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AOKI グループ創業者・青木擴憲の 「人間を磨き、格を高める経営」

青木擴憲(AOKIホールディングス代表取締役会長)

2013年09月20日 公開 2023年01月05日 更新

AOKI グループ創業者・青木擴憲の 「人間を磨き、格を高める経営」

《『何があっても、だから良かった』より》

人間を磨き、格を高める経営
〔その
14 変化対応力を向上させる

ダーウィンの進化論を知る

 「強いもの、賢いもの、大きいものが生き残るわけではない。変化に対応したものだけが生き残る」
 ダーウィンの進化論によれば、生き残ることができるのは、時代の変化に合わせて、自らを適応させたものだけです。
 学歴や経歴、地位、保有する資格にこだわらず、変化に合わせて対応していくことが重要です。

 2003年、創業 45年。売上高 740億円、営業利益高 47億円。売上高はピーク時の 89パーセント。営業利益高は半分近くにまで落ち込んだ。紳士服専門店業態の停滞期だ。ビジネスマンがそれぞれの分野で創造的な仕事を求められる時代。仕事で着るものも、スーツだけではなく、独自のスタイルに変化してきた。従来の郊外型紳士服専門店だけでは、お客様のご満足を追求しきれない。

 新業態「ORIHICA(オリヒカ)」がスタートした。ビジネスでもカジュアルでも着られるスタイル、独自のファッションを導入。標準化された 100坪前後の店舗、出店先はショッピングセンター。英国人クリエイティブ・ディレクター、サリーム・ダロンヴィル氏を迎え、次男・青木彰宏が創業した。当面の目標を 300店舗、売上高 500億円にすえた。

 試行錯誤の連続だ。斬新すぎるロンドンのファッションを展開し、顧客に見離され、不良在庫を大量に処分するという失敗もあった。しかしそれ以後、ORIHICAは堅実な独自ファッションスタイルを生み出し、ついに軌道に乗った。郊外型紳士服店では満足しない20代・30代の男女に支持を拡大した。

 進化のための試練は大きいが、それなくしては生き残れない。2012年には 100店舗を超えた。時代の変化に対応することが生き残る条件だ。しかし、それを実践し続けることは容易ではない。時代に挑み続けるチャレンジ精神が求められる。まさに一生挑戦だ。

 

慎重さと大胆さをあわせもつ

 時代の変化に対応して、思い切って変革するためには、慎重に調査を行ない、入念に準備をし、変えるときには一気に大胆に変えてしまう、決断と実行が必要です。

 2003年、創業 45年。ご縁があって、中京地区の紳士服専門店トリイと合併した。そのうちAOKIと同じ地区にあり、バッティングする10店舗を、何とかしなければならない。その2年前に複合カフェ事業を立ち上げていた。中京地区はマンガ喫茶発祥の地。その文化が行き渡っている。しかし、郊外にはほとんどない。バッティングする郊外の店舗を複合カフェ「快活CLUB」に業態転換させれば、車で立ち寄っていただける。快活CLUBを一気に拡大するチャンスだ。中京地区でのトリイの10店舗改装を含め、全国 50店舗の出店を決断した。

 投資が1店舗 5000万円、50店で 25億円かかる。ただし、その年の営業利益高はメンズの復調もあって 80億円の見込みだ。グループで計算すると、最悪の場合、複合カフェで利益がいっさい出ず、すべて損失となったとしても充分吸収できる。新業態開発にデッドバレー(死の谷)越えは当たり前だ。決断した。

 2004年にかけ、50店舗を一挙に出店した。駐車場が昼夜満杯になり、若い男女で溢れた。日経MJ専門店ランキング複合カフェの部、ダントツの日本一となった。

 慎重に計算し、大胆に決断することでしか、変化に対応して成長軌道に乗せることはできない。あの決断がなければ日本一にはなっていなかった。検討を重ねて、大胆に実行することが大きな躍進につながると確信した。

 

枠にとらわれない
自由な発想をする

 これまでの成功体験があると、その延長線で物事を考えてしまいがちです。しかし、それらの経験を一度すべて忘れ、自由な発想をします。世の中の変化に合わせたアイデアを生み出せる柔軟な心と、これまでとは全く違う発想に反対する方々を説得する強い意思を持つことが大切です。

 1998年ごろ、バブル崩壊後カジュアル化の波が強烈で、紳士服専門店ビジネスの成長が停滞した。だが、カジュアル業態では、その道のプロが全力を尽くしている。いたずらに進出すべきでない。では、時代の変化にどう乗るか。考えた。紳士服業態で磨き上げてきた接客業の業態特性の強みを、さらに磨き上げる戦略を取った。

 紳士服全盛期には、2階建ての店舗を多くつくっていた。広い売場面積が必要でなくなり、2階部分が空いた。どうしよう。考えに考えつくした。高度成長期、仕事一筋で頑張ってきた団塊の世代の子供たちが、25歳を越えてきた。彼らの生活はオンとオフの切り替えが見事だ。ビジネスシーンは、コンピュータ社会に変わった。オフには大胆に気分を換えないと、オンの能率が上がらない。カラオケでの大胆なオフが必要だ。

 空いている2階部分をカラオケに転換した。紳士服店の威厳を保つ立派な店舗に、「カラオケ」の赤いネオンが躍った。「なんてことを……」。戸惑いがあったことも確かだが、車の行列が道路に溢れている。「カラオケのお客様? 時代の変化とはこういうことか」。

 紳士服店のお客様はビジネスマン。オフのとき、同じ場所でカラオケを歌えるのは便利だ。スタッフ教育に力を入れ、接客力を磨き、リラックスしていただけるよう、これまでのお客様に尽くしきる強みを生かした。今後も時代に合わせ、枠にとらわれない自由な発想で変化に対応していかないと生き残れない。恐ろしさとともに、無限の可能性も感じる。


<著者紹介>

青木擴憲

(あおき・ひろのり)

株式会社AOKIホールディングス代表取締役会長

1938年、長野市生まれ。'58年「洋服の青木」を長野市で創業。'76年8月、現・AOKIホールディングスを設立。毎日日替わりで着替えることができるようにとスーツの流通革命を実現。'79年、全国にチェーン展開スタート。'91年9月、東証一部上場。以後、ブライダル、エンターテイメントと事業を拡大。2010年6月、代表取締役会長に就任。'13年3月期で連結売上高1,605億円、ファッション事業「AOKI」「ORIHICA」、結婚式場「アニヴェルセル」、カラオケ「コート・ダジュール」、複合カフェ「快活CLUB」、あわせて約1,000店舗を全国に展開するグループのCEOを務める。
2008年には、中国古典思想「四書五経」が説く人間として守るべき道徳や人生の哲学を、子供にもわかりやすく解説した家庭教育指導DVD「親子で学ぶ人間の基本」全12巻をプロデュース。家庭の道徳教育の教本として好評を博し、'10年に同DVD3,500セットを一般社団法人日本家庭教育協会に寄贈。また、中学生を対象とした「平成の咸臨丸」事業をはじめとする「卓越した国家経営者」育成の支援にも心血をそそぐ。

 

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