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温泉が目的の“一人旅”...全国3600湯を巡ったマニアが教える「いい湯」の見極め方

高橋一喜(温泉エッセイスト)

2021年08月13日 公開 2022年02月04日 更新

 

温泉の効能を享受する

せっかく温泉に入るのだから、温泉のもつ効能も十分に享受したい。

人は、温泉に入ることで何らかの効果を期待している。「体の不調が改善する」「肌がキレイになる」などが典型的だろう。

温泉の「薬理効果」である。温泉には地上に噴出するまでの過程で溶け込んだ温泉成分が含まれている。これらを皮膚から吸収することによって体によい効果を得られるのだ。先の4つの効果と合わせれば、体の不調や肌の具合が改善することも期待できる。

どんな泉質の温泉にも共通する効能は、神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、病後回復期、健康増進などで、これを「一般適応症」という。

そのほかに、10ある泉質ごとに効能が認められる。これを「泉質別適応症」という。たとえば、「塩化物泉」なら切り傷、やけどなど、「二酸化炭素泉」であれば高血圧症など、「含鉄泉」であれば貧血など、「放射能泉」なら痛風など、「酸性泉」なら慢性皮膚病など…といった具合だ。

これらの効果を得るには、2つ条件がある。

1つめは、源泉が新鮮であること。循環ろ過され、塩素消毒された湯はもともとの温泉成分が薄まり、源泉の原型をとどめていないケースが多い。これでは効能は期待できないため、100%源泉かけ流しが望ましい。

2つめは、十分に温泉につかること。友人や家族などと温泉旅行に行くと、入浴は二の次になりがち。観光やおしゃべりに夢中になり、1泊2日の滞在で1回しか温泉に入らなかった、ということになりかねない。ソロ温泉でゆっくりと温泉に入る時間を確保することで、効能を得やすくなる。

だが、実際のところ、1泊2日の短期間で温泉から十分な効能を得るのはむずかしい。肌に効く泉質であれば、1日、2日でも変化を感じられるかもしれないが、体の不調が温泉の効能ですぐに治るというのは考えにくい。

「湯治は、七日一回り、三回りを要す」という言葉がある。温泉の効能を得たいのであれば、7日を3回、つまり3週間湯治するのがよいと昔から言われているのだ。

ヨーロッパのバカンスならともかく、今の日本では3週間も温泉地に滞在するのは現実的ではないだろう。だが、日帰りや1泊2日よりも、2泊3日、3泊4日など少しでも長い滞在のほうが効能を得やすいのは間違いない。

1泊2日だと、温泉に専念したとしても、移動時間を考えればある程度慌ただしい旅になってしまう。その点、同じ宿に2泊以上連泊すると、だいぶ余裕がもてる。2泊3日なら2日目はまるまる温泉に入って過ごせる。1カ所に腰を据えることで、精神的な面でもリフレッシュ効果は大きくなるのだ。

 

「飲泉可」はいい温泉の証し

鮮度の高い温泉かどうかを見極めるポイントをもうひとつ紹介しておこう。

ずばり、飲泉ができるかどうかだ。

飲泉とは、その名の通り、温泉を口から飲むこと。泉温が低いヨーロッパの温泉地では、盛んに飲泉が行われ、入浴よりも飲泉がメインの温泉地もあるほどである。

温泉につかって肌から温泉成分を吸収するよりも、口から飲んだほうがダイレクトに体内に温泉をチャージできるので、より高い効能を期待することができる。ドイツでは温泉が「飲む野菜」と表現されるほどである。

直接、温泉を体内に取り込めるということは、その温泉は本物であり、鮮度が高い証しでもある。循環ろ過で塩素殺菌していたり、体に悪い不純物がまざる可能性のある源泉は、保健所から飲泉の許可が下りない。

日本の温泉地にも、飲泉のできる温泉施設が存在する。経験則からいって全体の1~2割くらいだろうか。四万温泉(群馬県)や三朝温泉(鳥取県)、長湯温泉(大分県)、湯平温泉(大分県)などは飲泉で有名な温泉地で、気軽に源泉を味わえる飲泉所も設置されている。

飲泉のできる温泉地をソロ温泉の行き先として選んでもいいだろう。温泉を飲んで、湯船につかる。体の内と外から温泉効果を得られるはずだ。

ただし、飲みすぎには要注意。温泉にはさまざまな成分が溶け込んでおり、適切な量を守らないと、体に害が及ぶ可能性もある。

 

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