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経営理念浸透のメカニズムを考える

2015年11月09日 公開

田中雅子(帝塚山大学大学院経済学研究科教授)

《隔月刊誌『PHP松下幸之助塾』より》

「仕事」「人」「理念の文言」の相乗効果を

 世の多くの企業のほとんどには、何がしかの指針として経営理念が謳われている。
 にもかかわらず業績が悪くなる、あるいは不祥事を起こしてしまうのはなぜだろう。
 それは、理念の存在の問題ではなく、理念の組織内への確実な浸透がなされているかどうかの問題なのではないか。
 長年、経営理念研究に携わってきた研究者が、理念浸透のメカニズムと継承のポイントを解説する!

 

経営理念の浸透はたやすくない

 2004年から2013年までの10年間、経営理念の浸透が進んでいると公言されていている企業6社の経営者および従業員に、インタビュー調査をし続けてきました。どうすれば組織に理念が浸透するのかを探るためです。

 インタビューは、一対一の対面形式で、「半構造化面接法」を用いました。これは、質問項目の大枠は事前に用意しますが、インタビューイの回答によっては質問の表現や内容を変えていく手法です。必ず訊くようにした質問項目は、理念の継承方法、理念の解釈が変化あるいは腑に落ちた出来事、影響を与えた人物、御社らしさとは何かです。

 まず経営者から始め、その後、役員、管理者、若手と縦断的にインタビューを進めるなか、途中で理念が浸透していると分析できなくなった企業は、調査から省くという手順を踏みました。

 何をもって理念が浸透していると判断したか。それは、この後にも触れていますが、社内と社外、両場面において、理念的な考え方や行動をとっていることが、全インタビューイの語りから分析できるか、そこに注目をしました。

 その結果、各層に理念が浸透し続けていると分析できる企業が、何社残ったと思われますか。

 たった2社です。ただし、そのうちの1社は、東日本大震災の影響を受け、2011年以降、インタビューを中断せざるを得なくなるという事態に見舞われました。それ以前のデータが有効であることから、その企業も加えましたが、厳密にいうなら1社ということになります。

 継続的に理念を浸透させることが、いかにむずかしいか、それを痛感させられた10年でした。

 理念が浸透しなくなる主な原因は、経営者の交代や、そこから生じる幹部との軋轢、部門間の連携の悪さ等を挙げることができますが、それだけではありません。

 理念と現実の仕事とのあいだにギャップや矛盾がある場合、理念の浸透は覚束なくなります。たとえば、上司から、ことあるごとに「売り上げ20パーセントアップだ!」などといわれ、気がつくと数字を追いかけることに腐心してしまうケースや、「顧客重視」が謳われていても、日々の仕事はデスクワークばかりで顧客の顔が見えず、理念がピンとこないというようなケース。これらもNGです。

 また、一見、懸命に働く従業員であったとしても、当人の意識が、自分の業績向上や、社内の評価にばかり偏っているような場合も、理念が浸透しているとはいえないでしょう。

 理念は、社内では、判断の基準となったり、一人ひとりのベクトルを統合する役割を果たしたりしますが、それだけに留まらず、自社の存在意義の明示やステークホルダーへの配慮というように、社外に向けて機能することも肝要です。つまり、社内外への機能が見られて、初めて浸透しているといえるのです。ここに理念浸透のむずかしさがあります。

 

就活時から理念浸透は始まっている

 では、理念浸透が進んでいる企業では、働く人々は、どのようなプロセスを経て、理念を自分のものにしていくのでしょうか。調査から得られた発見事実をご紹介しながら、理念浸透の秘訣を探ることにしましょう。

 理念浸透は就職活動のときから始まっています。ここは見落としがちなところですが、インタビューイの多くが、当該企業の理念に就活時から共感していました。なかには「理念の内容がよかったから、競合他社ではなく当該企業を選んだ」と語るインタビューイもいたほどです。このことは理念浸透の素地を作るうえで、心に訴えかける文言がいかに重要であるかを教えてくれます。言葉を換えれば、就活生が理想とする働き方と、理念が重なり合ったとき、その企業にも興味関心を示す可能性があるといえるでしょう。

 また、就活での面接を振り返った際に、理念の内容と重なり合う感覚が語られたことも特徴的でした。たとえば、理念が「おもしろおかしく」の場合、面接も「楽しかった」、「創造・BEST、共感」であれば「共感できた」というように。そういう意味では、理念が感じられるような面接を心がけることも、側面的ですが、理念浸透のよりよいスタートとなる印象があります。

 

本稿は、文部科学省科学研究費補助金研究(基盤研究C「企業組織全体における理念浸透のプロセスと施策」〈22530387〉)の助成を受けて、進められたものです。

本サイトの記事は、雑誌掲載記事の一部分を抜粋したものです。以下、「若手の場合―若手は上司を観察している」「管理者の場合―ひと山乗り越える経験がモノをいう」「経営者の場合―マネジメントを通して一体化」「観察と経験の重要性」「理念浸透を進める『仕事』『人』『理念の文言』」などの内容が続きます。記事全文につきましては、下記本誌をご覧ください。

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著者紹介

田中雅子(たなか まさこ)

帝塚山大学大学院経済学研究科教授

同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。専門は組織論。「経営理念の浸透」を研究テーマに、国内外の企業への調査を十数年実施し続けている。著書に『ミッションマネジメントの理論と実践−経営理念の実現に向けて』(中央経済社)等がある。

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