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テラモーターズの挑戦~失敗しなければ成長できない

徳重徹(Terra Motors[株]代表取締役社長)

2013年10月31日 公開 2023年01月05日 更新

 大手メーカーのエンジニア職を捨て、テラモーターズに飛び込んできた加藤真平も、大企業のスピードのユルさに絶望感を抱いて転職を決意した若者の1人だ。以下、加藤のコメントを紹介しよう。

 「そもそも就職活動の時点で、周囲の学生が何の疑いもなく大企業に流れていくことに違和感を覚えていました。

 といいつつ、自分もその流れに乗って大企業に就職。環境自体は悪くなかったと思いますが、僕の前に広がっているのは『闇』でした。本来の自分が持っていた『希望』と現実との間のギャップが違和感となって影のように自分にまとわりつき、いつも白昼夢の中で生きているような感覚……。

 毎日、とても苦しかったです。このまま友人と遊んで、彼女ができ、結婚して子どもを育てて、年を取り、子どもに夢を託して死んでいくだけの人生が待っているのかと思うと、暗澹たる気持ちに……。変化に乏しい毎日の連続に苦しみ、『今、俺はここで生きているんだ!! 』と実感できる仕事がしたくてたまりませんでした。たとえるならば、光も音も届かず、酸素もないたん深海にいるような感覚で生きていたのです。

 それが、徳重社長と出会い、テラモーターズと接点を持ち始めたとたん、深い海の底から水面に体が浮かび上がり、久しぶりにおいしい空気をたくさん吸ったような気持ちになったのです」

 深い海の底からよみがえった加藤は、入社してすぐに営業戦略・開発の最前線に放り込まれ、今では国内外を飛び回っている。とてもとても「白昼夢」なぞ見ている暇はあるまい。

 

本当のリスクは「なにもしないこと」

 とはいえ、若い社員に仕事を任せることには、もちろんリスクもある。テラモーターズでも、トラブルや小さな失敗は日常茶飯事だ。

 例えば以前、中国に1人で送り込んだ社員がホームシックにかかって自信をなくしてしまい、仕事が遅々として進まなくなってしまったことがあった。幸い、彼は自分でモチベーションを取り戻してくれたが、彼が自分を見失っている間、短期間ではあるが、中国での工場管理はうまくいかず、市場調査や人脈づくりは完全にストップしてしまった。人によってはこれを「失敗」と呼ぶかもしれない。「そんな若造に任せるようなリスクを冒すから、そうなるのだ」と批判する人もいるだろう。

 しかし僕から見れば、こんなことは大したリスクではない。むしろ、なにもしないでいるよりも失敗したほうがはるかにいい、とすら僕は思っている。失敗から学べることはとても多く、長い目で見れば失敗が資産になる場合だってあるのだ。

 それに、もし失敗したとしても、若いうちなら、いくらでも挽回するチャンスはある。事実、この社員はホームシックから立ち直った後、ちょっと周囲が驚くほど成長した。今、「次の駐在では『頼りない自分』に絶対にリベンジしてみせます」と宣言し、生き生きと働く彼の姿を見て、僕は、彼を1人で中国に送り込んだのは成功だったと確信している。

 そう、僕たちが本当に恐れるべきリスクは、「なにもしないリスク」なのだ。言いかえれば、リスクを恐れてチャンスを逃すことだ。こちらの人材が成熟するまで市場は待ってはくれないのである。

 

 

<著者紹介>

徳重 徹
(とくしげ・とおる)

Terra Motors 株式会社 代表取締役社長

1970年、山口県生まれ。九州大学工学部を卒業後、住友海上火災保険株式会社(当時)にて商品企画・経営企画等に従事。退社後、自費留学にて米Thunderbird国際経営大学院にてMBAを取得、シリコンバレーに渡り、コア技術ベンチャーの投資・ハンズオン支援を行なう。事業の立上げ、企業再生に実績を残す。帰国後、2010年4月にTerra Motors株式会社を設立。設立当初からグローバル市場で戦うことを前提に事業を進め、電動バイク、電動シニアカー市場で設立から2年で販売台数4000台を達成。国内のリーディングカンパニーの地位を築く。さらにベトナム、フィリピンにも事務所を構え、海外進出の足がかりをつくる。企業ビジョンとして「日本再生」を掲げ、日本社会、特に若者をインスパイアして、世界で勝負すること、高いハードルを乗り越え、リスクに挑戦することが当たり前の日本社会をつくることを志す。著書に、『世界へ挑め!』(フォレスト出版)がある。

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