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生き方

離婚を決意した女性の周りから「ずるい人」が消えた理由

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年11月03日 公開 2023年07月26日 更新

 

「よく思われたい」と思いすぎて神経症になる

虚栄心はありがたくないものだが、残念ながら誰もが持っている。

心理学者のアドラーなどがいうように、神経症者は生きる目的を間違えている。 自分の生きるエネルギーの使い方を間違えている。

虚栄心の反対は自尊の感情である。自らを尊敬する心である。人は自分を尊敬できないから虚栄心が強くなる。何もしないから虚栄心の強い人になる。

何もしないのは、生きる目的を見つけられないからである。虚栄心を捨てようとしても捨てられるわけではない。それよりも信じられるものを探すことである。

とにかく何か信じられるものを探し、それを手がかりに虚栄心を捨てる。

虚栄心がなぜ問題か。それはストレスを生み出すからである。私たちの内なる力を破壊するからである。

虚栄心の強い人は不眠症になるかもしれないし、うつ病になるかもしれないし、自律神経失調症になるかもしれない。とにかく虚栄心は生きることを辛くする。

アドラーや精神科医のベラン・ウルフがいうように、神経症は虚栄心病である。心の中に眠っている潜在的可能性は、発揮される機会を待っている。

心理学者のウィリアム・ジェームズは、人間はみな極めてわずかな部分の可能性しか使っていないと主張した。

建設的なストレスや、ある状態――大恋愛、宗教的熱情、戦いの最前線――に置かれて初めて、私たちは深く豊かな創造的資質に気づく。そして体の中に眠っている大量の生命力に奮い立ち始めるのである。 

マインドレスネスは、自己イメージをおとしめ、選択肢を狭め、独りよがりな心構えをもたらす。このようにして、私たちは自らの可能性を浪費する。

ハーヴァード大学のエレン・ランガー教授は、「発育を阻止された可能性」という。

私たちには力はある。しかしその力が成長する機会を奪っている何かがある。それは何度も言うように虚栄心であり、復讐心であり、自己執着である。そして、その核にあるのは依存心である。

人によく思われたいというだけの理想の自我像が、私たちの大いなる可能性を破壊している。

 

自分のために「自分の憎しみ」を捨て去れるか

先の節で決意がいかに重要かということを考えた。しかし人はなかなか決意できない。

まず格好をつける。

たとえば離婚の相談に来た人に「離婚しなさい」と言えば、ただちに「子どもがいるから、経済的困窮に耐えられない」と離婚できない理由を延々と話し始める。

始めから問題解決の意思はない。レジリエンスのない人は、悩み相談という形で相手に絡んでいるだけである。相談という形で関係を持とうとしているのである。

溜まった不満を吐き出すことが目的で、解決が目的ではない。

悩んでいる人はよく「誰も私を助けてくれない」と、周囲の人を非難する。周囲の人から始まって人間一般を非難する。 しかし、自分が周囲の人をそのように追いやってしまっているということには気がつかない。

愛の反対は憎しみである。抑圧の結果は感情鈍化というが、実は抑圧の結果は、憎しみである。憎しみの感情の抑圧が深刻であれば深刻であるほど、憎しみは凄まじい。

そしてこのどうしようもない憎しみも、またさらに抑圧される。抑圧を余儀なくされた当時の人に対する凄まじい憎しみ、それから以後も続く抑圧で、誰かれとなく憎しみは増大し続ける。

もはや特定の人に対する憎しみではなく、生きることそのことへの憎しみとなる。それが「生まれて来なければよかった」という言葉に表現される感情である。

それに対してレジリエンスのある人は、暴力を振るうようなひどい親にさえ「生んでくれてありがとう」という感情になる。憎しみの感情の抑圧の結果は、さらに大きな憎しみであるということを自覚しない限り、私たちは救われることはない。

最後は全ての人に対して憎しみをもつようになる。

精神科医のフリーダ・フロム=ライヒマンがいうように、愛されなかった人は対象無差別に愛を求めるが、深刻な抑圧を受けた人は、対象無差別に憎しみを持つ。

「女を全て殺したい」と言った男性は、対象無差別に女に愛を求め、対象無差別に女に憎しみを持ったのである。愛を信じる力、自らの運命を切り拓くと信じる力を妨害しているのは、憎しみの感情である。

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憎しみの感情を消すしか救済の道はない

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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