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国際社会は北朝鮮の核兵器開発を阻止できるか

2016年05月10日 公開

武貞秀士

PHP新書『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか』より

北朝鮮

 国際社会は、北朝鮮の核兵器開発を阻止できるのだろうか。

 北朝鮮の核兵器開発には長い歴史がある。国家目標と軍事戦略の重要な根幹をなしているからだ。そして金正恩第一書記の体制下、核開発はさらに加速している。2014年4月から実施している新しい義務教育制度の教育カリキュラムは、理数系科目を重視する内容に変わった。義務教育の期間を1年延長して12年とし、物理、化学、数学、英語の時間を増やしたのである。日本の高校に当たる教育では、核分裂と核融合の違いを教え、ロケットの仕組みを高校生が説明できるという。2014年10月、羅先特別市の高級中学(日本の高校に当たる)を訪問したとき、高校生たちは目を輝かせて「科学者になりたい」と語っていた。羅先特別市の街には「科学立国」のスローガンが目についた。

 北朝鮮の科学教育の重視は、核兵器開発計画と無関係ではない。北朝鮮に対する制裁を強化することにより、北朝鮮が核兵器開発を断念することはないだろう。

 そして各国の姿勢の変化のなかで目立つのは、2016年1月以降の韓国の姿勢の変化だった。1月6日、北朝鮮が核実験をしたあと、韓国は中国との外相同士の電話会談を実現し、朴槿恵大統領と習近平国家主席とのホットラインでの中韓首脳協議を試みた。しかし、このホットラインでの協議に中国が応じたのは2月5日夜であった。

 そして中国が中韓の首脳による電話会談に応じたとき、朴大統領は北朝鮮に対する強力で実効的な国連安保理決議の採択に向け、中国側の積極的な協力を要請した。国連安保理で中国が制裁問題に慎重姿勢を続けていることを考慮したうえでの要請であった。

 しかし習国家主席は「当事国は朝鮮半島の平和・安定という大局に立ち、冷静に対処しなければならない」と答えた。つまり中国は、北朝鮮への強い制裁は避け、対話で解決しようと答えたのである。

 2月7日に北朝鮮がミサイル発射をしたあと、韓国はアメリカとのあいだでTHAADの協議を再開することを表明した。これに対して中国の張業遂筆頭外務次官が2月16日、韓国を訪問して林聖男外務第一次官と会談を行ない、THAADの韓国配備に反対する立場を表明した。林外務第一次官は「韓国の安保と国益の観点から判断する事案である」という韓国政府の立場を張筆頭外務次官に説明した。それに対して張筆頭外務次官は韓国の立場を配慮し、「中国は安保理で新しく強力な対北朝鮮制裁決議案を通過させることに賛成する」と述べたが、実際には、中国は1月以降、強力な制裁には反対していた。

 つまりは中国のほうにも、これまでに蓄積してきた中韓の戦略的な協力関係をフイにはしたくない、という苦悩がうかがえるのだ。一方で北朝鮮への影響力を維持するため、強い制裁は回避したい。国際社会の期待は、中国が強い制裁に応じてくれることである。

 中国の政策優先順位はどうなっているのか。その第一は、在韓米軍へのTHAAD配備阻止であるようにみえる。王毅外相は韓国の尹炳世外相との会談で「(配備は)中国の戦略的な安全利益を毀損するものだ」と厳しく批判した。中国のメディアは「THAADが韓国に配備されるなら、戦略と戦術の両面で中国の軍事的な目標に公式に選ばれる」と報道した。

 しかし、韓国の方向転換は続いた。朴大統領は2月16日、国会演説を行ない、開城工業団地の全面中断措置を決定した。この演説で朴大統領は、米韓の「共助」、日米韓三国間の「協力」を強化して、中国・ロシアとの「連帯」も重視していくと述べたが、その発言は、中国との関係を格下げし、日米韓協力を格上げしていく、ということを示唆していた。

 これは政策転換といってもよい内容だった。韓国の迷いが表れている。中国は韓国の姿勢が変化したことを注視して、韓国政府に警告を発する事態になっている。わずか一カ月のあいだに起きた東アジアの構造変化には、ただ驚くほかはない。韓国はアメリカとの同盟関係と中韓戦略的パートナーシップのあいだで板挟みになり、そして、アメリカとの同盟関係を優先しはじめた。

 北朝鮮が核実験とミサイル発射をしたのは、規定路線を確認したにすぎない。実験を繰り返して、アメリカ東部を射程に入れる技術の習得を急ぐ。日本、アメリカ、韓国、中国、ロシアの対応は違っているが、そのなかでも韓国の変化に対し、中国は失望を禁じえないのではないだろうか。

 北朝鮮の動きがめだった2016年前半であったが、奇妙なことに北朝鮮が多くのものを獲得していることがわかる。2016年2月と3月、北朝鮮の2つの実験が終わったあと、韓国は中国の姿勢に疑問をもちはじめている。中国が必要以上に北朝鮮を支援しているのではないか、とみなしはじめたのだ。つまり、北朝鮮の行動によって生じた重大事態の一つは、韓国の中国への猜疑心である。北朝鮮の実験が「中韓離反」をもたらしたのであれば、それは北朝鮮の「外交成果」を意味する。ことほどさように、東アジアの国際政治はいつもダイナミックなのだ。


武貞秀士(たけさだ・ひでし)

1949年兵庫県生まれ。77年慶應義塾大学大学院博士課程修了。防衛庁(当時)のシンクタンクである防衛研修所(のちに防衛研究所と改称)に入り、2011年に統括研究官として退職するまで36年間勤務。その間、スタンフォード大学、ジョージワシントン大学に客員研究員として滞在。11年より2年間、延世大学国際学部で日本人初の専任教授に着任。現在、拓殖大学大学院国際協力学研究科特任教授。著書に、『韓国はどれほど日本が嫌いか』 (PHP研究所)、『東アジア動乱』(角川oneテーマ21)などがある。

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