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仕事

“地域の公器”に徹し、利益生む

野老真理子(大里綜合管理社長)

2015年07月21日 公開 2022年07月11日 更新

《隔月刊誌『PHP松下幸之助塾』[特集:活力を吹きこむ]より》

大里総合管理の社員と合唱する野老社長

 

283の貢献活動でどんな社員も主体的に働ける会社

アベノミクス効果で活況を呈する不動産業界。とはいえ、大手優位の状況が鮮明になってきているのも現状だ。そんななか、1975年の創業以来40年間、景気に左右されず、黒字を出して安定経営を続けてきた“まちの不動産屋さん”がある。千葉県大網白里市の大里綜合管理だ。競合が激しい市場環境にありながら、なぜ堅実な経営を続けることができるのか。その答えは、本業と地域貢献活動の区別が判然としない驚くべき現場にあった。
<取材・文:野間麻衣子/写真撮影:今井秀幸>

 

歌う不動産屋さん?

 千葉県九十九里浜のビーチの中でも都心からのアクセスが容易で人気の白里海岸。そこから10キロ余り西に位置するJR大網駅で降り、15分ほど歩くと、ガラス張りの大きな家屋が見えてくる。大里綜合管理のオフィスだ。だが、不動産会社の社屋にはちょっと見えない。

 中から美しい音楽の調べが聞こえてきた。楽器を手にする女性の姿が窓の向こうに見える。演奏会の最中らしい。「隣の建物と間違えたか」とふと思う。しかし、正面の扉をよく見ると、「大里綜合管理〔株〕」の文字。やっぱりここだ。

 屋内は広くて天井の高いオープンスペース。地元の人たちなのか、フルートとピアノの二重奏に耳を傾けている。でも、ここはたしかにオフィスだった。反対側のスペースに、何の間仕切りもなくテーブルがいくつか置かれ、そこで社員がふつうに仕事をしている。

 1人の女性が赤ん坊を抱きながら出迎えてくれた。野老真理子社長である。せっかくの機会なので、そのまま演奏を聞かせていただく。演奏者の2人の女性はプロなのだそうだ。

 演奏が終わって、さっそく取材をさせていただこうかと思ったちょうどそのとき、後方で仕事をしていた社員たちが突然前に出てきて、野老社長を中心に横一列に並んだ。外から入ってきたとおぼしき作業服姿の男性社員らも加わる。なんと“歓迎の合唱”が始まった。しかもレベルが高い。

 感動冷めやらぬまま2階に案内していただく。1階同様にホールがある。ランチタイムにレストラン「コミュニティーダイニングおおさと」を営業する一方、ヨガ教室やカルチャー教室などにも利用されているという。そんな説明を聞いていると、男の子が小学校から帰ってきた。社長の家族ではない。ここは学童保育の場でもあるのだ。

 再び1階へ。パンや野菜などの食品から、手芸やアクセサリーなどの創作品まで販売している。目に留まったのが、野老社長の抱いていた赤ん坊が、デスクワークをしている女性社員の横で寝ていたことだ。社員は赤ん坊の母親であるという。子どもを会社に連れてきても構わないらしい。

 少し頭が混乱してくる。ここは不動産の会社のはずだが――。野老社長は言った。「これが私たちの日常なんです」。よく聞けば、「日常」どころか、同社の一面に過ぎないことが分かってきた。なにしろパートを含む30数名の社員で283(2015年3月現在)の社会貢献活動を実践しているというのだ。

 

母が築いた事業を徹底強化

 創業は1975年。以来40年、ほぼずっと黒字を達成してきた経営体質の強い会社である。だからといって、おカネが余っているから社会貢献活動をしているのではない。社会貢献活動に熱心だから収益力があるという、珍しい会社だ。どういうことなのか。少し同社の歴史を振り返ってみよう。

 野老社長は2代目である。1994年に創業者である母親の熊木セヨ子さんから経営を引き継いだ。働かないうえに浪費家の夫と離婚したセヨ子さんは、5人の子どもを育てるため、もともと知識があった不動産の会社を興した。初めは資金繰りに苦しみながらも、休みもとらず必死に働いて、野老社長を大学まで行かせてくれたという。

 事業の基盤としていたのは、地主が離れている遊休地の管理。かつて高度経済成長期からバブル経済期にかけて、多くの東京近郊在住者が九十九里地区の土地を購入した。その一部が、遊休地となって残っているのだ。

 野老社長は社長就任前から、母が築いた土地管理事業を徹底的に強化し、経営の安定に努めてきた。入社時には600だった土地管理件数を、社長就任時までに10倍超の6500に伸ばす。現在も同社の土地管理は評価が高い。50坪までは年間15000円の管理費で、春秋2回の草刈り、年2回の一斉パトロールを行い、周辺の開発状況なども随時報告している。

 また、これらの土地にスイセンなどの花を植栽し、地主や周囲の住民を喜ばせている。今年は25年以上管理している顧客の土地を対象に、実のなる木を植えて収穫後に届ける計画だ。

 現在ではほかにも、地域周辺の不動産販売、賃貸借の仲介に加え、木造住宅の設計・施工管理、エクステリアの工事など、同社が手がける事業は幅広い。不動産取引、土地管理、建築、リフォームなどを中心に、全体で約5億円の売上を毎年あげている。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。

 

著者紹介

野老真理子(ところ・まりこ)

大里綜合管理社長

1985年淑徳大学社会福祉学部卒業後、母が設立した大里綜合管理に入社。’94年代表取締役社長(現在に至る)、学童保育を始める。2007年NPO法人大里学童KBAスクール代表。’08年千葉県男女共同参画推進事業所表彰(奨励賞)。’10年「子どもと家族を応援する日本」内閣府特命担当大臣(少子化対策)表彰、地域づくり総務大臣表彰(個人表彰)。厚生労働省社会保障審議会「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」委員なども歴任。

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