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Voice 編集者の読書日記

『Voice』編集部

2011年11月04日 公開 2022年09月29日 更新

Voice 編集者の読書日記
『奇跡のモノづくり』
 江上 剛 著
 幻冬舎/定価1,260円

「モノづくり立国・日本」は終わった--新興国の台頭にともない、そのような悲観論も耳にするが、しかし依然として日本では、世界に冠たる職人が歯を食いしばって頑張っている。本書は、世界一の技術をもつ企業数社を取材し、モノづくりに人生を懸けた職人たちの苦悩や希望、その技術の素晴らしさを描いたヒューマンドキュメントだ。
 どこまでも飛び、曲がらないゴルフクラブ (本間ゴルフ)、泡の消えないタンブラー(山崎研磨工場)、ノーベル賞研究を支える新素材(クラレ)......。さらに昨今の円高で日本の産業空洞化が叫ばれるなか、世界をリードする光学技術をもつコニカミノルタが絶対に工場を中国に移さないといった、日本人に勇気を与えるエピソードも満載だ。
 著者が「モノづくりに関わる人たちの目の輝きが、いつまでも忘れられません」と述べるとおり、多数掲載された職人たちのまなざしが読む者の心に深く突き刺さる。(E・T)
book_kokoronokea.jpg 『心のケア 阪神・淡路大震災から東北へ』
 加藤 寛&最相葉月 著
 講談社/定価798円

 災害や事件・事故が起こるたびに耳にする「心のケア」。しかし、その実態を知っている人は多くはないだろう。
 本書は阪神・淡路大震災以降、被災された方々のケアや調査研究に従事し、日本初の心のケア専門機関「兵庫県こころのケアセンター」の副センター長を務める加藤氏に最相氏がインタビューし、聞き書きのかたちでまとめたものである。震災直後、東北の被災地で何が起きていたかという現地報告から「こころのケアセンター」の成功と失敗例、支援者自身が留意すべき点までを網羅した。
 震災以降、取材依頼が殺到したが、コメントがもの足りなかったようで記事化されることはほとんどなかった、と加藤氏はいう。だからこそ、専門職でない者もその役割を担う心のケアの本質を知るうえで、類書のない一冊といってよいだろう。最相氏による巻末ルポ「1・17から3・11へ 兵庫県心のケアチームの111日」も必読である。 (T・F)
book_nikkann.jpg『ほんとうは、「日韓併合」が韓国を救った!』 
 松木国俊 著
 ワック/定価1,575円

 日韓併合に対する議論は数多く存在するが、本書の特徴は、商社に勤務し、実際に現地でビジネスをした人物が、その時代の違和感から真相を追求したということだ。学校で教わる、またマスコミで流される日韓併合や韓国のイメージを、豊富な経験と資料とともに解説していく。日韓間で真に良好な関係を築きたいという、著者の根底にある思いがひしひしと伝わる。           (T・K)
book_kakusa.jpg『税と格差社会』
 林 宏昭 著
 日本経済新聞出版社
  定価1,995円

 いま日本で問題となっている地域や年齢層、所得などによる格差社会。これらを是正するには、どんな税制改革が望ましいのか。主要な税である所得税、消費税、法人税を中心に、丁寧な考察が続く。近年、政策目標として掲げられる「税と社会保障の一体改革」については、それによってどんな社会をめざすのか明らかに示されていない、と指摘。やはり問題は政治不信なのだと納得。   (T・N)
book_koubai.jpg『紅梅』  津村節子 著
 文蟄春秋/定価1,200円

 2005年2月に舌癌の放射線治療を受けてから1年後、よもやの膵臓癌告知を受け、闘病のなか自らの死期を強く意識しはじめる夫。一方、締め切りを抱えた作家の妻は、満足な看病もできずに自分を責める日々。そんななか、夫は壮絶な死を迎えるのだった。著者の夫・吉村昭氏との1年半にも及ぶ闘病と死を、妻と作家両方の目から見つめ、描かれた書。力強く小説へと昇華された傑作だ。       (M・T)
book_takeda.jpg『日本人はなぜ日本のことを知らないのか』      竹田恒泰 著
 PHP研究所/定価756円

 2011年上半期のベストセラー『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか』(PHP新書)を著した明治天皇の玄孫が、次のテーマに選んだのは「日本はいつできたのか」。世界中の国民が当たり前のように知っている自分の国の成り立ちを、日本人の多くが答えられない。これはやはり異常事態ではないか。「現存する世界最古の国」の奇跡を、強い信念をもって語った力作である。 (T・H)
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