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現代人なみ? 聞いてびっくり「古代ローマ人」の暮らし

金森誠也(著述家/翻訳家)

2012年05月09日 公開 2022年11月10日 更新

【古代ローマ人の「法」】少子化に悩んだアウグストゥスが考案した驚くべき法律

日本の場合、「離婚から6カ月を経過した後でなければ女性は再婚することができない」という再婚禁止期間が定められている。これは、妊娠している子の父親が誰であるかを特定するためのものだが、古代ローマには、この逆ともいえる法律が存在していた。

それはアウグストゥス帝が制定した「アウグストゥスの婚姻法」だ。この法律によると、寡婦の場合は1年、離婚した女性は6カ月以内に再婚することが求められていた。

後になると、寡婦が2年、離婚した者が1年6カ月と、多少猶予期間が延ばされたが、これに違反した者は相続財産及び遺贈を取得できないとされ、相当に厳しい法律だった。

こんな法律ができた背景には、古代ローマが深刻な少子化に悩んでいたためだ。現在の日本も少子化という大問題に直面しているが、古代ローマの少子化は乳幼児死亡率と深い関係があった。

日本のゼロ歳児の死亡率は男女ともに0.3パーセント前後なのに対し、古代ローマ時代の死亡率は30パーセントを超えていた。もっとわかりやすくいうと、現在の日本では1人の女性が生涯に 2.1人以上の子供を産めば現在の人口を維持できるが、古代ローマ時代には、子供を5人産んでも人口は減少したのである。

ハンニバルを打ち破ったことで有名なスキピオ将軍の娘は、生涯に12人の子供を産んだが、そのうち成人できたのはローマの改革を行なおうとしたグラッスス兄弟と、その姉の3人だけだった。

ところが生活が豊かになるにつれ、女性は結婚や出産、子育てを敬遠するようになり、子供の数はますます減っていった。少子化に拍車をかけていたのが、働き手にならない女児を殺害するという、忌まわしい習慣だった。

この少子化の流れを阻止するために「アウグストゥスの婚姻法」が制定されたわけだ。同法によると、25歳から60歳までの男性と20歳から50歳までの女性に結婚が義務づけられ、たとえ結婚していても子供がいない夫婦は、配偶者が亡くなった場合も財産の一部を没収されるなど厳しい罰則があった。

逆に自由人で3人以上、被解放自由人で4人以上の子供がいる場合は優先的に官吏になれるほか、後見人(未成年のローマ市民の保護監督役。古代ローマでは父親の約5割が、子供が15歳になる前に亡くなっていたため、このような制度が重要視された)になる義務を免れることができるなどの特権が与えられた。

こうした法律が制定されても少子化の打開にはつながらず、しかも市民にはたいへん不評だった。だが、この後も帝国は少子化に不安を持ち続けたから、同様の法律がなくなることはなかった。

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