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夕食後すぐに就寝すると病気になりがち? トップアスリートも実践する白木流「養生訓」

白木仁(筑波大学教授)

2016年02月08日 公開 2016年02月08日 更新

夕食後すぐに就寝すると病気になりがち? トップアスリートも実践する白木流「養生訓」

PHP新書『トップアスリートがなぜ「養生訓」を実践しているのか』より

 

夕食と就寝には密接な関係がある

これまで、トレーナーとしてさまざまなトップアスリートと接してきた。ただの高校生が賞金王になるまでを見守り、ときには選手とともに金メダルを目指したこともある。300年前に貝原益軒が養生や長生きへの情熱を書き綴ったように、ここでは、スポーツトレーナーである私が、アスリートから得た「現代版『養生訓』」の一端をご披露したい。

 

『養生訓』の言葉

<原文>
夜食する人は、暮て後、早く食すべし。深更にいたりて食すべからず。酒食の気よくめぐり、消化して後ふすべし。消化せざる内に早くふせば病となる。
夜食せざる人も、晩食の後、早くふすべからず。早くふせば食気とゞこをり、病となる。凡よそ夜は身をうごかす時にあらず。飲食の養を用ひず、少うゑても害なし。もしやむ事を得ずして夜食すとも、早くして少きに宜し。夜酒はのむべからず。若のむとも、早くして少のむべし。

<現代語訳>
夜に食事をする人は、日没後すぐに食べるのがよい。夜がふけてから食べてはならない。
お酒や食べ物の気がよく巡り、消化後に床につくのがよい。消化しないうちに床につくと病気になる。夜に食事をしない人も、夕方に食べてすぐに寝てはならない。早く寝ると食の気が滞って病気になる。とにかく、夜はからだを動かすときではない。飲食という養生をせず少し空腹でも害はないものだ。やむを得ず夜に食事をするときには、なるべく早くして、少ないのがよい。また、夜にお酒を飲んではいけない。もし飲むとしても早い時間に少しだけ飲むようにすべきである。

 

プロのアスリートは食生活にも細心の注意を払う

「朝メシ前の運動」は、睡眠状態にあったからだを目覚めさせ、消化をよくするということからもぜひすすめたいが、その一方で、夕食後から就寝までのあいだに運動することは、できるならば避けるほうがよい。

プロ野球のキャンプでは夕食後に練習をさせるが、これには内心驚いた。スポーツ界には、「スポ根」の考えかたがいまだに根強く残っている証左だろう。

夕食後の激しい運動はタブーだ。なぜなら、夜は就寝に向けて、昼間の交感神経優位の状態から副交感神経を優位に変換する時間帯だからだ。激しい運動をすると、交感神経優位のまま覚醒状態が続いてしまう。これでは、眠れるものも眠れなくなるのだ。

夕食時、箸を使って食べ物を口に運び、咀嚼して飲み込み、胃や腸で消化していく――夕食を食べるということは、これだけ全身を使っているということでもある。人間の1日の活動のなかでも大きなイベントの1つだ。

食後は、消化活動を促すためにも、また睡眠に向けてからだを休めることが大切なのである。アスリートならマッサージを受けて、疲弊したからだをクールダウンさせる時間にあてるべきなのである。

プロ野球やプロサッカーなどには、ナイター中継がある。そのため、デーゲームとナイターというふたつのパターンに、からだのサイクルを変えて対応しなくてはならない。この調整が大変なのだと、選手時代の工藤公康氏が教えてくれたことがある。

夜の試合であれば、パフォーマンスのピークを夜の6時~9時に持っていくために、数日前から寝食の時間をずらして対応しなければならない。野球でいえば、1日の流れはこうだ。

昼の2時くらいに球場に入り、3時に昼食をとる。消化のよいそばやうどんが多いようだ。

休憩後、ウォーミングアップをして、6時からの試合開始に備える。試合中は水分をとる。

バナナなどの間食を食べる選手もいる。9時過ぎに試合が終わり、夕食をとるのは11時から12時になる。その後は、すぐに寝るのではなく、4時間ほどからだを休める。

これが重要である。胃の内容物が完全に消化されるまで約3時間かかるので、すぐに寝ると胃腸が消化不良を起こし、次の日に響いてしまうのだ。からだに疲労が蓄積したままになり、試合に集中できなくなる。たとえ次の日に、朝6時に起床しなくてはならないとしても、このリズムは崩せない。毎日のことでなければ、睡眠時間は2時間でも充分なのだ。

一方、デーゲームの場合は、午後1時ごろからスタートして4時ごろに終わる。この場合はふつうに、就寝の4時間ほど前に夕食を食べ、6時間以上の睡眠をとれるように調節すればよい。

同じことが、『養生訓』にも述べられている。「夜ふけに食べてはいけない、消化したあとに寝るのがよく、消化しないまま早く寝ると病気になる」。最新スポーツ科学の研究結果と同じだというところがすごい。

また『養生訓』は、「夜は活動するときではない」とも述べている。貝原益軒は、なんと的確な観察眼を持っていたのかと感心するばかりだ。

アスリートにとっては、食事内容も重要である。通常のプロアスリートであれば、炭水化物、野菜、肉、魚、フルーツなどをバランスよく食べる。とりわけ、肉を食べる必要がある。魚だけではカロリーが低く、熱や力にならないからだ。

最近、女子ゴルフで台頭している韓国だが、彼女たちはツアーを家族と一緒に回っている。従って、どこへ行っても家庭の慣れ親しんだ食事をとっているのである。これは、全米女子ゴルフで賞金女王を獲得していることと無関係ではないだろう。一流選手は、ツアー中は料理人を帯同させ、食事管理を怠らない。

最近は、マラソンやトレイルランなど長時間からだを動かし続けるスポーツで、「カーボ・ローディング」という食事法が注目されている。カーボとは炭水化物を表し、ローディングは「充てん」などを意味する言葉だ。レースの一週間前から運動量を少なくし、レースの約3日前から炭水化物を通常よりかなり多く摂取する食事法である。

こうすることで、即効性の運動エネルギーである体内のグリコーゲンの割合を増やし、運動できる回数や連続運動時間を上げ、好成績を出せるというのだ。しかし、アスリートが自分の最大パフォーマンスを発揮するには、前日の食事うんぬんより、それまでのトレーニングによるところがやはり大きいのではないだろうかと私は考えている。

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からだの疲れは寝て取り除き、脳の疲れは運動で取る

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