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#一行怪談創作部 優秀作品発表!

2017年10月30日 公開

吉田悠軌

違和感、視点、オチ……怪談の怖さのキモ

 

 今回の応募作品中には「影」というテーマが頻出しています。

 

月のあかるい晩、ひとり路地を歩いていると「お暇をいただきます」とか細い声がして足元からわたしの影がゆっくりと離れていった。
宮下 倖(@scriptor_miya)

 

子どもの頃に私と影踏み鬼をしてからずっと、友人の影は頭だけが歪に伸びている。 
じゃくじろう(@jackjirou)

 

 また「影」と並んで「鏡」をテーマとする作品が多かったのも気になりました。現実と同じでありながら逆さまでもある違和感を手がかりに、「影」と同じく最も近しい身体そのものが揺らぐ怖さを表現したかったのでしょう。

 

「鏡ってさ~、そうやってずっと覗いてると、自分が鏡の外にいるのか中にいるのか…」という声が鏡の中から聞こえ後ずさると「分からなくなるよね~」という声が背後からした。
於久泡(@ogu_awa

 

一人の女に見えるが、朝から洗面所で笑いあっているのは、「鏡に映らない姉」と「鏡にしか映らない妹」である。
あじー(@ajimatakashi

 

 そして物語を語る、その中でも怪談を語るという点において、以下の二作がスタンダードかつバランス良くまとまっていると感じました。

 

祖母の棺に「寂しくないように」と入れておいた家族写真が、火葬後、キレイに焼け残っており、写真の中の遺された家族の顔に、一、二、三…と番号が書かれていた。
うをりんぐ

 

夏休みの登校日、海で溺れて死んだクラスメイトに黙祷を捧げることになったが、やたらに長いとおもって顔を上げると、全員が俺のことを見て満面の笑みを浮かべていた。
ヤマギシルイ

 

 うをりんぐさんの作品は、語り口において全く衒いがない。まさに出来事を順番通り並べていますし、火葬場という場所選びも怪談として非常にストレートです。丹念な意匠は凝らされておらず、シンプルで普通すぎるとも言えるでしょう。ただ、焼却炉の中で家族写真だけが焼け残る、家族の顔に番号がふられるという着想が、それこそ「普通に」怖い。いちおう言外に匂わせるラストになっていますが、とはいえノータイムで理解できるような分かりやすいオチでもあります。この作品の場合、その普通さがパワーになっている。逆に、(私も含め)言外に言外にと小賢しく工夫しすぎるのは間違っている!と襟を正される気までしてきます。もちろん工夫も大事ですが、それ以上に「とっても怖いものを書くのだ」というシンプルな初期衝動を忘れないことの方が大事なのです。

 力技のストレートでもっていた作品といえば他に

 

実家が火葬場の傍だったので、洗濯物とかに匂いが附く事があって、ご馳走してくれたアンタの手料理の香りでそれを思い出してしまったワ。
てつぺんかけたか(@t_kaketaka)

 

 がありました。おそらく今回の最多投稿者であるてつぺんかけたかさんは、やけに文体に特徴がある人で、私がこれまで述べてきた持論と相反する作品も多かったです。が、これはもう理屈抜きに奇妙な不気味さが際立っていると認めざるをえない。最後の「ワ」で、異常だったのは火葬場でもアンタでもなく、語り手本人だったということが明確になるおぞましさ。「ワ」という一文字の不気味さの勝利です。

 この作品と好対照に、ヤマギシルイさんは視点が切り替わる「上手さ」が際立つ作品でした。怪談を語る上で、視点の切り替えというのは効果的なテクニックです。ずっと正面を見てたけど、ふと上を向いたら実はそこに……といった単純な視点移動から、物事の見方を切り替えてみたらハッと怖ろしい事実に気づくパターンもあったりします。ただそれは体験者本人の視点に限定すべきで、視点そのものが色々な人に移ってしまったら効果が薄まります。ましてや幽霊・怪異側の視点になると(それこそ『ジョーズ』やスプラッタ映画におけるモンスター視点のように!)面白いかどうかは別として、怪談的恐怖からは遠ざかってしまうでしょう。

