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大規模な事業創造は「超」業界で発想せよ!

三宅孝之(ドリームインキュベータ執行役員),島崎崇(ドリームインキュベータ執行役員)

2015年05月29日 公開 2023年02月02日 更新

 

すべては1人の勝手な「妄想」から

 一方で、日本企業はそれぞれがそれぞれの業界の中で生きてきた。長く続いている業界ほど、その業界ならではの作法やルールが数多くある。それらを熟知してお互いに守り合うことで業界の結束が生まれる。同時に業界内のポジションが決まり、役割が決まる。こうして業界内のことについてはどんどん精通していく。どこの業界でも同様のことが起きているから、外の世界である他業界の作法やルールについては逆にどんどん疎くなる。

 グループ企業であっても、業界を超えての人の行き来は少ない。だから、日本企業の中には、いくつかの業界をまたいで仕事を行った経験があったり、いくつもの業界に精通している人材というのは、思いのほか少ないのが現状だ。

 したがって、業界と業界の間にビジネスチャンスがあっても気づかないし、仮に気づいたとしても、どうやって業界を超えて動いていいのかが分からない。

 業界をまたぎ、業界を超えた事業創造を発想するためには、業界内を見ているだけでは見つけられない。高い視座に立って、いくつかの業界を俯瞰することが求められるが、業界内で長らく生きてしまった人にはこれがなかなかできない。どうしても、その業界の「中から」外を見るという発想になりがちなのだ。

 「業界人」としての意識から、「日本人」「アジア人」「地球人」といった意識に転換し、日本全土、アジア全域、地球全体を俯瞰して事業創造を発想するようになれば、アイデアレベルの事業創造の種ならいくつか思いつくことができるようになる。

 業界という枠を取っ払って発想すると意外なものが見えてくることもある。

 第1章で30個の新規事業の種が並んだ新規事業リストの話をしたが、例えばこれらを「1つ1つ育てる」という発想から「まとめて育てる」という発想にするだけでブレイクスルーが起こることもある。単独では弱くて小さかった事業の種も、いくつかを合わせて発想すると事業規模が拡大する。

 また、ビジネスの原点が「お客さまのために」であるなら、そこから発想することもできる。ユーザーニーズから発想すると、IT企業だけでも、エレクトロニクス企業だけでもつくれない製品やサービスが見えてくることもある。

 このように自由に発想することを「妄想」と呼んでいる。妄想と言うと悪いことを想像することに使われることが多いが、本書では、伸び伸びと想像を大きくふくらませることを指し、「構想」の前段階と位置づけられるものだ。

 「そんなことを考えている暇があったら目の前の仕事をしろ」

 そう批判してはならない。目の前の仕事ばかりをやっているから事業が生まれないのだ。いい製品をつくっているのに売れない。いいサービスを行っているのにお客さまが増えない。だから一旦、すべての枠を取っ払って妄想することが大事である。

 同様に、事業創造を発想する際には次の批判も最初のうちは禁句だ。

 「それって儲かるの? どこで儲けるの?」

 企業が行う事業創造である以上、利益を出す必要があるのは当然だ。ただ、最初から儲けることを意識すると発想が小さくなる。自分の部署とか事業部、せいぜい自社の範囲内でしか発想ができなくなる。そうすると発想の飛躍は生まれない。

 妄想段階で大事なのは、自社の外や業界の外まで想像を大きくふくらませることだ。どこで儲けるかは、妄想を構想にする段階で考えればいい。

 

ベンチャー以上に大企業にチャンスあり

 大きな絵を描いてビジネスプロデュースを行うに当たっては、やはりベンチャーよりも大企業のほうが圧倒的に有利だ。それはヒト・モノ・カネといった経営資源が豊富にあるからだが、それだけではない。

 まず、日本においては、ベンチャーに比べて大企業のほうが圧倒的につながりやすい。

 例えば、切り取る側として業界を超えた他のプレイヤーと提携する際、大企業のほうが相手企業から信頼を得やすい。もちろん、切り取られる側としても同様である。大企業がどこと一緒に事業創造をやりたいかと言えば、それはやはり同クラスの大企業だ。

 また、大企業には眠っているが魅力的な技術がたくさんある。10年、20年と研究されて開発されながら、まだ市場に投入されていない技術――宝の山が眠っているのは圧倒的に大企業で、アイデア次第では自社内に眠っている技術同士をつなげるだけで、新しい市場をつくり出すことだってできるかもしれない。

 それが無理だとしても、多くの大企業に眠っている高度技術が多々あるのだとしたら、それらの要素技術をつなぐことで新しい製品やサービスを生み出すことができる可能性は高い。アンテナを張って、どの企業にどのような高度技術が眠っているかを知る必要はあるが、そうした情報も大企業のほうが得やすい。

 政府や行政機関に働きかけるロビイングを行うにしても、大企業のほうが話を聞いてもらいやすいということもある。

 自社内や業界内だけを見て新たな事業を発想しようとするから、なかなか大きなビジネスを発想できないだけであって、他業界とつなげることを前提に視野を広げていけば、思いがけずいろいろなところに大きなビジネスチャンスが転がっていることに気づくはずだ。

 どんな企業であっても360度全方位に強みがあるわけではない。自分たちの弱い方面を自分たちで強くするには時間もかかるし、できない可能性もある。その方面に強い企業の力を借りて助け合ったほうが得策だ。

 学校の勉強であれば、すべてを自力で学び、自分の中に知識をためていくことが求められるが、ビジネスでは必ずしもそうである必要はない。特に事業創造においては、他のプレイヤーと連携し助け合うことでスピードが上がり、それだけ市場を席巻できる可能性が高まる。

 日本の事業創造においては、大企業同士が連携するビジネスプロデュースが一番成功確率が高くなるはずなのだ。

 

<著者紹介>

三宅孝之(みやけ・たかゆき)株式会社ドリームインキュベータ執行役員

京都大学工学部卒業。京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修了(工学修士)。経済産業省、A.T.カーニー株式会社を経てDIに参加。経済産業省では、ベンチャービジネスの制度設計、国際エネルギー政策立案に深く関わった他、情報通信、貿易、環境リサイクル、エネルギー、消費者取引、技術政策など幅広い政策立案の省内統括、法令策定に従事。DIでは、環境エネルギー。まちづくり、ライフサイエンスなどをはじめとする様々な新しいフィ-ルドの戦略策定及びビジネスプロデュースを実施。また、個別プロジェクトにおいても、メーカー、医療、IT、金融、エンターテインメント、流通小売など幅広いクライアントに対して、新規事業立案・実行支援、マーケティング戦略、マネジメント体制構築など成長を主とするテーマに関わっている。東洋経済オンライン「ビジネスプロデューサー列伝」シリーズのインタビュアーも務める。

島崎崇(しまざき・たかし)株式会社ドリームインキュベータ執行役員

早稲田大学理工学部工業経営学科卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。株式会社電通国際情報サービスを経てDIに参加。電通国際情報サービスでは、SE及びプロジェクトマネジャーとして、金融機関における国内外のシステムインテグレーションのプロジェクトを経験。その後、経営計画室で中期計画・予算策定などの経営管理業務、R&DセンターでR&D投資委員会の設置・運用及び新規事業開発などに従事。DIでは様々な業界に対し、構想策定、事業戦略策定から機能/サービスのアーキテクチャ設計、パートナー選定・交渉、組織設計、政策連携に至るまで、一貫して新規事業の創出・立ち上げに関わるプロジェクトに従事。愛知県豊田市のアドバイザーを務める他、文部科学省、経済産業省における検討会・ワーキンググループ委員を歴任。

 

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