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自己保身に走った「大本営」

上杉隆(ジャーナリスト)

2011年04月25日 公開 2022年08月18日 更新

自己保身に走った「大本営」

日本全体の信用を失墜させた

 東日本大震災は、大地震というよりも世界的な原発事故として認められるようになってしまった。

 3月18日、原子力安全・保安院は、国際原子力事象評価尺度(INES)の評価レベルを5まで引き上げた。これによって、1979年の米国スリーマイル島での原発事故に並び、国際的には、今世紀最悪の原発事故になったことが確定した。

 だが、すでに事故発生直後から、フランスや北欧などの国や機関では、それ以上に深刻ではないかという認識が広まっていた。国際原子力機関(IAEA)の委員のなかからも、チェルノブイリのレベル7には及ばないものの、レベル6に相当するきわめて深刻な事故だ、という声も挙がっている。

 そこで、私は海外の認識とのギャップを埋めるため、そのことを繰り返し繰り返し、首相官邸に直接、訴え続けた。あらゆるチャンネルを使って、声を挙げた。それはまだ、1号機の爆発前であった。

 だからであろうか、そのとき以来、「デマを飛ばすな」という批判が多く飛ぶようになった。だが、そうした専門家や政府高官やマスコミの記者たちにいいたい。いまはどうなっているのか? と。

 いずれにしろ、事故レベルは5を超えたことで、今後、世界中の人びとにスリーマイル、チェルノブイリと並んで、フクシマという地名がその記憶に刻まれることであろう。

 このことによる損害は計り知れない。おそらく福島産の農産物などの食料品は、今後しばらくのあいだ、決定的な風評被害に晒されることだろう。それだけではない。海外からみれば、関東、いや日本全体の信用の問題になってしまっている。

 こうした国家の信用を失墜させたのは、直接的にはもちろん「3・11」の大地震である。だが、それだけではない。大地震だけで日本産の農産物が売れなくなるということはありえない。

 問題の責任は、自己保身に走った「大本営」ともいうべき、政府・東電・記者クラブの三者にある。

 東日本大震災が大震災であることに疑いはない。だが、福島第一原子力発電所の事故に関しては、初期対応の遅れ、拡大する被害状況といい、「人災」のにおいをプンプンと放っている。

「まったく心配ない」(枝野長官)と言い切っていた政府も、1号機、3号機、2号機、4号機と放射能漏れを起こし始めると、さすがに気づいたのだろう、東電との統合本部を設置し、ようやく一元化したうえでの対応を始めたのだ。それが地震発生4日目のことだった。それでも放射能漏れは問題なく、被害が及ぶことはないと言い切っていた。

「人災」の補償は誰が払うのか?

 ちょうどそのころ、政府、東電、原子力安全・保安院、大手メディアは繰り返し、「未曾有の天災」という言葉を多用し始めた。早くも自らの責任を免れるためのプロパガンダが始まったのだ。その狙いは、このひどい「人災」を、あくまで前例のない未曾有の大天災に仕立て上げ、あらゆる面での免責を求めていくことにある。

 とりわけ、本丸である東電の記者会見に出ると、その狙いは明白であった。言葉の端々に「未曾有の」「前代未聞の」が付け加わる。

 その言葉を聞いて、私はすぐにラジオやツイッターなどのメディアで、「東電は免責を狙ってきている。この酷い事故の責任を国民に負わせようとしている。これは天災ではなく人災だ」と主張してきた。そして、政府と東電が狙っている「免責」を指摘したのだった。それは次の法律に基づくものだ。

「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない」(原子力損害賠償法第2章第3条の1)

 ポイントはもちろん後段の部分である。これだけの被害を出しているにもかかわらず、東電はいっさい責任を取らなくて済む可能性があるのだ。

 その点への怒りを沸騰させ、この原稿を執筆していたところ、次のようなニュースが報じられた。

「政府は20日、東京電力福島第一原発の事故について、原子力事業者による損害賠償を定めた『原子力損害賠償法(原賠法)』の例外規定を初めて適用し、被害者の損害を国が賠償する方向で検討に入った。補償対象は、避難と屋内退避指示が出た住民約22万人のほか、営業に支障が出た企業や風評被害を受けた農家なども含まれ、政府内には国の賠償総額は1兆円を超えるとの見方が出ている」(共同通信)

 なぜ、この「人災」の補償に国民の税金が使われなくてはならないのだ。東電の責任は決して免れるものではない。

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