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高橋洋一・ブラック企業も減る!アベノミクスの効果とは

高橋洋一(政策工房会長/嘉悦大学教授)

2014年11月26日 公開 2022年11月02日 更新

『アベノミクスの逆襲』より》

 

失業率を大きく下げる役割を担うのは「厚生労働省」ではない

 日本で「失業率を大きく下げる役割を果たすのは、どの役所?」と聞くと、ほとんどの人は「厚生労働省」と答える。マスコミの記者の人たちも厚生労働省だと考えている。

 アメリカで記者たちに同じ質問をすると「FRB」と答える。それが正解だ。失業率を大きく左右できるのは中央銀行、日本でいえば日銀である。

 残念ながら、厚労省の政策で失業率が大きく下がることはない。ハローワークがどんなに頑張っても、失業率の大幅改善にはほとんど関係ない。失業率の絶対水準を左右するのは金融政策だ。金融政策によって失業率は下がっていく。

 ただ、どんなに優れた金融政策をしても、一定のところから先は失業率は下がらなくなる。3%の前半あたりで止まる。そこから先は、雇用のミスマッチの問題などがある。その部分を担当するのが厚労省だ。ミスマッチを減らすという点では厚労省の施策は意味があるのだが、失業率の水準を大きく増減させるほどのインパクトは持っていない。また、ミスマッチは個人個人の問題なので、簡単には解決せず、厚労省がどんなに頑張っても限界がある。

 失業率を改善させるのは、厚労省ではなく、日銀の仕事である。日銀の金融政策の目的は失業率改善である。

 もちろん物価の安定といってもいいのだが、物価と失業率は連動している。数値が連動しているときには、数学的には一つの数値だけをいえばいいことになる。

 世の中の人にとって最も大切なことは「物価」より「雇用」だと思う。だから私は、経済政策の中で指標を一つしか選べないとしたら「失業率」を選ぶ。

 その視点で見ていくと、アベノミクスの第一の矢(金融政策)の最大の効果は、失業率を改善し、就業者を増やしたことである。

 民主党政権の前は、失業率は4~5%程度で、仕事に就いている就業者数は6300万人くらいだった。鳩山由紀夫政権以降の民主党政権下で失業率は5%台が続き、就業者数は6280万人程度にまで減少した。第二次安倍政権が誕生して以降は好転し、失業率は4%台から3%台まで低下している。就業者数も6360万人程度へと上昇傾向である。2014年7月の就業者数は6363万人で、前年同月比20カ月連続の増加となっている。失業率は3.5%である。

 失業率が下がれば、自殺率や犯罪率が低下することが知られている。生活保護率も下がる。問題となっているブラック企業も求人が困難になって、自ずと淘汰されていく。いずれにしても、失業率は最も重要な指標である。

 アベノミクスの効果として「株価」がよく注目されるが、アベノミクスの最大の成果は「失業者を減らした」ことである。この点を見過ごしてはいけない。

 

デフレを解消しないままの雇用政策は、むしろ逆効果の可能性もある

 デフレの時代が長く続き、不安定な非正規雇用が増えたことで、厚生労働省などが非正規社員を正社員にさせる法規制を強化し続けてきた。非正規社員で一定年数働いたら、継続雇用をするには、正社員として雇わなければならないという規制だ。

 こういう労働政策は単に現象に対応しているだけで、結果として大きな効力がない。デフレを解消しないで法規制することは、むしろ歪みやひずみを生み、ブラック企業を増やす可能性がある。

 雇用政策に血道を上げたがる人々は、「デフレは脱却できない」という思い込みがあるから、表面的な規制を強化しようとするのだろう。

 だが、デフレ下では、できるだけ労働コストを安くすることが企業にとって合理的な行動になってしまう。無理に正規雇用にさせると、どこかでコストを削ろうとするから、社会保険料を払わなかったり、精神的に追いつめて辞めさせようとしたりする会社が出てくる。つまり、ブラック企業が増えてしまうのだ。それでは何のために正社員にさせたのかわからなくなる。おそらく他にも水面下でいろいろな違法行為が横行するだろう。

 デフレ下では、企業にとって従業員を正社員にするインセンティブが何もない。政府が規制しても企業は政府の意図どおりには動かない。隠れてブラック化する恐れがある。

 デフレを止めれば、正社員にしないと人が集まらず企業は競争に敗れる。デフレが解消された環境下では、デフレ下と状況が反転して、正規雇用を進めることが企業にとっての最適行動となる。規制をしなくても、正社員を増やさざるをえなくなる。

 デフレ下で無理に対症療法をすると歪みを生む。非正規雇用を多く生み出す理由の根幹であるデフレをなくすことが、労働政策として最も効果が高いのである。

 アベノミクスのデフレ脱却は、ここに手を打ったといってよい。デフレ脱却がブラック企業潰しにも大きな役割を果たす。

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デフレさえ止めればブラック企業の頭の悪い経営者は淘汰される

著者紹介

高橋洋一(たかはし・よういち)

嘉悦大学教授

1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科、経済学部経済学科卒。博士(政策研究)。1980年、大蔵省に入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣参事官などを歴任。2008年、退官。著書に、『日本人が知らされていない「お金」の真実』(青春出版社)ほか多数。

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