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部下指導のコツ~「きみに任せた」の正しい使い方

2014年04月22日 公開

本田有明(本田コンサルタント事務所代表)

《PHPビジネス新書『上司になってはいけない人たち』より》

 

優秀な人材は有能な上司になれない?

 

ソニーの創業者が指摘した2つのタイプ

 上司の最大の役割は部下の問題解決を支援することだ。金額の多寡は別として、それは給与にも反映されている。

 「その割には大した給与はもらっていない」と反論したくなる人もいるに違いない。総じて人件費が抑制されている時代環境を考えれば、その気持ちは理解できる。が、それでもやはり上司の給与には、部下育成に対する報奨の意味合いが含まれているのだ。

 長く同じ職場に勤めていれば徐々に年収が上がってゆく。それが官民を問わず勤め人の常識のように思われてきたが、よく考えてみれば決して常識とはいえないことがわかる。

同じ仕事をしていて給与が自然に上がるためには、その人の技術なり能力なりが年々向上するという前提がなければならない。右肩上がりの実績があってこそ、給与も比例して右肩上がりの曲線を描く。

 しかし現実はどうだろうか。20代より30代、30代より40代と、私たちの技術や能力は確実に向上するだろうか。

 向上する人もいれば、しない人もいる。そこは十人十色、千差万別というところだが、それでは一律の右肩上がりの給与など望むべくもない。近年は個人成果主義による能力給の要素が高まり、一律とはいえなくなったものの、年収の平均的なカーブを見れば、やはりゆるやかな右肩上がりにはなっているはずだ。

 その上がり分をどう解釈すればよいか。ひとくちにいえば組織に対する貢献度である。はるか昔の成長期の時代には、在職しているだけで貢献と見なされ、それが年功として評価の対象になったが、もはやこの論理は通用しない。評価の対象となるのは、抜きんでた個人の能力か、人を通じて発揮される集団的能力かである。

 そのへんのところを、ソニーの創業者・井深大はこんなふうに指摘した。

 「人間には2種類ある。本人のもっている能力がひじょうに高い人と、本人の能力自体はたいしたことがなくても、人をまとめて大きな仕事ができる人と」(『井深大語録』小学館文庫)

 専門職として他の追随を許さない独創的な仕事をするか、管理職として部下をまとめて「1十2=5」のような相乗効果を発揮するか、ということだ。

 

切れ者の上司のもとに部下は育たず

 「他の追随を許さない独創的な仕事をする」とは、耳に心地よい表現だが、そんな人物はめったにいるものではない。極端にわかりやすい例をあげれば、島津製作所の係長(当時)としてノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏のようなタイプである。田中氏は、研究に没頭したいからと昇進を辞退して「わが道」を歩んでいた。言葉は悪いが、一種のオタクといってもよい。

 飛び抜けたオタクであれば、周囲から一目も二目もおかれるが、本物の「飛び抜けたオタク」はどこの会社でも少数だ。それよりは、井深大のいう「本人の能力自体はたいしたことがなくても、人をまとめて大きな仕事ができる人」をめざすほうが成果をあげやすい。自分に1の力しかなくても、やり方しだいで「1十2=5」が実現可能になるのだから。理想は専門職として優秀な人材であり、かつ有能な上司でもあることだ。よくそんなふうにいわれる。もっともな話だが、現実はどうか。

 筆者の経験の範囲で見れば、優秀な専門職の多くは有能な上司ではない。専門職としては「並」のレベルだが上司としては有能だという人なら、けっこう存在する。それに比べると、前者の割合はどうも低いといわざるをえない。なぜか。

 自分自身が優秀な専門職は、あまり優秀ではない後輩のめんどうを見る忍耐力に欠ける傾向があるからだ。当たり前といえば当たり前のことだ。なんでも自分でやってしまうほうが早いし、仕事の質も高い。レベルの低い者に合わせて仕事を教え、成果があがるのを気長に待つことは、優秀な人にとっては苦役に近い。

 だから、極端にいうと「切れ者の上司のもとに部下は育たず」となる。

 例外はいくらでも見られるし、筆者自身それを望むものだが、にもかかわらずこの命題には一定の法則性が感じられる。

 

部下と協働する姿勢はあるか

 部下のめんどうを見ない切れ者(優秀な専門職)よりは、部下のめんどうを見る「並」の人材のほうが、上司としてはまだよい。なぜなら、切れ者の多くは部下のめんどうを見ないだけでなく、部下の仕事と成長の機会を奪ってしまうからだ。

 歯ごたえのある仕事や難度の高い仕事は自分で要領よくこなしてしまい、部下にまわすのは雑用レベルの仕事ばかり。意欲の乏しい部下にとっては、もっけの幸いだろうが、それは成長の機会を阻まれているということで、ツケはやがて明らかになる。

 切れ者の上司がその部署に在籍するあいだは、彼ひとりの力でそれなりに実績をあげるから、問題は表面化しない。表面化するのは人事異動が行われた後だ。

 「きみたちはいままで何を学んできたんだ?」

 新たに上司となった人は、その部署全体の能力の低さに唖然とする。それまで骨のある仕事を任されなかったがために、人材が戦力として育っていなかったのだ。

 対して、それほど優秀ではなくても部下のめんどうを見る上司のほうは、少なくとも部下の成長の機会を奪うことはしない。仕事を与え、自分ができる範囲内の支援をすることで、最低限の責任は果たす。

 当人に大した能力はなくても、部下と協働しようとする姿勢があれば、部下の側もそれに応える。つまり組織が活性化する下地はできるということだ。切れ者の上司以上に大きな成果が生まれる保証はないものの、管理者としての役割は果たせるのである。

 

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