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厄介な「ポジション・トーク」を避けるには?

2016年09月06日 公開

グロービス経営大学院 ロジカルシンキング講座

 

不適切な思考パターン

自分の立場に都合のよい「ポジショントーク」

誰かと議論をしていて、「もし、あなたが別の立場なら、別のことを言いそうだよね」と言いたくなったことはないでしょうか。人には、誰しも立場というものがあります。それぞれの立場から自分に都合のよいことを言うのが「ポジショントーク」です。

自分が客の時は、「お客様は神様だぞ!」と言い、自分がビジネスで客の相手をする立場になると、「お客は別に神様というわけではない。もちろん大切にはするけれど、対等なビジネスパートナーだ」と主張するなど、自分のその時々の立場で意見を変えてしまう人は多いのではないでしょうか。

例えば、保育士だったAさんが、自分が現役の時には、「保育士は大変な仕事です。みんなにその大変さを理解していただきたい」と言っていたとします。

ところが、結婚後、保育士をやめて他の仕事に就き、自分の子供を保育園に通わせ、ある日、ちょっとしたトラブルがあったとします。その時、保育士のBさんがAさんに事情を説明すると、Aさんは、「そんなことはわかっています。こっちは親なんです。そっちからしたらお客でしょう」と言い放ったとしたらどうでしょう。

自分が保育士だった時には「大変さを理解してほしい」、自分が子供を預ける親になったら、保育士の大変さはそっちのけで「親はお客だ」と意見が完全に変わってしまっています。

極端な例ですが、可能性としてはあるわけです。これが典型的な「ポジショントーク」です。

ビジネスであれば、当然、会社あるいは自分の利益を考えるでしょう。しかし、それが行き過ぎると相手の事情を考えなくなり、バランスを欠いてしまいます。その結果、お互いの利害はかみ合わず、議論は平行線のまま、先に進むことはできなくなってしまいます。

 

「無知のベール」でポジショントークを避ける

ポジショントークを避ける、よい方法はないのでしょうか。

それには、「無知のベール」という考え方があります。これは、ジョン・ロールズというアメリカの哲学者が提唱したもので、ベールは女性が頭から被る薄い布のことです。

「無知のベール」は、自分の立場について全く知らない状態を意味します。この「無知のベール」を自分が被っていると想定し、特定の立場や偏見にとらわれることなく、ニュートラルに物事を見るよう意識するのです。そうすれば、あたかも神様が天上から見渡すような視点で、それぞれの主張を公平に検討することができるというわけです。

神様の視点というのが大げさなら、「誰の立場にもなりうるという前提で考えられるようになる」と言い換えてもよいでしょう。自分を含めて、誰の言っていることが客観的に見て妥当性が高いのか、冷静に判断できるようになるはずです。

例えば、親子が職業の選択について話し合っていたとしましょう。子供は「自分がやりたいことをやる」と言い張り、親は「いや、この仕事をやったほうがいい。経験を積んでいる私が言うのだから間違いない」と主張。お互いが自分の立場で話しているので、かみ合いません。

筆者自身、進学する大学を選ぶ時や就職する会社を選ぶ時には割と自由に選んできましたが、いざ自分の子供のこととなると、「やりたい」と言うことを否定し「こっちにしなさい」と要望を出す可能性があります。自分は自由に職業を選んできたのに、自分の子供に対しては親として意見を言うかもしれません。

人間はわがままです。自分の立場でしか意見を言わず、相手の立場を考えないのです。そうならないためには「無知のベール」を被り、いったん保留にして「誰の立場にもなりうる」と考えると、どちらの意見により説得力があるかが見えてきます。

人間誰しも自分のポジションで都合のいいことを言ってしまう傾向があることは確かです。ただ、自分が客の時とそうではない時で、言っていることが全く違うというような人は信頼されません。そのような全く違う両面が見えた同僚や上司、部下は、「立場によって意見がころころ変わる、都合のいいやつ」という人物評価になってしまうのではないでしょうか。

逆に、「無知のベール」的な見方をし、ピュアに考えて発言をする人は、「いつも一貫している」と評価されるでしょう。立場によって極端に意見を変えることなく、よりピュアに、客観的に、冷静に議論できるほうがよいのは間違いありません。

 

嶋田毅(しまだ・つよし)
グロービス経営大学院教授。東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、戦略系コンサルティングファームに入社、業界・企業分析や戦略の立案、実行支援を行なう。その後、外資系メーカーを経てグロービスに入社、経営大学院や企業研修の講師を務める。著書に『[実況]ロジカルシンキング教室』(PHP研究所)など多数。

※本記事はマネジメント誌『衆知』2016年9-10月号、連載「グロービス経営大学院 ロジカルシンキング講座」より、その一部を抜粋して掲載したものです。

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iyashi

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