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社会

【対談】養老孟司×羽生善治 “AI”を使い「創造力」を発揮できる人が活躍する時代?

養老孟司(解剖学者),羽生善治(将棋棋士)

2020年10月29日 公開 2022年10月06日 更新

 

発見と脳の不思議な関係──ひらめいた瞬間に自分が変わる

【羽生】なるほど。ところで、そうした発見を伴う「創造」は、どういう仕組みで生まれてくるものなんでしょうね?何にもないところからポンッと新しい何かを生み出すという。やはり何か、今まで生きてきた積み上げの中から出ているわけですよね。

【養老】頭の中で何か回路が抜けるんですよ。ポーンと。だから、その前の自分とその後の自分がまったく違っちゃってる。脳の中で、実際にシナプスのつながりが変化しているんじゃないですか。

【羽生】ああ、そうなんですか。

【養老】ドカーンとひらめいた瞬間に、自分が変わってしまう。システムって、よくそういうことを起こすでしょ。だから、統合失調症の専門家曰く、統合失調症の人が「トイレに入って出てきたら、世界が変わっていた」と言うことがある。

通常はあまりそういう体験をしないけれど、病気の場合にはそうした現象がよくある。アルキメデスの場合も多分、お風呂に入っていて、急に世界が変わったんでしょう。

アルキメデスは極端な場合だったかもしれないけれど、僕らは小さい発見をしょっちゅう繰り返しているじゃないですか。「目からうろこ」というあの感覚が、まさに発見の一つだし、あれこそが創造性だと思う。なのに、今は発見を本人の「能力」とかに被せがち。

だから、創造性があるとかないとか言うんです。僕は発見は能力じゃなく、「状況」だと思うんですね。その人と、その状況とがセットになって、「あっ!」に結びつく。もちろん、今までのその人なりの経験や考えがベースになっているのは確かですよ。

だから、有名な話として、ポアンカレ(フランスの数学者)が、馬車に乗ろうとして、踏み段に足をかけた瞬間に天啓がやってきたという。フックス型微分方程式のすごいアイデアをひらめいちゃった。

それまでさんざん考えてきたものが、その瞬間に脳の中で抜けるんですよね。僕だって、それを楽しみに虫の分類をやってるもん。いつもどっかで「ああ、抜けないかな」って。

 

本当に集中している時は、時間の概念がなくなる

【羽生】馬の上やトイレの中なんていう話もありますけれど、要するに、何にもしていないときや、ぼんやりしているときに、そういうものが生まれることが多い。ぼんやりしているときに、脳の中では何が起こっているんでしょうね。

【養老】本人はぼんやりしていると言うんだけども、そのことについて論理的に、段階を追って考えるようなことはしてない。だから、何て言うんだろうな。宙ぶらりんの状態に置いているというか。そうすると、脳みその方が勝手に動くんですよ。脳みそって普段、勝手に動いてるんで。

僕ね、しみじみ感じるのは、運動選手なんかまさにそうだと思うんです。トレーニングでさんざん身体を動かすでしょ?しかも、バットを振るなり、球を投げるなり一定の型をずっと続けている。演奏家が弓を弾くなんていうのも同じですね。それで夜寝ながら、無意識に同じことをやっているわけ。

【羽生】 ああ、そうなんですか。

【養老】寝ている間に身体が勝手に動いてますよ。要するに、脳がシミュレーションを繰り返してるの。だから、本人は休んでるつもりだけれど、実は休んでいなくて脳はずっと動いている。だからあんまり練習し過ぎると、脳が疲れちゃってスランプになるんです。

羽生さんがいい手をひらめく瞬間はどうですか?対局中にぼんやりしてる?(笑)

【羽生】ぼんやりしているときもありますが、こうだったと分析するのは、すべて後付けになっちゃう。その瞬間は、自分でも、「今、ちゃんと考えているのか、ぼんやりしているのか」という意識がないんですね。だから本当のところはよくわからないというのが、正確な答えなんでしょうね。

あと、本当に集中しているときは、時間の観念がなくなるんです。だから、記憶が鮮明なときは、まだあまりちゃんと集中していないという(笑)。時間の観念もないし記憶もない。それが、いい集中をしているときであり、アイデアもひらめくときなんですよね。

ただ、四六時中そんな状態ではいられないですよ。人間って、四六時中発見をするようにはデザインされていないでしょうし(笑)。

 

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