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「携帯電話に大手コンビニチェーンも...」日本人が知らない北朝鮮市民の生活

辺真一(「コリア・レポート」編集長)

2011年12月19日 公開 2022年12月26日 更新

「携帯電話に大手コンビニチェーンも...」日本人が知らない北朝鮮市民の生活

「そもそも北朝鮮というのはどんな国か」「どんな暮らしをしているのか」など、政治、経済から文化、暮らしにいたるまで多くの人は疑問を抱えているのではないだろうか。

コリア・レポートの編集長を務め、フリージャーナリストとして活躍する辺真一氏が、日本人には全く不可解な国、北朝鮮がどのような国なのか丁寧に解説していき、ニュースではわからないリアルな北朝鮮を明らかにしていく。

※本稿は、辺真一編集協力、株式会社レッカ社:編著『どうなる!これからの北朝鮮』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

 

一般市民はどこで買い物をするのか 

なんでも手に入る巨大市場チャンマダン。

社会主義国家では労働を共有し、それによって得た食糧や物資は平等に分配されるのが基本である。北朝鮮でもこの原則にのっとり、民衆の生活に必要なものは配給によって賄われてきた。

このため北朝鮮では長い間、さまざまな品物を自由に売買できる大規模な市場は必要とされず、農民たちが余った農産物や日用品を売買する小規模な市場が定期的に開催されるのみであった。

この市場では工業製品や主食である米の売買は禁止されていたが、こうした物品は配給によって必要な量を得ることができたため、特に問題にはならなかった。

ところが、1990年代に入るとソ連や東欧の社会主義国家の崩壊を受けて北朝鮮の経済状態は急激に悪化し始め、配給が安定しない状況が続くようになってしまう。

これにより、民衆は深刻な食糧難に陥り、大量の餓死者が出るようになった。国営の商店からも食料品が消えてしまったため、生活に苦しむ農民たちは市場を開いて食料品を売買するようになっていった。

しかし、社会主義国家では私的な経済活動はその理念に反するものであるため、自由に商品をやり取りできる市場の存在は許されない。政府当局は市場を統制しようと試みたが、民衆たちはこれに反発して争いになることもあったという。

こうして崩壊しかけていた経済状況を立て直すため、北朝鮮政府が打ち出した経済改革が、2002年に発表された「七・一経済管理改善措置」である。

続く2003年には「市場管理運営規定」も採択され、改革によって農民たちの市場は「総合市場」として合法化され、企業や共同農場もこの市場で商品を取引できるようになった。また、それまで市場での取引が禁止されていた工業製品も、これ以降は合法的に市場で取り扱うことが許されるようになった。こうして誕生した市場は、北朝鮮ではチャンマダンと呼ばれている。

 現在、チャンマダンは国内に300カ所以上あるといわれている。チャンマダンでは食料品や衣料品、燃料や家電製品などあらゆる商品を取り扱っており、民衆は生活必需品のほとんどをここで購入するという。

商品のほとんどは中国製だが、韓国やロシア、日本製品も売られていた。なかでも日本との関係が断絶するまでは日本製の古着は質がよく、人気商品となっていた。

 

北朝鮮にもコンビニがある!?

開城工業団地にファミリーマートがオープン。

コンビニチェーンのファミリーマートは日本国内でも大手だが、実は海外の店舗数が国内店舗数を上回っている。2011年5月末現在でトータル約1万8100店舗のうち、国内は約8300店、海外は約980店という状況だ。その大半がアジア圏への進出で、特に韓国では約5800店が展開している。

資本主義社会の象徴ともいえるコンビニが北朝鮮にもあると聞けば驚く人も多いかもしれないが、経済特区である開城(ケソン)工業地区には1店舗だけだがファミリーマートが店を開いている。開城工業団地内に設置された、韓国の現地法人による開城工団店だ。

開城工業団地は北朝鮮にとって特別な意味を持つ場所。朝鮮戦争以来、はじめて南北双方が実質的に協力した最初のプロジェクトだからだ。

それは1998年、北朝鮮の金正日と韓国の現代グループの創始者が南北共同開発事業の推進を合意したことから始まった。そして2000年の南北首脳会談において、両者は正式に「工業地区建設運営に関する合意書」を締結した。

2003年に開城工業団地の着工式が行われると、翌年には100万坪に渡る造成事業と試験団地の工事に着手し、100を超える韓国の中小企業のうち15社を選定。さらに同年のうちに、北朝鮮の労働力と韓国の資本・技術が結合した記念すべき最初の製品が出荷された。

その後も順調に事業は進み、2007年には衣類や台所用品などを製造する韓国の中小企業約70社の入居が決まり、造成も含めて約1万8000人の北朝鮮人労働者を雇用したのだった。

韓国企業の払う貸金がいったん北朝鮮当局に納められるため、北朝鮮当局の貴重な収入源となっている。だが、武装地帯の近くにありながら南北間で人、物、金の流れが形成されている開城工業団地は、十分に成功を収めたといえるだろう。

いくら北朝鮮国内であっても、画期的な経済事業が展開する開城工業団地にならコンビニがあっても不思議ではない。むしろ当然とも考えられるのだ。

なお、つい数年前までは金剛山観光地区にもファミリーマートがあり、金剛山温井閣休憩所店と金剛ビレッジ店の2店舗がオープンしていた。だが、2008年「韓国人観光客射殺事件」が発生したあとは金剛山の観光が中止されたため、残念ながら2店舗とも閉鎖されてしまった。

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