 本作では、前段が状況説明→後段は語り手本人の視界という、叙述のメタレベルでの転換が行われています。しかしそれが先ほどから良くないと言っている「叙述の飛躍」になっていないのは、前段が目を瞑って黙祷しているシーンだからです。視界を遮断して死んだクラスメイトを追悼しているという「思考」の状態なので、それが客観的に引いた状況説明であっても不自然ではない。そして目を開いた瞬間に客観から主観、「思考」から「今ここ」に戻り、そこで世界が変化していたという恐怖のダイナミズムが生まれもする。そのタイミングで「俺」というぶっきらぼうな一人称が出てくるのも、ダイナミズムを効果的に演出しています。客観性の高い「自分」ではなく、より主観的な「俺」が、ここでは正解でしょう。

 そしてこの作品で本当に怖いのは「全員が俺のことを見て満面の笑みを浮かべていた」シーンではなく、その前の「やたらに長い」真っ暗闇の黙祷です。もちろん最後のオチがないと物語が成立しないため、オチ部分の描写は必要ですし、それはある程度センスの高い怪現象であるべきです。ただ、しつこいですけれども、怪談の怖さの本当のキモとは、自分の周りで何か奇妙なことが起こっているのではないか……といった予感が生まれる瞬間にこそあるのです。

 同じく目を閉じた状態を活かした切り替えの妙は

 

規則正しい包丁の音で目を覚まし、寝惚け眼で起き上がると、隣の妻が青い顔でわたしを止めた。
クロイ匣  (ハコ)

 

にも感じました。目を瞑った状態での日常的だが不気味な音→半覚醒の意識と半明瞭の視界→ハッキリした視界に凶事を予感させる妻の顔が映る。と、読点ごとに視界が変わり、「起承転」の三幕がリズミカルに展開する。この場合は「結」を描かず、予感で終わらせても怪談が成立していますね。

 

 ……といったところが私からの総評となります。色々とご不満あるでしょうが、むしろ「吉田の言っていることは間違っている! こうやってつくった一行怪談の方が面白い!」という意見は大歓迎です。強がりや謙遜ではなく、本当に純粋にそう思っています。なんとなくの思いつきで始めた「一行怪談」というシロモノが、世の中に波及し、私の手を離れてもなお発展していったら、これ以上の喜びはありません。

 PHPからは優秀5作にそれぞれ一言だけコメント付けろと言われたのに、ここまで長い文章を書いたのもそのためです。長くなりすぎたのでこれ以上のコメントは付け足せないのですが、最後に総評内で触れられなかった佳作も紹介しておきます。この選考についてはもう理屈とかではなく、私の完全な趣味嗜好であります。

 

貝殻だとおもって集めたのに全部人の爪だったからがっかりして捨てた 
篠原ことり(@PetitKotori)

 

自分の住んでいる町が舞台で自分とよく似た名前のホラー小説の巻末を見たら、「この物語はまだフィクションです」と書いてあった。 
宇呂田タロー(@ur0ta1)

 

さっき乗ったエレベーターにマイナスの階数しかなくてあぁ金曜日に乗っては行けないやつだったかと思うけど、既にものすごいスピードで降下を始めてしまった。
はなまめ(@gp_c_)

 

おいで、と呼ぶと車の下から出てきた猫の胴体がいつまでもいつまでも続いて、終わる気配がない。
みね(@mine__ml)

 

うちの村では稲刈りのあと、田んぼの案山子を集めてきて火をつけて燃やすけれど、燃えた後に散らばった骨を集めて埋めるのはぼくたち子どもの仕事だった。 
大沢愛(@ai_oosawa)

 

二ヶ月前に撮った花畑の写真のなかに、人が写っていたことに気付いたのは、日毎にその人影がこちらに近づいて来ているからだ。 
リリ(@aster_cheap)

 

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