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女の浮気はなぜ、バレないのか? いろいろな生物の貞操観念

池田清彦 《早稲田大学国際教養学部教授》

2016年06月17日 公開 2022年06月07日 更新

アホウドリの純情

男女関係については、動物の世界にも面白い話がいろいろある。たとえば、アホウドリは決して浮気をしないんだ。一夫一妻制で、一度つがいになると、どちらかが死ぬまで添い遂げる。

僕がいちばん心を動かされたのは、あるオスの一途な行動だ。アホウドリは一時期、絶滅の危機に瀕していた。伊豆諸島の鳥島の繁殖地がガケ崩れで荒廃し、長谷川博さんという研究者が鳥島の別の新しい場所で繁殖を試みたんだ。

彼はその場所に「デコイ」という鳥の模型をたくさん設置して、アホウドリをおびき寄せようとした。すると、一つのデコイを気に入ったオスがやってきた。

オスは一所懸命に求愛のダンスを踊る。

踊って踊って踊りまくる。でも、メスはうんともすんとも言わない。模型なんだから、当たり前だよね。

でも、そのオスはあきらめない。そのデコイをとっても気に入ったらしく、毎年、太平洋を渡って、鳥島のその場所に来ては、決まったデコイの前で一所懸命踊る。相手は模型だから、無視され続けるんだけど、へこたれない。そして、その行動をなんと9年間も続けたんだ。これはストーカー行為と言うより純愛だろうね。他の鳥に迷惑をかけていないの

だから。

同じ鳥でも、シジュウカラは様子がだいぶ違って、つがいでいるのは一年限り。翌年には別の異性とつがいになる。

 

貞操帯をはめられるチョウチョがいる!?

虫の世界のセックスもなかなかおもしろい。トラカミキリムシのオスは逃げるメスを追いかけて、メスの首を噛む。すると、メスは観念して、交尾に至る。ネッキングと名づけられている行動だ。カミキリムシにも性感帯があるのかしら。そういえば僕の知り合いにも「私、耳たぶを噛まれると、もうダメなの」という女の人がいたな。

モンシロチョウのメスが交尾するのは普通一回だけだ。というのも、一回交尾すれば、受精嚢という袋にオスの精子をためておいて、受精できるからなんだ。交尾したあとに、別のオスが迫ってきたら、おなかを立てて、翅を広げて、拒否する。

キャベツ畑の上をモンシロチョウが飛び回っているのを見ることがあるでしょ。あれは、ほとんどオスなんだ。

モンシロチョウのオスはさなぎから羽化してくるメスを待っているんだ。羽化したとたんに、襲いかかって(!?)交尾するのが目的だ。

それで、一回、交尾されたメスはそれ以降は交尾行動はエネルギーのムダだから、拒否する。

ギフチョウというチョウのセックスも興味深い。オスは交尾したあと、自分の尻から分泌物を出して、それをメスの腹部に貼り付ける。「貞操帯」をはめられたメスは、二度と交尾できなくなる。オスは自分の子孫だけを残したいのだ。

自然界を見渡すと、純情派もいるし、思いのままに行動する浮気派もいる。

オスとメスでも違うしね。どんなやり方でも種が存続すればかまわないわけだ。

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