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中国の独裁体制崩壊を見据えた習近平の野望

2016年10月19日 公開

丹羽宇一郎(公益社団法人日本中国友好協会会長)

 

「両刃の剣」の留学生

 習近平は「欧米の風俗、価値観に感化された人びとが指導層に増えてくると、中国本来の美点が失われる。留学生を早期に戻すといったコントロールが必要だ」と言ったとされる。 
 もともとアメリカなど、人権意識の高い国々に多くの留学生を送り込むのは、中国の指導者層にとって「両刃の剣」の側面がある。
 先端技術などを学び、中国に導入するためには必須となる海外留学だが、中国社会の異質ぶりに気づいて帰国しなくなるケースも少なからずある。技術の蓄積のためにはある程度、 目をつぶっていたのだろうが、すでに許容範囲を超えてしまったのかもしれない。
 国民の基本的人権を抑圧する国家は、長い目でみれば必ず衰退していく。恐怖政治を強いた独裁国家がいずれ滅んでしまうことは、歴史が証明している。世界に受け入れられないというだけでなく、優秀な人材が母国から流出してしまうからである。中国に戻りたがらない 留学生が少なからずいるという現実に、その兆候が表れている。
 留学経験のある優秀な科学研究者が、中国の技術力底上げのカギを握ることは間違いな い。たんに処遇を手厚くするだけではなく、個人の自由をある程度認めなければ、簡単には中国に戻ってくれなくなる。
 そのことは指導部も、十分にわかっているだろう。実際、若い世代のリーダーほど国民の 声をもっと尊重しなければいけないという思いは強い。ということは、民主化は中国の未来 にとって必須の課題ということだ。留学生をはじめとする人材確保という問題がきっかけとなって、中国は徐々に新しい方向へ変わっていくのは必然の流れだろう。

 

少数民族や人権活動を弾圧

 中国ではチベット族、ウイグル族などの反政府・分離独立運動が続いており、これに対して中国当局はアメとムチを基本としながらの弾圧政策をとっている。 
 チベット自治区では抑圧的な統治に対する僧侶らのデモが以前から繰り返され、抗議の焼身自殺による死者は2009年以降で120人を超えている。ウイグル族への圧政は苛烈を極め、頻繁に起こる自爆テロや暴動に対する当局の弾圧と鎮圧が続いている。
 習近平政権発足後は、反スパイ法や国家安全法、反テロ法などを次々と施行し、記者や人権活動家への圧力を強め、言論・報道統制も厳しくなった。2015年7月には、公安当局 が北京、上海、広州など中国各地で、人権派弁護士や人権活動家ら100人以上を拘束し たほか、メディアや非政府組織(NGO)に対する規制も強化されている。
 中国ではかたちのうえでは三権分立をとっていても、実態としては裁判所に司法権はなく、中国共産党の政法委員会が実質的に判決を下す。「審議する者は裁かず、裁くものは審議せず」という言葉が不文律として定着している。
 アムネスティ・インターナショナルによれば、2015年には、世界で少なくとも1634人の死刑が執行され、前年比で五割以上増えた。中国では死刑に関する情報が公開されていないため、この数字には含まれていないが、アムネスティは「世界で最も死刑執行が多い国は依然として中国」と指 摘し、2015年には数千人が処刑されたと推定している。
 アメリカなどの欧米諸国は国連人権理事会で、習近平体制下での人権活動家の拘束、イン ターネット利用の制限、少数民族への弾圧などを指摘して、「集会、結社、宗教、表現の自由」などを抑圧する政策をとっていると中国を非難している。
 国内の反体制派とその家族、友人らに対する拘束、監禁、拷問などの人権侵害の指摘について、中国側はそのたびに否定しているが、国内に急速に民主主義的な価値観が広がることを警戒していることは確かだろう。
 あるいは香港では、トップの行政長官選挙(2017年実施)で、中国政府が自由な立候補を阻はばむ選挙制度を決めたことに対する大規模な民主化要求運動が2014年9月に起こった。警察の催涙スプレーに民主派のデモ隊が雨傘を開いて対抗したことから、「雨傘革命」 と呼ばれた。
 歩み寄りの姿勢を見せない中国政府を欧米諸国は批判したが、民主派への妥協は中国本土の反政府運動や分離独立運動に飛び火しかねない。今後も時が来るまで政府が決定を撤回することはないだろう。

iyashi

著者紹介

丹羽宇一郎(にわ・ういちろ)

公益社団法人日本中国友好協会会長

1939年、愛知県生まれ。前・中華人民共和国駐箚特命全権大使。名古屋大学法学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。98年に社長に就任すると、翌99年には約4,000億円の不良資産を一括処理しながらも、翌年度の決算で同社の史上最高益を計上し、世間を瞠目させた。2004年、会長就任。内閣府経済財政諮問会議議員、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任ののち、10年、民間出身では初の駐中国大使に就任。12年の退官後も、その歯に衣着せぬ発言は賛否両論を巻き起こす。現在、早稲田大学特命教授、伊東忠商事名誉理事。著書に、『中国の大問題』(PHP新書)など。

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