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<鉄客商売>JR九州 携わる人々の「気」を集め、感動を生み出す

唐池恒二(JR九州会長)

2016年06月08日 公開 2022年07月11日 更新

 

夢の「芽」が萌え始める

 豪華列車が実現できるかどうか。その答えは、数カ月後に各部署から戻ってきました。結論から言えば「できる」。しかし、課題は山のようにありました。

 動くホテルと言われるような豪華列車は、世界にいくつかあります。欧州を横断する「オリエント・エクスプレス」、韓国の寝台列車「ヘラン」。これらが共通して抱えている問題が「水」です。水は相当な重量があるため、たくさん積んで線路を走行できるかという技術的な問題、どこで給水するかという物理的な問題がつきまといます。「オリエント・エクスプレス」ですら、シャワーの水はチョロチョロとしか出ない。お客さまに不自由がないほど水を積んで走るのは大変なことなのです。

 でも、やろうと思えば不可能ではない、との見解が社内から返ってきたので、それならつくれるな、と思いました。ところが時期が悪かった。そのとき、ちょうど九州新幹線の全線開業を控えていて、会社全体が新幹線のことばかり考えていました。「豪華列車をつくろう!」という私の世迷いごとなど、だれも聞いてくれないわけですよ。ですから、豪華列車は可能だという答えは出ていても、実際には着手しませんでした。

 それがにわかに動き始めるきっかけになったのが、工業デザイナー、水戸岡鋭治さんです。水戸岡さんは、特急「A列車で行こう」「指宿のたまて箱」など、あとで語る「デザイン&ストーリー(D&S)列車」のデザインを担ってくれた方です。あるとき私は、水戸岡さんに「九州で豪華寝台列車を走らせたいんですけど」ともらしました。すると水戸岡さんも「実はぼくも、同じことを二十数年前から考えていました」とおっしゃるんです。私が豪華列車を思い描いたのとほぼ同じ時期です。驚きました。

 水戸岡さんはすぐにやる気になり、たった3週間で車両のデザインパース(完成予想図)をつくってこられました。それを私に見せると同時に、なんとメディアにも発表してしまったんです。私に無断で(笑)。その結果、週刊誌に「JR九州がいよいよ豪華寝台列車を走らせる」という記事が出てしまった。これはもう、やるしかないですよね。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。

 

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