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中野区で文学賞? 選考委員の映画監督が語る「映画化される小説の特徴」

篠原哲雄(映画監督・東京中野物語2022文学賞最終選考委員)

2022年08月02日 公開

 

不自由な制約の中でこそ自由な発想が生まれる

――映画監督として、どういった視点で制作に取り組まれているのでしょうか?

映画を撮るには色々制約もあります。映画っていかに何を描かないかということも大事です。小説はその点一見自由そうにも感じますが、描くべきポイントに持って行くために選択はしているのだと思います。

映画を撮る際は予算もあるけれど、どこか時間や場所を限定することで制約を決め、その中で描くべきことを選択していくこと。この不自由を与えられてこそ、枠の中で発想出来るという自由さも与えられるのです。

いくつかの限定をすることでの選択の例をあげると。たとえば、壮大なセットが必要であったり、とかです。

例えば「花戦さ」も戦国時代の話で映画化には壮大なセットも必要だし映画化自体がまずは困難な話ではありますが、戦国時代であるにもかかわらず合戦シーンを描かないという限定がありました。

実際はわずかにそれを感じさせるカットは撮ってはいるのですが。作品のテーマは「刀や武器ではなく花を生けることで世の理不尽と戦う」です。その理不尽さと花の世界の描写で決まってくる。

ここで更にポイントを付け加えますが、テーマは上記のようなことではあるけれど、実はそれ以上に描くべきことというのは、人物のキャラクターでした。

池坊専好という華道家が豊臣秀吉の残酷さによって死を選んだ茶道家の利休に対してどのような思いを抱いていたか、その2人の友情があってこそ、テーマが浮き彫りにされるのであって、描かれるべき人間の描写が一番大切なことかもしれません。

僕の場合はそういう風に作品を考えていつも挑んでいきます。ですからここで語りながら小説家へも同じことが言えるのかというと正確には分かりませんが、人間を描くという点は映画も小説も同じではないかと思うのです。

 

映画監督が考える「文学の評価基準」

――他の最終選考委員の方との作品選びは、どのように展開すると思われますか?

「東京中野物語2022文学賞」では、小説家の中島京子さん、歌手・タレントの中川翔子さん、作家のエージェント会社の鬼塚忠さんと、背景もお仕事も異なる方といっしょに作品選びをするわけですが、私は私の視点で選ぶのでおそらく推薦する作品は異なるでしょう。

最後に自分の評価基準を整理しておきます。
・作者のオリジナリティー溢れる「世界観」が見出せること。
・「物語が新鮮」でワクワク読み進める楽しみがあること。
・文体など表現の仕方に「既成概念を壊すようなスタイルがある」こと。
・描くべきは人間の面白さ、喜怒哀楽に代表される感情のあり方。

こういった事かと思います。何はともあれ、面白い作品に触れられるのが楽しみで仕方ありません。どうか、1人でも多くの人が応募していただければ幸いです。

【篠原哲雄(映画監督・東京中野物語2022文学賞最終選考委員)】
1962年、東京都出身。中野区在住。明治大学法学部卒業後、助監督として森田芳光、金子修介監督作品などに携わる傍ら、自主制作も開始。1989年に8ミリ『RUNNING HIGH』がPFF‘89にて特別賞受賞。1993年に16ミリ『草の上の仕事』が神戸国際インディペンデント映画祭にてグランプリ受賞、劇場公開となる。1996年、山崎まさよしが主演した初長編『月とキャベツ』以降30本以上の映画を撮り続ける。2018年、『花戦さ』で日本アカデミー賞優秀監督賞受賞。近作は2021年公開の『犬部!』。2022年は町の本屋を舞台にした『本を贈る』を初の配信ドラマとして発表し評判を呼ぶ。

 

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