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現場を知らないトンチンカンな「高学歴社員」が会社をダメにする

2017年06月28日 公開

上念司(経済評論家)

日本経済を滅ぼす「高学歴社員」という病

誰も意見を言わないのに、何となく事が決まっていく――会社には、「会議」という不思議な儀式があります。えてして日本の会社の場合、この儀式を実施するにあたって、利潤を追求するという会社の目的は度外視されます。費用対効果から考えたらとても正当化できない莫大な人的、時間的リソースが、この儀式に費やされているのです。

また、日本の会社には相談役という謎のポジションがあります。いつから日本の会社は「お悩み相談所」になったのでしょうか。そんなに世の中の役に立ちたいなら、ボランティアのカウンセラーでもやったほうがよさそうです。しかし、相談役はちゃっかり多額の役員報酬を得つつ、責任を取らずに経営に口出しするのが世の常です。

誰も意見を言わない会議も、やたらと多い相談役も、本来、利潤を追求する会社にはあってはならない存在が、なぜこれほどたくさんあるのでしょうか。

実は、日本の会社には利潤を追求するという目的以外に、もう一つ大事な目的があるのです。いや、むしろこちらの目的のほうがメインなのかもしれません。

その目的とは、一言で言うと「ノーリスク、ハイリターンのオイシイ仕事」にありつくということです。

多くの人は、「傷つきたくない」と思っています。だから、先輩がミスをしても厳しいツッコミはしません。後輩がミスをしても、処分は大甘です。「お互いに致命傷になるようなツッコミは入れない」という習慣を定着させることによって、このぬるま湯状態は実現します。

一見、単なる身内の庇い合いにしか見えないこの行動は、実は「未来の自分のポジションに対する安全保障」という壮大(?)な目的のために、積み重ねられているのです!

しかも、驚くべきことに、これは民間企業のみならず、政府や日銀などの公的機関でも当たり前になっています。歴史を紐解けば、国の運命を左右する経済や安全保障上の意思決定ですら、単なる「身内の庇い合い」でしかなかったという笑えない話が、たくさん転がっています。

たとえば、支那事変から大東亜戦争に至る日本政府の意思決定は、近衛文麿というポピュリストを総理大臣にしてしまったことに8割方の原因があります。近衛を総理大臣に指名したのは引退していた西園寺公望です。当時、80歳を超えていた西園寺は、自ら元老への返り咲きを断るべきでした。そもそも、そんな老人にすべての責任を擦りつけた政府の対応にも問題がありました。

また、バブル潰しに走った日銀は、当時、三重野康総裁が「平成の鬼平」などともてはやされましたが、結果的にはその後、20年間にわたって日本経済を大停滞に陥れました。バブル崩壊後、繰り返し実施された政府の経済対策もすべて失敗しています。むしろ、経済対策をしなかった小泉内閣のときに一番景気が良かったというオマケつきです。

ところが、日銀はその20年にわたって、このときの過剰なバブル潰しは「いいことだった」という誤った歴史観に支配されていました。そのせいでデフレ脱却に向けた大胆な金融緩和は封印され、経済停滞が引き起こす自殺によって10万人以上もの日本人の命が失われてしまいました。

かつて「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」と讃えられた日本企業においても、それは例外ではありません。

バブル時代の就職企業人気ランキング上位を席巻した銀行のうち、現在残っているのは数行しかありません。新聞という業態は、ビジネスモデルそのものが行き詰まってしまいました。

時代の頂点を極めたビジネスモデルであっても、時とともに陳腐化します。余力のあるうちになぜ対処できなかったのでしょうか。

そこには、引退したOBによる無責任な口出しがあったり、かつて業界を席巻したカリスマ経営者の見込み違いがあったり、現場を知らない「経営企画」という謎の部署が立てた〝脳内事業計画の大失敗〞があったり、他にもさまざまな問題がありました。そして、これらの問題を発生させる土壌には、特定の学閥メンバー間の思いやりとか、複雑に絡み合った利害関係とか、個人的な情実とか、そういったものがありました。

ここに、日本の組織が持つ、根深い問題が潜んでいます。政府にも企業にも、本来的な存在目的があります。それは国民の安全を守ることや、経済厚生を高めること、また、利潤を上げたりすることです。

