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ヒット商品は「不満」から生まれる...日本最大の商業施設が売れた意外な理由

小西利行(コピーライター)

2021年10月22日 公開

 

「日本一大きい」だけでは売れない?

それでは、「3問思考」からアイデアを考えて、ヒットに導いたケースから説明しましょう。僕がクリエイティブ・ディレクターとして携わった、2008年開業の「イオレイクタウン」です。

これは、埼玉県の越谷市にある日本一大きなショッピングセンターで、東京ディズニーランドよりも客数が多いことで有名です。つまり「売れている」わけですね。

僕はクリエイティブ・ディレクターとして案件に関わる際、まず関係者全員に「何が滞っているのか」を聞きます。まさに不満から始めるということです。このとき集まってきた滞りを一言でまとめると「この施設がどの方向に向かって進んでいるのか、まだ決定していなくて不安」ということでした。

実は当時、すでにどんなショップが入るかといった方向性は決まっていたのに、どういう施設を目指すのかというビジョン(目標)はまだ仮のままだったのです。それはとても珍しく、危ういことでした。

そのとき、仮のビジョンとして聞いたのは、売り文句でもあった「日本最大のショッピングセンター」でした。

僕は、「えっ、他にもっと大きなショッピングセンターができたら、その目標も売り文句もなくなりますが、どうするんですか?」と思わず聞いてしまいました。担当者は沈黙。これはまずいです。「日本一大きい」がビジョンだと、関係者はそれに向かって動くことができません。

ビジョンは美辞麗句でもお題目でもなく、関係者がその目標にワクワクして、「私はこれに向かって、こうアイデアを出し、こう動けばいいのですね!」と奮い立って動き出す、行動のきっかけになるものでなければなりません。このビジョンを3問思考で検証してみましょう。

「1.それ、みんなの不満かな?」について考えると、このビジョンのベースとなるべき不満は「あー、もっと大きなショッピングセンターがあればいいのに!」となります。まあ、こういう不満を持つ人もいるかもしれませんが、あまり大きいと買い物するのに疲れてしまうという人も多そうですから、「みんなの不満」とは言えなさそうですね。

次に「2.それ、相手はうれしいかな?」。もしこのビジョンで「うれしい」とすれば、「イオンレイクタウンが日本一大きなショッピングセンターでうれしい!」となるはずですが……そんな人、いるでしょうか?日本一ショップが多いならうれしい人もいるかもしれませんが、大きさは、ショッピングセンターに来るお客さんにとってはあまり関係がないことですよね。

最後「3.それ、誰かに話すかな?」についてはどうでしょう?この問いは「あそこのショッピングセンターって、日本一大きいんだって!」と人に言いたくなるかどうかですが、たしかに初めて行った人は、誰かに話したくなるかもしれません。でも、メリットがわかりにくいので、喜んで人に話すほどではないかなと思います。

まとめると、1は△、2は×、3は△。これでは「売れるアイデア」とは言えません。

 

たった「2文字」で売れるアイデアに

では、そこで僕が新たに考えたビジョンは何か。それは「日本最大のエコ・ショッピングセンター」です。え、「エコ」が入っただけじゃないかって?そうなんです。このエコが「売れるアイデア」なんです。まず、ビジョンとして「エコ」を標榜すると、施設のさまざまな事柄が決まってきます。

例えば施設の名称。僕はメインとなる2つの巨大な建物に「kaze」「mori」と名づけました。自然をイメージさせる名称がいいと考えたからです。「エコ」を目指すことによって、館内のカラーも青や緑を多く使うことが決まり、環境に配慮した活動をしている店を積極的に誘致するなどの方針も決まっていきました。

さらに、エコという視点から、当時まだ新しかった「サステナビリティ(持続可能性)」や「インクルーシブ(排他的でなく、尊重し共生する)」という考えを取り込んだ店づくりを目指し、そしてそれをわかりやすく表現した「人と自然に心地いい」という、コンセプトスローガン(お客様へのメリット&行動指針)を作成しました。

そして、このコンセプトにしたがって、電力をできるだけ太陽光にしたり、ゴミからアップサイクルしたアート作品を館内に展示したり、さらに、お年寄りや妊婦、肢体不自由の方にもやさしいように、椅子をたくさん設置したのです。

さて、ここで「日本最大のエコ・ショッピングセンター」を、3問思考で整理してみましょう。「1.それ、みんなの不満かな?」については、もちろん◯。人間のみならず「地球の不満」も網羅していると言えるでしょう。

2006年に製作されたアル・ゴア元アメリカ合衆国副大統領のドキュメンタリー映画『不都合な真実』以来、世間の環境問題に対する意識は高まっていました。当時は今ほどエコ活動が当たり前ではなかったものの、環境に悪いことはしたくないよね、という空気が醸成されつつあったのです。

次の「2.それ、相手はうれしいかな?」についてですが、エコな施設に足を運ぶことは、電気を無駄づかいしたり、大量のゴミを排出したりする施設に行くよりも、うれしいことだと言えるでしょう。さらに、「人と自然に心地いい」というコンセプトにより、そこかしこに、お客さんにとっての「うれしい」が生まれる施設になったと思います。

最後「3.それ、誰かに話すかな?」の答えは「話す」です。なぜかというと「エコ」という2文字によって、さまざまな独自施策が生まれ、他のショッピングセンターと差別化されるようになったからです。

「kaze」と「mori」という名称もそうですし、スタッフが電動で動くセグウェイに乗っていることも話題になりました。エコ視点のアップサイクル・アートの展示なども行いましたし、湖に見立てた貯水池のまわりには自然を増やし、まさに「心地いい」空間にしたことで、写真に撮ったり、誰かに薦すすめたくなる施設となったのです。

先ほども触れましたが、このイオンレイクタウンを開発していた2006年頃は、世界的にも「エコ」な施設がほとんどなく、商業施設としてはかなりのチャレンジでした。でも「それ、相手はうれしいかな?」を考え抜き、実際に触れられたり、楽しめたり、参加できたりする「うれしいエコ」を提示したことで、多くの人に受け入れられました。

そして「それ、誰かに話すかな?」の答えとして、他の施設にはないお店を集め、アートなどのオリジナルな体験をたくさん生んだからこそ、「話したくなる」ショッピングセンターになれたのだと思います。

 

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