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新防衛大綱の焦点は対中戦略

上杉隆(ジャーナリスト)

2010年12月13日 公開 2022年12月20日 更新

上杉隆

"案の定、「武器輸出三原則」に反論噴出

 政府・民主党が「防衛大綱・中期防衛力整備計画(中期防計画)」の策定を急いでいる。

 尖閣諸島・中国漁船衝突事件、韓国・延坪島での砲撃事案など、周辺では次々と不測の事態が発生している。激変する東アジア情勢に対応するため、政府による安全保障政策の見直しが急務となっている。

 そもそも民主党は、先の選挙のマニフェストのなかで、2010年中の防衛大綱・中期防計画の策定を謳っている。12月の改定に向けて、11月末になって党の外交・安全保障調査会が提言しようとしているのも、その着地を急ぐためだ。

 中川正春調査会長より提出された「素案」によれば、「武器輸出三原則」を緩和するという変更がなされている。これによって、ようやく米国以外の国への武器技術供与や共同開発も可能となる。

 そもそも「武器輸出三原則」は、1967年の三木武夫首相時代に厳格化された。今回の改定がなされれば、67年の佐藤栄作首相当時への原点回帰となる。

 時代と世界情勢に合わせる防衛大綱の改正は、政府の責務でもある。そうした意味で、調査会の素案は現実に即したものといえるだろう。

 だが、普天間基地問題などでの対応をみても明らかなように、外交・安保政策における民主党の政治姿勢は、とうてい信用に足らない。案の定、党内からは「素案」、とくに「武器輸出三原則」についての反論が噴出した(11月24日現在)。

 国民のみならず、同盟国にまでブレた印象を与え、実際、決定に至る過程、また決定後にも「変節」を繰り返した民主党の外交防衛政策を、再び繰り返すのだろうか。

 はたして2010年中に、激変する東アジア、また国際情勢を前に、民主党として初の防衛大綱の改定はなるかどうか。

 前回の「16大綱」では、「9.11米同時多発テロ」後ということもあって、大量破壊兵器や国際テロ組織への対応が構想の中心になった。

 直前の国際情勢に左右されやすい防衛大綱であるが、今回の見直しも「武器輸出三原則」以外に、最近の国際情勢を反映した注目すべき点は多々ある。

 なんといってもその最大の焦点は、中国、ロシア、朝鮮半島を中心とする東アジア周辺事態への対応である。

 もっと端的にいえば、軍事費を増大させる中国、とりわけ中国海軍の台頭に対抗するための対中防衛戦略をどのようなものにするのか、その点に神経が注がれているようだ。

第一列島線が日常的に侵されている

 特筆すべきは、南西諸島への自衛隊員の配備・増員だ。現在15万5,000人程度の陸上自衛隊の定員を2,000人ほど増やし、それを沖縄方面に配備しようというものである。

 現在、本島の自衛隊員は約2,000人、それを4,000人規模に倍増して、手薄な南西諸島に重点的に配備しようというものである。

 また、将来的には沖縄本島の第15旅団を師団化し、米軍に依存していた沖縄の防衛戦略を自前で強化改編しようとしている。

 新防衛大綱の狙いは、この点をみても、端的に対中国戦略が構想の中核であることがわかる。

 今世紀に入ってから、中国海軍は繰り返し、第一列島線(九州から南西諸島、台湾、フィリピンへ至るライン)の突破をうかがっている。とくにここ2、3年は、そうした動きに拍車がかかっている。こうした動きは、日本の防衛安保上の脅威となるものである。

 2008年秋、中国海軍の駆逐艦四隻が沖縄本島と宮古島のあいだを抜けて太平洋に至り、さらに別の駆逐艦隊四隻も津軽海峡を通過して、同じく太平洋に進出している。

 翌2009年には、駆逐艦5隻が南西諸島を通過したあと、東京都沖ノ鳥島付近まで東進し、2010年になると、3月に6隻の駆逐艦が、また4月には10隻の駆逐艦隊が、それぞれ沖縄本島と宮古島のあいだを通過して太平洋上に進出している。

 鹿児島県から与那国島に至る第一列島線は、日本の戦略上の重要な防御線である。そこを日常的に侵されるということは、日本の安全保障上の根幹を揺るがすことにほかならないという考え方が、今回の防衛大綱の柱にあるのだろう。

 国家の安全保障に与党も野党もない。実際、野党自民党からは、防衛大綱の策定に関しては進んで協力する声が大勢を占めている。すると問題は、民主党の党内事情ということになる。

 信頼を失いかけている民主党の外交防衛戦略、もう失敗は許されないのではないか。

"

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