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「フェムテック」とは何か?いま女性の悩みが“社会課題”とされるワケ

及川夕子(医療ライター)、高橋幸子(産婦人科医)

2022年08月22日 公開

 

フェムテックが目指すのは、誰もが生きやすい社会の実現

もう1つ、フェムテックには、女性の心身にまつわるタブーや価値観を変容するムーブメントの側面があります。2020年ごろから盛んになってきた、次のような動き、女性たちの意識の変化です。

・生理痛や更年期、不妊など、これまで人前でオープンに話せなかったことが話しやすくなった。

・デリケートゾーンやセルフプレジャーといった言葉が広がり、メディアでも隠すことなく取り上げられるようになった。

・生理の貧困や性教育の遅れ、ジェンダー格差(性的役割分担やジェンダーを背景にした賃金格差など)、女性に対する性暴力などの社会問題について、女性たちがSNSなどで積極的に声を上げるようになった。

・多くの女性たちが女性特有の健康課題を、自分ごととして捉えるようになった。

このような意識の変化が起こっている背景には、世界に広がる「SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights)」(性と生殖に関する健康と権利)の考え方があると思います。

SRHRとは、性(セクシュアリティ)や生殖に関して、心身ともに満たされて幸せを感じられ、またその状態を社会的にも認められていること、そしてこれらを自分で決める権利を持っていることを表す言葉です。

具体的には、誰を愛するかということや性的なあり方、自分の性的な快楽(セックスをする・しない)、または産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つかといったことを、自分で決められる権利のことです。

つまり、人は皆、自分が自分であるために、身も心も、社会的な状況においても、尊厳を持って生きる権利があるということです。この考え方は、フェミニズム運動や#MeToo運動の精神とも重なってきます。

「フェムテックは、今まで人に話せない、我慢していて当たり前だと思っていた自分の心身に関わるタブーやモヤモヤを解決するための選択肢です。でも、大事なことは、女性が変わる・ 変わらなければいけないということではなく、社会が変わることで女性が生きやすくなることだと思います。

新しい技術も、取り入れるかどうかはその人自身の選択でよく、周りからの圧力があってはいけないと思います。意識せずとも、たくさんの選択肢があり、必要なときに手に取れるようになっていくことが大切です」と前出の近藤さんは言います。

たくさんの人が女性特有の症状について我慢したり諦めたりしなくてよい社会、そして積極的にケアをすることが当たり前になっていく未来が、ようやく見えてきました。

これからますます、自分の性のあり方や健康に、一人ひとりが主体的に向き合う時代になっていくでしょう。いえ、そうでなければいけませんよね。

 

フェムテックの具体例にはどんなものがある?

実際に、私たちのお悩みを解決してくれるフェムテックにはどんなものがあるのか。女性のライフステージごとに整理してみました。

【ライフステージごとの分類】

・生理、避妊
吸水サニタリーショーツ、月経カップ、生理管理アプリ、低用量ピルのオンライン処方など

・不妊、妊活
妊娠可能日を予測するデバイス、妊孕性検査キット、精子運動力チェック(メンテック)、不妊治療関連サービスなど

・妊娠、産後ケア
妊婦の遠隔医療、陣痛トラッカー、メンタルケア、搾乳デバイス、骨盤底筋トレーニング、オンライン相談サービスなど

・更年期
更年期症状の改善(ホットフラッシュ対策)、骨盤底筋トレーニング、オンライン相談サービス、女性ホルモン簡易検査など

・セクシャルウェルネス
セルフプレジャーアイテム、性交痛軽減グッズ、デリケートゾーンのケアなど

・ウェルネス(女性特有の病気)
痛みのない検査機器、自己採取HPV検査キット、乳がん術後のケアなど

こうしてみると、結構たくさんあるものですね。ある調査で、日本女性の2人に1人は、アプリなど何らかのテクノロジーを使ったフェムテックのサービスを利用していることがわかりました(日本のフェムテック市場の可能性に関する調査第3回2022年/SOMPOひまわり生命)。

スマートフォンがなくてはならない生活必需品になったように、意識しなくてもフェムテックが日常にある。そんな世界が訪れるのも、まもなくかもしれません。

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企業で活発化するフェムテック関連の取り組み

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