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東京一極集中「上り経済」から地方回帰の「下り経済」へ

牧野知弘

2016年09月02日 公開 2022年06月09日 更新

「お金と人」の流れが変わった!?

老いる東京、甦る地方「量的拡大」に期待できない今後の日本においては、地方都市間で熾烈な「生き残り」をかけた競争が不可避となっています。

需要が少なくなる日本だけで物事を考えていてもブレークスルーはできません。経済を牽引してきた東京を頼ろうにも、国全体のパイが細る中、地方に恩恵が及ぶ「トリクルダウン」効果は望み薄です。

ところが最近、いくつかの地方でちょっとした「異変」が起こっています。ひとつがインバウンド(訪日外国人客)の激増です。これまでは、彼らが向かう先は東京や京都、大阪といった大都市ばかりと思われていましたが、話題となっている「爆買い」だけではなく、多くの訪日外国人客が日本の良さを理解し、リピート客が増加し始めています。

リピート客は、大都市のみならず、日本の地方各地に足を延ばし、日本の自然や食べ物、歴史や風土を肌で感じ、楽しむようになっています。彼らは「観光」の目的だけでなく、自らが「気に入った」日本に子供を留学させ、また日本で職を希望する外国人の若者も増えてきました。

一極集中が進む東京からは距離を置き、地方で活躍の場を探す日本の若者も増えてきました。ネットが自由に使える世の中で、実は生活コストが高い東京などの大都市を嫌い、地方での仕事、生活を求める層も着実に増加しています。

ストローで吸い取られたはずの若者が、新幹線や航空機で地方にやってくる。外国人が地方空港に直接降り立ってくる。新幹線の駅や空港はこれまでの人を送り出す「上り」中心の場から多くの人を迎え入れる「下り」中心の場に変化し始めているのです。

 

地方が稼ぎ頭になる材料はたくさんある

さて、多くの訪日外国人客や地方の良さを「選択」してここで暮らし、仕事をしようとするお客様を迎えるという立場で、駅や空港をもう一度振り返ってみましょう。

多くの駅や空港がなんと味気ない、機能ばかりを優先した「ハコ」であるかということに気付かされます。

激しい人口減少が続いてきた地方の多くの都市が今後生き残りを図っていくためには、ふたつのことを肝に銘じなければなりません。

ひとつは、人は外から「刈り取ってこなければならない」「呼び寄せなければならない」ということです。日本全体の人口が減少し、その構成が高齢化する中では、自力更生の余地は少ない、ならば日本人でも外国人でも「外」から魅力的に映る地方にしなければならないはずです。

ふたつには、こうしたお客様を迎え入れる最初のゲートウェーが、駅であり空港だということです。

その観点から駅や空港を見ると、「どこで降りてもまったく同じ」である没個性の駅や空港は、とても「外」から来たお客様を迎え入れる態勢にないことがわかります。

多くの地方ではもはや東京に送り出す若者すらその数は減少しています。消滅自治体などになる前に、いかにして自らの地方を演出して、多くの「外」の人々に魅力を感じていただけるのか、これからの地方の大いなる課題といえましょう。

日本国全体の成長スピードが落ちたことは、逆に日本の国内、とりわけ地方の魅力をクローズアップさせる絶好の機会と言い換えることができるかもしれません。東京だけの単発エンジンで日本を牽引していくには、国の発展を支えるこはできなくなっているからです。

幸いなことに、日本では新幹線や空港といった、移動の基本となる社会インフラが整備され、ハイテク技術はいまだに世界を瞠目させ、自然の豊かさや食事のおいしさ、長い歴史に育まれた伝統や文化に満ち溢れた「豊かな国」「憧れの国」です。

その中で地方が果たす役割は今後ますます増大し、「稼ぎ頭」になっていく大いなる未来があるのです。そのためにはこれまでの「上り」一辺倒で、「ひと」や「もの」を献上する代わりに、中央からのお布施である補助金ばかりに頼ってきた地方像から決別し、自立した姿を日本国内のみならず、世界中に発信していく「下り」優先の発想が求められます。

本書では地方が「輝く」時代に向けて、どのような仕掛けがあるのか、その戦略構築をしていきたいと思います。

10年後、20年後に新幹線の駅や空港に降り立った時に、「ああ、この雰囲気が好き!」と多くの旅人が思えるような、そんな「地方の時代」の構築をご一緒に考えてまいりましょう。

著者紹介

牧野知弘(まきの・ともひろ)

オラガ総研株式会社代表取締役社長

1983年、東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループ、三井不動産を経て、2006年、J‐REIT(不動産投資信託)の日本コマーシャル投資法人を上場。現在はオラガ総研株式会社代表取締役としてホテルや不動産のアドバイザリーのほか、市場調査や執筆・講演活動を展開。主な著書に『空き家問題』『インバウンドの衝撃』(以上、祥伝社新書)、2020年マンション大崩壊』(文春新書)、『不動産投資の超基本』(東洋経済新報社)など多数。

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