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インフラ輸出は、援助か商売か

2010年09月13日 公開

山形浩生(評論家兼業サラリーマン)

途上国援助の基本理念とは?

 この欄で何度か、ベトナムへの新幹線売り込みの話をしてきた。日本の成長戦略の大きな柱である、インフラ輸出の一環だ。

 さて前にも書いたとおり、これ自体についてぼくはとくに文句はない。日本のインフラの優秀性は論を俟たない。優位性があるものを売れば、売り手・買い手の双方にメリットが生じるだろう。そしてその過程で、日本側にもよい影響がある可能性もある。日本のインフラは優秀だがコストが高い。無意味な技術オタクぶりをむきだしにして変な独自仕様に走り、汎用性を失ってガラパゴス化する例は多い。外に売るとなったら、それも多少は見直されそうだ。だから、アメリカに新幹線を売り込むといった話であれば、ぼくは諸手を挙げて賛成だ。

 が、ベトナムの新幹線や原発、道路となると、少し話がややこしくなる。そこにODA、つまり開発援助が絡んでくるからだ。日本の成長戦略の一環となると、それはつまり日本がどうやって儲けるかという話だ。でも、途上国の援助というのは、基本は自国が儲ける話ではないんだよね。相手の国にどう役立つかが最優先のはずだ。

 こういうと、そんな甘っちょろいお題目を持ち出してどうする、と同業者のあいだでも嘲笑されたりする。でもぼくは、けっこうこれを真面目に信じているのだ。というのも、基本的にはそれが開発援助の発想だからだ。第一次大戦とその賠償で疲弊したドイツは、ナチスの台頭を許してしまった。その教訓から第二次大戦後にアメリカは、敗戦国の復興を支援するという前代未聞の間抜けな事業を始めた。各国が経済力をつけて安定すれば、戦争なんかしようとは思わないだろう。そしてそれ自体が世界全体、ひいては援助をする国にとっても有益なはずだ。これが途上国援助の基本的な理念だ。

 むろん、その過程で自国企業にお金が落ちるなら、それはそれでけっこうな話ではある。でも、それはあくまでおまけでしかないはずなのだ。

 さてもちろん、これはお題目だ。そこまで気前のいい聖人君子に徹するのはむずかしい。日本がお金だけ出させられて、収益面でも名誉面でもオイシイ部分が他国にさらわれるのは悔しいし、他の国がエグい自国利益誘導援助をしているのをみると、日本だけ縁の下に甘んじているのもアホくさく思える。

 それに、いまや援助なしだと戦争をしそうな国も見あたらない。一時は、テロ防止のために貧困脱出援助を、といったお題目もあった。でも最近では、はた迷惑な自爆テロをやらかすのは、本当の貧乏人ではなく、中途半端に学をつけた小金持ちだということもわかってきて、これも説得力がない。当初の援助理念もどこまで妥当なんだろうか。

国としての態度を明確にせよ

 すると何のために援助をするのか、というのを日本国民に説明するのは至難の業だ。顔のみえる援助、国益に資する援助、なんてことはよくいわれる。でも、国益って何? これは現場でもよく議論になる。日本企業に仕事が落ちるのが国益だろうか?

 そうだ、という考え方もある。そして、この考え方は最近強まっている。でもそれなら、援助のあり方も変わってくるはずだ。いまの援助は、先方の国が頼むからやってあげる、というのが建前だ。だからこそ、君たちもやる気をみせてね、という前提で話が進む。土地収用や関係機関の調整はやってほしいし、お金も一部は自前で用意しろよ、という話になる。

 でも、日本の儲けが最優先なら話は違ってくるだろう。インフラ輸出が日本の成長戦略だというなら、それはつまり日本の商売なんだから、先方の政府が手伝う義理はない。日本が根回しも調整も土地の手当ても全部やるのが筋だということになる。

 そしてむろん、日本企業への利益誘導を明言するでかいプロジェクトが入ってきたら、他のプロジェクトも、同じ目でみられるのは避けられない。ODAでやる事業の大半は、そもそも商業的な採算ベースに乗らないようなものだ。でも、外国に新幹線を売りつけて儲けるぞ、と日本政府が実質的に宣言しているときに、他のプロジェクトでは儲ける気はありません、といってどこまで納得してもらえるだろうか。じつは、すでに一部でそういう雰囲気が出ているという。きれいごとをいっても、日本に利益誘導したいだけじゃないの、というわけだ。

 ぼくもこれについて明確な考え方があるわけじゃない。どちらの言い分もわかるし、どっちが原理的にも実利的にも優れているとは断言できない。でも、両立はむずかしい。もしインフラ輸出を本気で考え、しかもそれを開発援助やそれに類する政策金融と絡めるなら、国としての態度は明確にしなくてはならないだろう。われわれがここで実現したいのは何なのだろうか?

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