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薬師寺『麻布著色吉祥天像』【和田彩花の「乙女の絵画案内」】

和田彩花(アイドルグループ「スマイレージ」リーダー)

2013年11月22日 公開 2015年04月24日 更新

 

余白の美しさ

 吉祥天像は8世紀、奈良時代に描かれたといわれています。

 髪にさしてある花のかんざしを見ると、この時代にもう、こんなカワイイものがあったんだなあと、嬉しくなっちゃいますね。

 自分をきれいに、かわいく見せたいという女性の気持ちは、いつの時代も変わらない。歴史の授業で勉強していたときにはとても遠い存在だった奈良時代が、急に身近な存在になったようです。

 絵に描かれている神様にまで親しみを感じます。

 私は絵画と出会ったことで、いろんなことに対して視野が広がりました。この『乙女の絵画案内』には、まだ絵画と本格的に出会っていない人にとって、絵の素晴らしさを感じるきっかけになったらいいな、という気持ちを込めているんです。

 仏像を拝観していると心が休まるし、癒されます。それは昔の人も同じだったのではないでしょうか。

 ちょっと疲れてしまったり、いろいろ考えすぎているときなど、お寺に行って仏像を前にすると、心が落ち着きます。自分が浄化されていくような感じです。

 吉祥天像も、観ていると気持ちが和らいできます。

 その理由は、やはりこの絵の繊細さにあると思うんです。

 この絵は実際に見てみると、とても小さく感じました。でも、約53センチメートル×31センチメートルの小さな空間に、これだけのものが描かれているのです。ものすごい情報量だと思います。日本人はやっぱりすごい!

 こんなに繊細な絵を描けるのに、背景など絵全体としては描き込みすぎず、余白を大事にするところも、日本的だなあと思います。

 西洋絵画だったら、背景にもいろいろ人物や風景などが描かれて、それがどんな場面であるかが一目瞭然になっていることが多いです。

 あえて具体的に描かず、答えを出さない。観る人に考えさせるように描くのが、日本のよさなんですね。

 吉祥天像に出会えたことで、私は日本をいろいろな角度から知り、考えることができるようになったわけです。

 

仏画や仏像の魅力

 いままで自分が気づかなかったことに気づいたり、見えなかったものが見えてくるのはとても楽しいことです。

 仏画や仏像は、その魅力に気づかないうちはちょっと地味に感じる気持ちもよくわかります。

 駅などに展覧会のポスターが貼ってあっても、西洋の有名な画家たちの絵ほどわかりやすくは目に飛び込んでこないでしょう。

 当たり前すぎて、見えないのかもしれません。

 私は最近、お寺でもらえる御朱印を集めることに夢中です。一冊の御朱印帳に、寺院を拝観するたびに押していただいています。

 それを観ていると、ここはこういうところで、こういう仏像を観たなあとか思いだします。そして、心が癒されるんです。知らない人から見たらただの文字なのに、それが絵を観ているように感じられる。

 私のなかでどんどん大きくなっていく日本。もちろん西洋絵画との出会いもこれからもたくさんあるだろうし、大好きなことに変わりはないのですが、日本をもっと知りたいです。

 みんなにも、奈良や京都をもっと意識してほしいな。おいしいものを食べに旅行するのも楽しいですが、寺社仏閣もただの観光地として行くだけでなく、仏像や仏画、日本画にも目を向けると、そこから素敵な世界が広がってきます。

 ひとつだけさびしく思うのは、お寺で仏像や絵がガラスケースに入って展示されている場所が多いこと。もちろん国宝や天然記念物の安全を考えれば、それがいちばんだとは理解できるのですが、本来の仏像や仏画の役割を考えると、やっぱりふさわしい場所で対面したいなと思うのです。

 ガラスケースのなかだと、どうしても作品として観てしまいがち。でも仏像や仏画は、ほんとうはもっと観ている人と距離が近いところにあって、だからこそ癒されたり、いろいろなことを考えたりできるものなのではないでしょうか。

 人の信仰のためにつくられ、描かれたということを忘れてはいけないと思います。

 芸術は何のために生まれたのか。だれがどんな想いで描いたのか。そうした背景にも想いをめぐらせることで、また新たな世界が見えるはずです。

 

<著者紹介>

和​田彩花(わだ・あやか)

1994年8月1日生/A型/群馬県出身

ハロー!プロジェクトのグループ「スマイレージ」のリーダー。

2009年、スマイレージの結成メンバーに選ばれ、2010年5月『夢見る 15歳』でメジャーデビュー。同年の「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。近年では、SATOYAMA movementより誕生した鞘師里保(モーニング娘。)との音楽ユニット「ピーベリー」としても活動中。高校1年生のころから西洋絵画に興味をもちはじめ、その後、専門的にも学んでいる。

スマイレージ公式サイト
和田彩花オフィシャルブログ「あや著」

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