1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. 精神的に不安定な母と離婚を考えた父。別居中の両親が心配です……こころ相談

生き方

精神的に不安定な母と離婚を考えた父。別居中の両親が心配です……こころ相談

菅野泰蔵(東京カウンセリングセンター所長)

2017年03月07日 公開 2023年01月12日 更新

精神的に不安定な母と離婚を考えた父。別居中の両親が心配です……こころ相談

遠い実家の父母のことが心配です

相談内容

遠い実家の両親は私が幼い頃から仲が悪いのですが、私が実家を出て大学に入って間もなく母が浮気をするようになり、家の用事も自分のことだけやって、父を顧みなくなりました。私は父が可愛そうだと思いながらも、お母さんも寂しいんだなあ、とどこかで醒めていました。大学を卒業しても私は実家に帰らず、東京に出て仕事に就き、そのまま結婚してしまいました。

父は離婚をしたいので家庭裁判所に相談に行きましたが、夫からの離婚の申請は認められにくいので裁判で争うしかないと言われたそうです。母は先々のことが心配で、離婚はしたくないそうです。毎日、母に「私の持ち物がない、あんたが取ったんだ」と責められる父は、最近はビジネスホテルに寝泊りしているそうです。母を精神科医に見せようとしたのですが、絶対に行きたがらないそうです。

私は、本当に母は寂しいんだと思います。ですが、父も一人でそういう母の感情を受け止めつつ、責められるのに耐え切れなくなっているように思うのです。何かいい手段はないでしょうか。私の一番の願いは、父母がお互いに折れ合って(特に母が)、老後を少しでも安らかに過ごし、いつかできる孫にも2人そろって会って欲しいんですが。そうでなければ、離婚して、財産も2分割して、全く関係のない間柄になってもらいたいんです。そのほうが、お互い精神的に安定すると思うのですが。このままでは父母が不幸になっていくのをただ呆然と見守るだけになってしまいそうです。

今思っているのは、母をカウンセリングの先生などにみせることです。私が言っても聞かないでしょうが、やってみようかなあ、と。でもこれは母の気持ちを傷つけることにならないか心配です。何か私自身も混乱しているのですみません。専門家の方から客観的に見て何かございませんでしょうか。おねがいします。

(27歳、主婦兼パート) 

 

精神科を受診するのが望ましいことは確かですが……

アドバイス

専門的に見れば、お母さんは精神科を受診するのが望ましい状態であることは確かです。そこではおそらく強めの向精神薬が処方されますが、それによって精神状態がやや落ち着く可能性はあるでしょう。しかし、以前にお父さんが試みて失敗しているように、なかなか受診してくれるものではありません。受診までに至る本人の自覚がないからです。

このような場合に大切なことは、「あなたは精神的におかしい」から病院に行ったほうがいいとは絶対に言わないようにすること、本人にそう受け取られないようにすることです。それは精神的にもろい人の弱々しい自尊心を守ることでもあるんです。なるべく本題からは入らない。たとえば、どこか体の調子の悪いとか眠れないとか本人が自覚していることを材料とします。そこで、「夫が私のものを盗むので困っている」と言えば、「ああ、そういうことで悩んでるといろいろストレスもたまるんじゃないですか。神経が過敏になったりしてね。そんなときはこ ういう薬を飲むと少し楽になるんですよ」というふうに展開させていくわけです。

もちろん、こういうやり方ですべてが成功するわけではありません。本人がある程度信頼し、影響力を持つ人物が言うからこそ素直に聞いてくれる側面が大きいのです。

お父さんはものすごく努力してきたと私は推測します。今ビジネスホテルで暮らしているのはあなたからは変に見えるでしょうが、私はいい距離の持ち方ではないかと思います。この形ならば、お父さんは離婚をしないでもやっていけると考えているのかもしれません。今の別居状態はお父さんが苦闘の末に選択したものであり、それは決して最悪の結果ではないと私は思います。

ものすごく仲良くするか、離婚して無関係になるのがいいとあなたは言いますが、どちらもできないからこそお父さんの苦悩があるのではないでしょうか。その中でもご両親に仲良くしてもらいたいという気持ちは当然ですが、あなたのその気持ちがお父さんの心の負担を増大させてしまうかもしれないことを少し意識してもいいでしょう。

著者紹介

菅野泰蔵(すがのたいぞう)

東京カウンセリングセンター所長

 1953年東京生まれ。学習院大学卒(心理学)。臨床心理士。学習院大学、代々木の森診療所などを経て、現在東京カウンセリングセンター所長。ベストセラー「こころの日曜日」シリーズ(法研)を始め、「淋しい女と困った男」(双葉社)など著書多数。

関連記事

×