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豊田章男×塚越寛 理想の経営を語ろう

『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』編集部

2015年01月20日 公開 2023年01月05日 更新

かたや、年間生産台数1,000万台、売上25兆円、営業利益2兆円超という世界一の自動車メーカー。かたや、創業から48年間連続で増収増益を続けた実績を持つ寒天メーカー。業種や規模は違えど、どちらも驚異的な実績を残す企業を率いるトップ2人が、その経営哲学において互いを認め合い、尊敬し合う。「年輪経営」をキーワードに、「急成長はしない」「一年一年、少しずつでも確実に前に進む」ことを志向する両経営者が、幸せを生み出す次代の経営のあり方について存分に語り合った。

<取材・構成:江森 孝/写真撮影:永井 浩>

 

会社が成長することで世の中がよくなるのが理想

塚越 いやあ、こんにちは。またお会いできてうれしく思います。

豊田 ようこそお越しくださいました。遠路ありがとうございます。それにしても会長はお元気ですね。おいくつになられましたか。

塚越 昭和12(1937)年生まれの77歳です。

豊田 えっ、奇遇ですね。当社も2014年で77歳です。

塚越 そうでしたか。これもご縁ですね。これまで社長には何度か非公式にお目にかかっていますが、きょうは雑誌の対談ということで、ほんとうに楽しみにしてまいりました。私は章男社長のファンですから(笑)。

豊田 おそれ多いことです。私は経営者としてはまだまだ駆け出しで、経営の世界の大先輩である塚越会長からいろいろなことを学ばせていただいています。きょうもたくさんの教えをいただきたいと、張り切ってまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。

塚越 私のほうこそ、よろしくお願いいたします。

塚越 トヨタ自動車の2014年3月期決算発表での社長のお話を聞いて、私はうれしく思いました。「今後は無理な拡大はせず、持続的成長をめざす」とおっしゃいましたね。

豊田 はい。無理をして急成長しても、そのあと急降下してしまえば、多くの方にご迷惑をおかけします。リーマン・ショックによる赤字転落などを経て、どのような局面にあっても一年一年、着実に「年輪」を刻んでいく「持続的成長」こそが最も大事だと学びました。決算発表では、そんなお話をさせていただきました。

塚越 急成長がよしとされることが多い現代の経済界にあって、世界一の自動車メーカーの社長さんがそのように発言されたのを、私はほんとうに感慨深く拝聴しました。というのも、私は常々、会社というものは生物と違って終わりがなく、永遠に続くことが大前提であり、また理想だと考えているからです。そして、そのためにどうすべきかを考えることこそが経営の本質ではないかと思っているからです。会社が永遠に続くためには、ある程度の規模になったら成長を急ぐことはないという気がするのです。その意味で、あの発言には諸手を挙げて賛成でした。

豊田 ありがとうございます。私が会長に非常に共感するのは、今言われたように、企業はやりようによっては永遠に生き続けることができるというふうにお考えになっている点です。それはすなわち、たとえ少しずつでも確実に成長し続けるということです。

 ただ、その場合の成長とは、たとえば当社であれば、「トヨタが成長すると世の中がよくなる」と言っていただけるようなものが理想だと思います。

塚越 同じ「成長」という言葉にも、いろいろな意味があるということですね。決算発表の場で、社長は今期(2014年4月~2015年3月)を「意思ある踊り場」と表現されましたね。これはすばらしい言葉だと思いました。成長するために、あえて踊り場をつくる。そこでは過去を振り返り、これからさらに堅実に成長の階段を登っていくために一呼吸置く。登り続けると息が切れますものね。

 実は私は、決算は本来、3年に1度くらいでいいのではないかと思っています。決算のための経営ではなく、永遠に終わりがない経営をするには、それくらい長いスタンスで見ていかなければいけないような気がするからです。

豊田 まさしくおっしゃるとおりだと思います。一年一年の決算が大事ではないなどと言うつもりはありませんが、同時に、より長期的な視点も持つ必要があると思っています。一般に決算発表では、「V字回復」や「過去最高」などといった言葉がもてはやされますし、求められもしますが、今回私どもはおかげさまで販売台数、営業利益で過去最高決算でありながら、そういう言葉を、私も社員も意識していませんでした。大事なのは、過去最高という結果が運によるものではなく、堅実な成長の成果としての過去最高であることだと考えているからです。

 かりに今回の結果が、いくぶんなりとも追い風の影響を受けたものだったなら、風が止まったり逆風に変わったりしたときにどうかということです。そうなったとしても持続的に前に行けることが大事で、そのようにするためには、やはりペース配分が大切です。

塚越 急成長したり鈍化したり、あるいは後退したりというバラつきのない、成長スピードのペースのことですね。人間というのは、追い風が吹くと、それが自分の実力だと思いがちです。

 でも、経営においては、その業績がほんとうに自分や会社の実力なのか、単に追い風によるものなのかの見極めが非常に大事ですね。

豊田 まったく同感です。でもその見極めは実にむずかしい。というのは、業績がいいときの経営者というのは、周りにおだてられますから。私のような人間は、そんなときすぐに調子に乗ってしまうかもしれません(笑)。でもだからといって、周りに何でもかんでも厳しいことを言う人ばかり置いておけばいいかというと、それも疲れますけどね。世の中にはいろいろな立場の人がいます。社内も同じです。

 ですから、私は周囲の言葉に浮かれたり沈んだりするのではなく、ある種の開き直りを持って冷静に自分の実力を見極められることが大切ではないかと思っているのです。そして私自身は、「経営者というのは、決断して責任を取ればいい」と開き直っているところもあるのです。

 とはいうものの、ご存じのように私が社長になってから、あまりいい決断をしていないのですが。みんなが泣くようなことばかりやっているわけです。

塚越 それはアメリカでのリコール問題のことですか。あれは章男社長の責任ではないでしょう。

豊田 いえ、直接的には私の責任ではないと言ってくださる方がいるとしても、こういう名前で生まれ、現に社長を務めているのですから、過去、現在、未来すべてにおいて私に責任がかかってくると思っています。バトンを受け継いだ以上、私が「それは私が社長になる前のことです」と言っても世間に許してもらえないでしょうし、そんなことを言うつもりもありません。

塚越 あのリコール問題のときに、非常に印象に残った言葉があるんです。それは、公聴会のあとで、社長が現地の従業員の皆さんの前で言った「私は(公聴会で)一人じゃなかった」という言葉です。

豊田 公聴会に行く前に、「この戦〈いくさ〉はどうやっても負け戦かもしれませんが、生きて帰って来てくださいね」という励ましの言葉で送り出してもらったのですが、やはり気持ちとしては一人ぼっちだなと思いました。ただ、公聴会に行ってみて気づかされたのは、やっぱり自分はこの会社が好きなんだということであり、トヨタという会社の「しんがり役」ができる喜びでした。自分自身が会社を好きだというパッションと、クルマが好きだという純粋な気持ち、それが自分を助けてくれたような気がします。

 

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