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「英語もできないノースキル文系」は、資格で武装すべきか?

大石哲之(ビジネスコンサルタント/作家)

2015年01月05日 公開 2023年01月30日 更新

《PHP新書『英語もできないノースキル文系はこれからどうすべきか』より》

 

英語もできないノースキル文系は、資格で武装すべきか?

 資格について書いておきましょう。英語もできないノースキルの文系は、ともすれば、じゃあ資格をとればスキルアップになるだろうと考えがちだと思います。

 ノースキルの反対が「資格」というわけです。

 しかしながら、資格がスキルかというと、実際のビジネスの世界ではそうではありません。すでに社会で仕事をされている人なら、たんなる資格にはなんの意味もなく、実際に仕事に役立ってはじめて意味をなす、ということを知っているはずです。

 ただ、資格は役に立たないと知っている社会人ですら、MBAに対しては憧れがあります。MBAはほかの資格とは違う、という思いがあるのか、せっせと週末のMBAスクールに通って、それを武器に転職活動を、ともくろんでいる人もいます。履歴書にでかでかとMBA取得、と書いている人もけっこういます。しかし、ほとんどのMBAの学位は、せいぜいカルチャースクールや、ワイン教室を卒業したのとおなじ程度の評価しか得られていないのです。

 このあたりの事情を、ていねいにわかりやすく、一から説明したいと思います。

 資格は、大別すると4つに分かれます。

 まず「国家資格とそうでないもの」で分ける、というのがわかりやすいと思いますが、さらに厳密に「その資格がないと業務ができないもの」つまり法律の要請があるものと、ないものとで分けたほうがよいでしょう。

 たとえば、医療行為は医師免許が必要です。訴訟の代理人になるには弁護士資格が必要です。そんなだいそれた資格でなくても、車の運転も運転免許が必要です。電気工事をするには、電気工事士の資格が必要ですし、飲食店を開業するには調理師の免許が必要です。

 これらは法律の要請であり、とにかく資格がなくてはその業務ができない、許可されていないという意味で、独占的な意味を持つ資格です。これを「免許、ライセンス」と呼びます。もし、それらの業務が、高い賃金が保証されていて、ライセンスのハードルに守られていれば、ライセンスを習得さえすれば食べることができる、ということになります。

 まさに多くの人が考える「資格」とは、このライセンスのことでしょう。

 

資格で得られる「シグナリング効果」とは

 また、これらの高難易度の資格には別の効果があります。医師や弁護士といった資格の取得は難しいため、資格に合格したのであれば「頭のいいやつ」と思われるというシグナリング効果があります。

 シグナリング効果とは、経済学の用語なのでなじみがないかもしれませんが、こういうことです。中身がわからないものに対して接するとき、その中身そのものではなく、外見的なもので評価を代替することがあります。

 たとえば、飲食店の場合。はじめて入る飲食店の場合、味はわかりませんので、そのお店のデザインや立地(銀座にあるとか)など、外部からわかるようなもので評価を代替します。それとおなじで、人を採用する場合、とりわけ新卒採用がそうですが、実際に仕事をしたことのない未経験者を採用するので、できるかできないかということが判断できません。そのため、代替の指標として、典型的なのは学歴という別の指標をつかうわけです。このとき「学歴はシグナリング効果がある」といいます。

 資格のなかにもシグナリング効果があるもの、ないものがあります。

 たとえば、医師や弁護士という資格は、シグナリング効果があるといえます。弁護士でしたら、相当の難関である司法試験を突破しないといけないわけですから、それなりに優秀な人材であることをシグナリングできます。

 ですから、ライセンスであり、シグナリング効果があるもの、つまり医師や弁護士といったものが、資格の王様だといえましょう。

 一方で、ライセンスであっても、シグナリング効果がないものもあります。典型的なのは運転免許です。運転免許はライセンスなので、これがなくては車の運転は許されませんが、免許のハードルは極めて低く、シグナリング効果がまったくないというものです。

 まさか普通の人は、運転免許をとったらキャリアになるとは考えていないと思います。だれでも取得できるからです。

 このような構図のなかで、資格のワナになるのが「中間の難易度の資格」です。運転免許ほど簡単ではないので、資格としてありがたみがありそうですが、弁護士のように難関ではないので、取得したところで優秀さをアピールできるほどでもないというものです。

 こういう資格をむやみやたらにとる、という行為は、時間とお金のムダです。資格をとるためにはそれなりの時間をかけて勉強しないといけませんし、教材を買うお金もかかるでしょう。時間とお金をかけて取得しても優秀とは見なされず、シグナリング効果はゼロなのです。

 そして、これらの中難易度の資格は、専門的で範囲が狭いので応用もききません。

 たとえば通関士。取得するには覚えることがたくさんあり、それなりにめんどうな資格です。しかし、超難関でもなく手の届く範囲の資格なので、勉強して合格しようという「誘惑」にかられます。

 ですが、よく考えてみてください。貿易の仕事をしているわけでもないあなたに、本当に通関士資格が必要ですか? 将来、貿易関係の会社に勤めて、国際貿易にかかわったとき、実務上で必要があればそのときに取得してもいいんじゃないでしょうか。

 もちろん、どうしても通関の仕事がしたくてそれだけがやりたいと思っている人は、通関士をとって、通関の仕事の募集にひたすらアタックするのもありです。

 しかし、通関の仕事をしたいわけでもないのに、そういう資格をとって、シグナリングとして活用しようと思っても、その効果はゼロです。

 資格の帝王みたいな人がたまにいますが、そういう人はこういうタイプの中間の資格をたくさん持っています。なので、いくら持っていても、シグナリングとしての効果はゼロです。

 資格取得だけで自分の能力を誇示したければ、ほんとうの帝王は、医師、弁護士、公認会計士の3つの資格を1人で持つということです。そうしたらスゴイと思われます。しかし、実際には資格の帝王みたいな人は、100個も資格を持っているのにもかかわらず、弁護士1つの資格すら、持っていない場合のほうが多い。100の中間難易度の資格を集めるより、弁護士1つのほうがアピールできるのに。なんででしょうね。まあ、弁護士は受からないから、受かる資格ばかり受けているんでしょうけども。

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著者紹介

大石哲之(おおいし・てつゆき)

ビジネスコンサルタント、作家

1975年生まれ。慶應義塾大学卒業後、株式会社アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。株式会社ジョブウェブの創業を経て、株式会社ティンバーラインパートナーズ代表取締役(現職)、株式会社タグボート監査役(現職)、一般社団法人デジタルマネー協会理事。現在はコンサルタントとして経営の支援や創業などにかかわる一方、海外に移住し、場所・時間・国家にとらわれないライフスタイルを実践し、作家ヴロガーとしての活動を通じて情報を発信している。著書に『3分でわかるロジカル・シンキングの基本』(日本実業出版社)、『過去問で鍛える地頭力』(東洋経済新報社)、『ノマド化する時代』『コンサル一年目が学ぶこと』(以上、ディスカヴア-21)など多数ある。電子書箱では『コンサルタントの読書術』『英語もできないノースキルの文系学生はどうすればいいのか?』(以上、tyk publishing)で2度のキンドル総合1位を獲得し、話題を呼んだ。

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