ところが、政府や企業の「中の人」は本来の目的を忘れ、自分自身が「周りから浮かない」ようにすることばかり考えています。彼らは、とにかく敵を作らず、周りと仲良くやることばかりに汲々としているのです。彼らにとって仕事は安定した生活の手段でしかなく、国家目標や企業の成長よりも自分の生活においてリスクを取らないことが徹底的に優先されるのです。

彼らこそが、本書が問題とする「高学歴社員」と言われる人々に当たります。

詳細な定義については本文をお読みください。現時点では、リスク回避的で安定を求める小心者とでもしておきましょう。

彼らの最大の問題点は、リスクを回避するために、現状維持バイアスに流されるということです。ある企業が新規事業をやるか、やらないかという岐路に立たされた場合、一見、新規事業をやらないことでリスクを回避したように見えます。しかし、他社がその新規事業に乗り出して大成功してしまった場合、自社は完全に乗り遅れることになります。しかも、現状維持の決定をした現行の事業が、時代の流れで市場ごと全滅してしまうリスクも片方にはあります。「いま儲かっているからいい」と現状維持に流されることは、何一つ安全ではないのです。

例えば、デジカメの普及によって多国籍企業コダックは文字通り潰れました。

逆に世界シェアではコダックに負けていた富士フイルムは、フィルム技術を別の分野に活用したり、戦略的な企業買収を行なうなどして、フィルムを売っていたときよりも何倍も大きな企業に成長しました。

変わることを恐れなかった富士フイルムが生き残り、現状維持に流されたコダックが滅びたと言い換えてもよいでしょう。新しいことをやらないことがぜんぜんリスク回避になっていないことを示す好例だと思います。

同じことは政府や日銀の意思決定にも言えることです。安全保障法制の整備や年金改革など、政策上の難題に即座に着手することも、先送りすることも、どちらもさまざまなリスクをはらんでいます。しかも、このとき取らざるをえないリスクは、自分のクビを飛ばしかねない、極めて取り扱いの難しいものです。「高学歴社員」はそういうシビアすぎる現実を前に、大抵は思考停止します。その結果、会議はしたけれど時間切れ、安易な結論で現状維持ということになるわけです。

「高学歴社員」によって組織は、あたかもあなたが学生時代に見聞きしたであろう「弱い部活」のような存在と化します。会社の業績が悪化したり、思ったほど伸びなかったりすると、責任者は言い訳に終始し、周りもそれを追及することなく大甘な対応で見て見ぬふりをします。

もし、個性的な創業社長が生きていたら、会議で一喝してみんなの目を覚まさせることでしょう。本来、明治の元勲たちもそういう役割を担っていました。

ところが、「弱い部活」化は大抵創業者が経営の一線から引退した直後から徐々に進行していきます。そのときこの症状を助長していくのが社内にいる「高学歴社員」です。

彼らは、偏差値教育的な秩序を経営に持ち込むことで、厳しい現実から社内が隔離されているかのように錯覚させます。喧嘩はせず、人当たりも良く、敵を作らない彼らは、やがて社内を牛耳るようになります。このまま何も起こらなければ永久に平和が続くことでしょう。

しかし、現実は甘くありません。技術革新や世の中の変化は、社内事情なんて無視です。従来のビジネスモデルは思ったよりも早く陳腐化し、顧客は自社商品にそっぽを向きます。そういう兆候が出始めている段階ですでに非常時です。

ところが、平時の思考に凝り固まった「高学歴社員」は、単なる足手まといどころか、平時の理論で非常時の対応を邪魔したりします。そして、現場の危機感は最高潮に達し、しまいには現場の至るところで反乱が起こります。ここまで来ると、まさに組織は存亡の危機を迎えることになります。

現代のように世の中の変化のスピードが速い時代において、会社経営に平時などというものはほとんど存在しません。ところが、企業は相変わらず「高学歴社員」を採用し、ジョブ・ローテーションというダメ社員養成装置にぶち込んだあと、経営の最前線に立たせてしまいます。現場を知らない「高学歴社員」はトンチンカンな事業計画を立てて、現場を苦しめる。そんな日常が、今日もどこかの会社で展開されています。

これは会社にとっても「高学歴社員」にとっても極めて不幸なことです。そんな「負の連鎖」を終わらせる方法はあるのでしょうか。

※本記事は、上念司著『日本経済を滅ぼす「高学歴社員」』(PHP文庫)より、その一部を抜粋編集したものです。

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