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社会

コロナで「年金制度」がついに破綻?  政府の先送りが招いた“大きすぎる代償”

鈴木亘(学習院大学経済学部教授)

2020年12月04日 公開

 

マクロ経済スライドは自動先送り装置

では、デフレで年金カットができなければどうなるのか。年金カットは翌年以降に先送りされ、20年間のカットの期間もそのまま後ずれすることになる。このことを、厚生労働省はマクロ経済スライドの「自動調整機能」と称している。

デフレで計画が狂ったとしても、待っていればいずれはカットできるのだから問題ないという立場なのだが、実はこれは大間違いである。

年金カットの期間が後ずれすればするほど、現在の高齢者は年金カットから免れ、その先送りした負担は若者や将来世代に押しつけられることになる。さらに、デフレが長く続き、この年金カット期間の先送りが延々と繰り返されれば、年金財政がどんどん悪化して、いずれ行き詰まる。

カットできる状況を待っているうちに、積立金が先に枯渇してしまう事態すらもあり得る。その意味で、マクロ経済スライドは自動調整ではなく、「自動先送り装置」と呼ぶべきである。

その後の日本経済の歩みについては、改めて説明するまでもないであろう。その後も長くデフレ経済が続き、ようやくにデフレを脱却するのは、2012年末から始まるアベノミクスを待たなければならなかった。

しかしながら、2014年4月に消費税を5%から8%に引き上げたことを機に、再び経済および物価は低迷し、現在に至っている。

したがって、2004年度から2020年度までの間で、マクロ経済スライドを発動させ、年金カットを実現できた年はわずか3年間(2015、2019、2020年度)にすぎない。発動できたカット幅も、2015年こそ0.9%であったが、2019年度は0.5%、2020年度はわずか0.1%である。

ここで不思議に思うことは、既に1999年から、物価上昇率はずっとマイナスであったことである。2004年も完全にデフレ下にあったにもかかわらず、デフレ下では発動しないというルールを作ったのはなぜなのだろうか。

その後、まさか10年近くもデフレが続くとは想像できなかったにせよ、しばらくデフレが続くことは容易に予想できたはずである。

 

誇りに思ってどうするのか

しかも、さらに大きな問題は、2004年改革で高齢者の年金カットを決断し、それを行わなければ年金財政が維持できなくなるという事実を、どうやら政治家や国民の多くが忘れてしまっていることである。

例えば、野党の中にはマクロ経済スライドが発動できる状況になると、「年金カットに反対!」として政治争点化しようとするところがあるが、マクロ経済スライドは今から15年以上前に決まった政策であり、毎年、カットすべきか否か、政府が裁量的に判断しているわけではない。

もし、年金カットに反対するのであれば、その分、年金財政を悪化させないための対案を提示しなければならない。実は、政府の中にいる社会保障の専門家たちでさえ、年金カットの必要性を本当に理解しているのかどうか怪しい面がある。

例えば、先述の政府の「全世代型社会保障検討会議」であるが、2019年12月に発表された中間報告に、「少子高齢化が進む中でも、アベノミクスによる就業者の拡大によって厚生年金の加入者が500万人増えた結果、将来の年金給付に係る所得代替率が改善した」という記述がある。

マクロ経済スライドが発動できず、所得代替率が下げられないことを、むしろ誇っているかのようである。誇りに思ってどうするのだろうか。

 

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