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基本方針がしょっちゅう変わる会社

相澤賢二(ホンダカーズ中央神奈川会長)

2011年06月07日 公開 2022年08月29日 更新

※本稿は、相澤賢二著『チームの底力!』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

お客様が進化しているのに、行動指針が進化しないのはおかしい!?

どんな会社にも社是・社訓の類はあるかと思いますが、当社にもやはりあります。ただ、これは社是・社訓なんていう偉そうなものというより、日々の行動指針といったようなものです。それが「30S」です。

「3S」「4S」などは、皆さんも聞いたことがあるかもしれません。「整理」「整頓」「清潔」といった、職場の標語みたいなものですね。

実は我々も最初はそれらを使っていたのですが、だんだんと「あれも大事だな」「これも必要だ」と増やしているうちに、いつの間にか30にまで膨らんでしまった、ということです。より正確にいうと、もっともっと膨らんでしまったのが、「あまり多すぎると覚えられない」ということで30にまとめたということです。

さて、この基本方針である30Sですが、おそらく他の会社の行動指針にはない特徴があります。それは「しょっちゅう内容が変わること」です。

この30Sについては前著『サービスの底力』でも触れたので、試しに今の30Sと比べてみたところ、この数年だけで5つも入れ替わっていることがわかりました。

仕事の基本とすべき方針がころころ変わっていいのか、という意見もあるでしょう。でも私は逆に、「時代もお客様も進化していっているのに、行動指針を進化させないでいいのか」と思うのです。

考えてもみてください。私がこの仕事を始めた頃は、自動車は誰もが持っているようなものではなく、まだ憧れの存在でした。それが今では一家に2台も3台も持っている人がいて、ごく当たり前のものになっています。そして、駅前の商店街が寂れて、車で行くことを前提としたロードサイドの大型店がどんどん生まれています。

一方、お客様も変わりつつあります。今ではインターネットなどで情報がたやすく手に入り、場合によっては自動車販売店の社員よりも豊富な知識を手に入れることもできます。かっこいい車よりも、低燃費のエコな車に人気が集まるなど、求められる要素も変わってきています。

どれもこれも、私がこの仕事を始めたときには、想像すらしなかった世界です。

このように変化のスピードが速い時代に、我々だけが変わらないでいいわけがないのではないでしょうか。だから私は、行動指針はどんどん変わるくらいでいい、と思っているのです。

さて、当社の行動指針である「30S」を紹介しましょう。

1「整理」無駄なものを捨てること
2「整頓」必要なものを必要な場所に置くこと
3「清掃」拭いたり、掃いたりして、きれいにすること
4「清潔」衛生的であること、基準は赤ちゃんが舐めても安心できること
5「躾」礼儀正しいこと
6「作法」行儀の良いこと
7「先輩がマニュアル」先輩は全員がマニュアルに
8「清楚」飾り気がなくて美しいこと
9「素直」注意、忠告を受け入れること
10「親切」辞書では:困っている人を助ける 仕事では:困らないように助ける
11「誠実」全てをオープンにすること
12「商談は相談」売るのではなく相談を受けること
13「周知徹底」もれなく知らせ再発防止をすること
14「女性の力は偉大なり」仕事は女性の努力で決まる
15「失敗は会社の財産」同じ失敗は許されない
16「性能より性格」能力よりも人柄 良い人が良い仕事をする
17「債権ゼロ(売掛0)」売掛禁止 出来心防止
18「スピード」すぐ実行すること
19「スマイル」笑顔に勝るプレゼントはない
20「サービス」心のこもった応対 人が人に心遣いをすること
21「その時、その場で、そのことだけ」男性社員には:どこへ出しても恥ずかしくないビジネスマン 女性社員には:気遣いの出来る優しいお嫁さん
22「社内留学」自分を見直す マンネリの防止・拠点のリフレッシュ
23「全員営業」各自の「責任業務」を果たしハその上で「協力業務」を行い、チームで拠点を営業する 24「趣味の推薦」読書と貯金と親孝行
25「細部の徹底」お客様は無理は言わない
26「損を決めるのが幹部の仕事」幹部の仕事は社員と業務とお客様の心配をすること
27「信賞必罰」賞罰を正確・厳重にすること
28「先生はお客様」お客様は月謝をくださる先生
29「全てはお客様のために」シーエスがイーエスを造る 顧客満足が社員の満足 認められたい! 承認欲求を満たすことが働く喜び
30「誠心誠意」真心をもって物事を行うこと

 

言葉は「定義」しなければ伝わらない

この中の多くは、正直、どこでもよくいわれているようなことです。たとえば「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」「作法」「清楚」「素直」や、「親切」「誠実」「誠心誠意」といった言葉は、他の会社でもひょっとしたら、標語として掲げられているかもしれません。

でも、私がこだわっているのは、「それを具体的な言葉で定義すること」です。それができていない行動指針は、単なるお題目になってしまいます。

つまり、「整理整頓をしなさい」と言われても、具体的にどういうことかがわからなければ、何も行動が起こせません。それに対して、「無駄なものを捨て、必要なものを必要な場所に置きなさい」と言えば、行動が起こせる。

だから、具体的な言葉に置き換えることが重要なのです。よく工事現場で、「整理整頓」と書いてあるのにやたらと散らかっているところがあるのは、言葉の意味をちゃんと定義できていないからだと思いますよ。

あるいは「サービス」という当たり前の言葉も、我々は「心のこもった応対 人が人に心遣いをすること」と定義しています。これなら、具体的に何がサービスであり、そうでないかがわかる。お客様の前にお茶をポンと置くだけならサービスでもなんでもない。その日の天気やお客様の様子から「何を一番お求めだろう」と考えて、飲みやすい場所に飲み物を置く、ということになれば、やっとサービスとなるのです。

当社のある女性社員が、「お客様との出会いを大切にしたいから、お茶を持っていったときに、その気持ちをテーブルに置いてくる」と言っていて、非常に感心したことがあります。お茶を習っているからということもあるでしょうが、「サービス」という言葉の意味が根付きつつあるなと実感した瞬間でした。

 

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