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イギリスのEU離脱、いまこそ日英同盟復活を

岡部伸(産経新聞社論説委員/前ロンドン支局長)

2016年09月02日 公開 2023年02月01日 更新

イギリスのEU離脱、いまこそ日英同盟復活を

 

イギリス解体、EU崩落、ロシア台頭

イギリス解体、EU崩落、ロシア台頭EU離脱派のオピニオンリーダー、ボリス・ジョンソン氏にとって、国民投票の結果は実は誤算だったという。彼には「僅差で敗北して存在感を高める」という思惑があったとされる。そんな離脱派の扇動により、英国の未来は変わった。残留派が6割を占めたスコットランドには、英国からの独立を問う住民投票を行う意向もあり、連合王国解体の危機だ。そしてこの騒動で高笑いをしているのがロシア。ウクライナ問題に伴う、EUによるロシア封じ込めが困難になるからだ。そればかりかロシアがEU離脱プロパガンダを行なった可能性すら指摘されている。PHP新書新刊『イギリス解体、EU崩落、ロシア台頭』で、著者の岡部伸氏は、老大国の英国の激震とその行方を緊急レポートしているが、その中で、日英同盟復活の意義と可能性について言及している。以下、本書の一部を抜粋してご紹介したい。

*  *  *

アフガニスタン・イラン方面でのロシアの南下を警戒する英国と、ロシアの満州・朝鮮進出を押さえようとする日本は、1902年に日英同盟を結んだ。それから114年の歳月を経て、EU離脱に向けて英国の国力の衰退が懸念されている今こそ、日本は日英同盟復活を視野に入れて英国と強固な関係を築くべきではないだろうか。

人民元のSDR(IMF特別引出権)構成通貨入りや英国のAIIB(アジアインフラ投資銀行)加盟を主導して「英中蜜月」を演出したオズボーン財務相が下野した。英国と日本は島国で立憲君主制という共通項も多く親和性も高い。在日米軍を撤退させ、日本を核武装させると発言するトランプ氏、中国全人代代表の企業家から多額の献金を受けていた事が発覚して夫のビル・クリントン氏とともに親中派と目されるヒラー氏のどちらが大統領になっても、日米同盟が後退する懸念が高まっている。世界で孤立を恐れる英国との同盟を、1923年に失効して以来93年ぶりに復活させれば、英国はオーストラリアやニュージーランドなど「アングロスフィア」連合とも大英帝国以来のつながりからインテリジェンスを共有しており、対中包囲網を構築する意味で有益となる。EU離脱後に自由貿易協定(FTA)締結を視野に、いち早く通商関係を結べるように交渉するべきだろう。

英国が栄光ある孤立を放棄してまで日英同盟を結んだ背景には、かつて大英帝国と帝政ロシアが中央アジアで激しい情報戦を繰り広げた「グレート・ゲーム」があった。英国のEU離脱を巡って、英国とロシアで新たな「21世紀のグレート・ゲーム」が始まったと捉えると、日本と英国は世界の平和と安定のためにより関係を緊密化して日英同盟を復活させるべきだろう。

日英はすでに2013年に防衛装備を共同研究・開発・生産する枠組み文書と秘密情報の共有を定める情報保護協定に調印して「準軍事同盟」関係にある。日露戦争で奇跡の勝利を果たしながら第一次大戦後の軍縮の流れで1923年に日英同盟が消滅したことが、第二次世界大戦の敗戦へと暗転しただけに、窮地に立たされた英国との同盟復活こそ日本の国益につながると信じてやまない。

PHP新書新刊『イギリス解体、EU崩落、ロシア台頭』より


岡部 伸[おかべ・のぶる]
1959年愛媛県生まれ。産経新聞ロンドン支局長。立教大学社会学部社会学科を卒業後、産経新聞社に入社。社会部記者として警視庁、国税庁などを担当後、米デューク大学、コロンビア大学東アジア研究所に客員研究員として留学。外信部を経て1997年から2000年までモスクワ支局長として北方領土返還交渉や政権交代などを現地で取材。その後社会部次長、社会部編集委員、大阪本社編集局編集委員などを務めたのち、2015年より現職。著書に『消えたヤルタ密約緊急電』(新潮選書、山本七平賞受賞)、『「諜報の神様」と呼ばれた男』(PHP研究所)がある。

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