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人間はだれもが幸福になれるはず?~松下幸之助が目指した幸せのかたち

大江弘(PHP研究所社会活動部長)

2016年06月07日 公開 2024年12月16日 更新

人間はだれもが幸福になれるはず?~松下幸之助が目指した幸せのかたち

 

幸福は人類共通の願い

意識しているかどうかは別にして、だれしも「幸せになりたい」と願っているのではないでしょうか。多くの先人が幸福とは何かを追求し、さまざまな言葉を残しています。宗教、思想、文化、芸術、さらに科学技術も、つきつめればお互いが幸福になるために磨かれ、発展してきたと考えられます。また近年では、国連、OECD、民間の調査会社、自治体などで幸福度調査を行うようになりました。幸福は、人類共通の永遠のテーマと言えるでしょう。

パナソニックの創業者・松下幸之助は、幸福について思索を重ね、さらにその実現に力を尽くした先人の一人です。

荒れ果てた国土、欠乏を極める物資、乱れゆく人心…。敗戦直後の日本の状態は惨憺たるものでした。特に食料不足は餓死者を出すだけでなく、一部では兄弟のものを盗んだり、子どもに食べさせるものを親が食べるなど、人間らしさを見失った浅ましい姿を生み出していました。

そうした状況を目の当たりにして、松下は次のような思いを抱きます。

「空を飛ぶ小鳥でも腹一杯食べて楽しそうに生きている。ところが、万物の霊長ともいわれる人間は、みずから戦争を行ない、そうして食料の欠乏によって栄養失調に陥り、飢え死にするといった悲惨な状態を招いている。これが人間本来の姿であろうか」

さらに、法律を守り配給されたもの以外を口にせず、ついには餓死した裁判官の報道に触れ「こんなバカなことはない」と憤るとともに、

「どうして人間はこのような姿に陥るのであろうか。みずから繁栄を願い平和を求めているにもかかわらず、みずから繁栄をこわし、平和を乱すようなことをやっている。こういう姿が、人間としての本当の姿なのだろうか。人間はなぜああいう戦争をしたりして、みずから悲惨な状態を生み、不幸を招くのか」

と自問自答するようになっていきます。

歴史を顧みれば、人間は幾度も同じことを繰り返してきました。一時の平和はあってもすぐに争い傷つけ合い、みずから貧困、不幸を招き寄せています。これでは、人間は真に繁栄、平和、幸福を実現することはできません。どんな努力も無意味だと悲観的になる人がたくさんいてもおかしくはないでしょう。

ところが、悩みに悩んだ松下は驚く結論に行きつきます。なんと、「人間の本質には、限りない繁栄、平和、幸福が与えられている」と言うのです。

どうしてそんなことが言えるのか、そこには合理的な根拠はありません。そのため松下は

「人間に本来、繁栄、平和、幸福が与えられているのかどうか、それは議論の分かれるところかもしれません。しかし、どちらの立場に立つのが人類の幸せにつながるかを考えたとき、それは自明の理だと思うのです」

と訴え、自分が得たその結論に立って、次のステップを踏み出していきます。

松下は、昭和21年11月3日、繁栄、平和、幸福にいたるものの見方、考え方を明らかにするとともに、広く世に訴え実践する機関として、PHP研究所を設立したのです。PHPとは、「繁栄を通して平和と幸福を実現しよう」の英文(Peace and Happiness through Prosperity)の頭文字をとったものです。

以来、PHP研究所での研究活動を通じて、繁栄とは何か、平和とは何か、幸福とは何か、さらにその実現のためには何が大切なのか、どうすればよいのかをテーマに、松下は熱心に研究を続けました。とりわけ幸福については、実際の社会生活を踏まえてさまざまな側面から検討しています。

幸せと感じる事柄は人それぞれです。その意味では幸福とは何かを定義することは容易ではありません。そこでどんな条件がそろえば幸せと言えるかという視点から、松下は次のように述べています。

第1に、自分が幸せだと感じること。第2に、世間の人びともその幸せに賛意を表してくれること。第3が、社会にプラスし、周囲の人びとに幸せをもたらすこと。以上の3つの条件を満たしてはじめて幸せと言えるのではないかというのです。
 

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