいだに中間管理職のような人を介さないので、全社員が即座に、かつ正確に情報を共有し、決定までのスピードも、周知徹底も、とにかく速い。「打てば響く」と言えば、これほど響きが感じられる会社は、そう多くはないのではないでしょうか。

 

全員の給与や賞与も〝丸見え〟

 丸見えにするのは会社の状況だけではありません。社員一人ひとりの評価(人事考課)のほか、給与や賞与をだれがいくらもらっているのかといったことまで、よほどプライバシーに関わることでないかぎり、すべて社内ウェブに掲載され、社員ならだれでも閲覧できます。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。

 

著者紹介

平本 清(ひらもと・きよし)

21 〈トゥーワン〉 相談役

1950年広島県呉市生まれ。高校卒業後、広島大手のメガネチェーン店に入社し、抜群の売上成績を収める。26歳で本店の副店長に抜擢され、その後商品部長、電算室長などを歴任。やがて社長交代劇に巻き込まれる形で解雇され、86年2月、同時期に退職した先輩社員とともに株式会社メガネの21(現株式会社21)を設立。これまで広島を中心に全国約120店舗を展開。ツルなしメガネ「Fit-mini」や鼻の上に浮くメガネ「Fit-NoPad」、補聴機能付き聴こえるメガネ「Fit-Sound」(開発中)などを自身で開発するとともに、常識では考えられない経営改革を次々と成功させている。

関連記事

×