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救われた人だけでなく、救った人も救われる~円覚寺管長・横田南嶺

2016年10月18日 公開

櫛原吉男(マネジメント誌「衆知」編集主幹)

鎌倉円覚寺

ミュージカル『レ・ミゼラブル』のなかに「夢やぶれて」という劇中曲がある。2009年に英国のTVのオーディション番組で、当時、無名だった中年女性、スーザン・ボイルが歌って、一躍、世界的なヒットになった。歌詞の最後に「今の生活が、私の夢を殺す」(直訳)がある。

多くの人は、「今の生活をこんなはずではなかった」と思い、生きていく力をなくして落ち込むことがある。坂村真民の詩に「死のうと思う日はないが 生きてゆく力がなくなることがある」という一節がある。私の好きな詩の一節である。

北鎌倉に、鎌倉五山の名刹のひとつ円覚寺がある。JR北鎌倉駅を降りると、すぐ目前に円覚寺山門がそびえる。明治の文豪にゆかりのあるお寺で、鎌倉時代の執権 北条時宗が元寇の死者を弔うために建立した。開祖は無学祖元。蒙古襲来で思い悩む時宗に、「莫煩悩」(煩い悩むことなかれ)という一書を与え励ましたというエピソードがある。

円覚寺の境内の奥に、黄梅院という塔頭があり、門前の掲示版に坂村真民さんの詩が書かれていて、「心の掲示版」として話題になった。その住職だったのが、横田南嶺老師である。後に臨済宗では異例の若さで管長に就任され話題になった。臨済宗では管長になれる方は、雲水として厳しい修業に耐え、さらに雲水を指導する師家になって年を重ねてからなられる場合が多い。

横田管長は、既に小学生のころから近くの禅寺で参禅し公案(臨済宗で、修業者が悟りを開くために、師から与えられる課題)を与えられていたというから驚きである。筑波大学在学中に、親の反対を押し切り出家し、京都の建仁寺で雲水として修行された。実家は鉄工所を経営されている。つまり、お寺のお生まれではない。これは極めて大変なことである。昔は、僧侶は独身が原則であったが、今では妻帯の方が普通である。つまり、お寺は代々住職が世襲している。今や、住職は仏に仕えるという生業といっていい。そのため、お寺のお生まれでないと、たとえ本山で修行を終えても戻るお寺がないのである。

横田管長は独身であり、修業一途に生きてこられた方である。横田管長は若いが、人格の清廉さにおいて、私が尊敬する鍵山相談役も絶賛している人物である。当代一の名僧であるといっても過言ではない。私は、鍵山相談役のご紹介でお会いし、すぐに出版のお願いをした。当初は、難色をしめされていた。

そこで、黄梅院の「心の掲示版」のことを思い出し、坂村真民さんの詩のすばらしさを、多くの人に知ってほしいと訴えると、最後は「わかりました」とご承諾いただいた。

円覚寺は観光で有名だが、今なお雲水が修行し信仰が脈々と息づいている場所でもある。

取材で、何回か円覚寺をお訪ねした。円覚寺の境内で、猫を見かけた。人見知りしないところを見ると野良猫でなく、飼い猫だと思った。

取材の冒頭で、その話をすると、「しいちゃんという名前の猫でね。すっかり、お寺の人気者なの」と横田管長が微笑みながら話された。

「近所の飼い猫だと思いました。福井に猫寺があると聞きましたが……」

まさか、円覚寺も観光客相手に飼っているのかなと思いました。

「いやー、まだ目も見えない子猫の頃、門前で捨てられていたのです。それも病気で死にかかっていました」。 

それを見つけた雲水たちが騒いでいましたので、「君ら、この子猫をどうする? 」と聞いてみたのです。

「病院に連れて行きます」とある若い雲水がいうではありませんか。その雲水は、何事にも消極的な若者だったので、少し驚きました。

その後、子猫は病院で治療を受け、病気になった修行僧が休む「病僧尞」という部屋で飼われ、すくすくと育ちました。

『子猫の命を救いたい』という一念で彼は必死に世話をしました。その経験が、彼を変えました。責任感や積極性が芽生えたのです。彼は本山での修行を終え、一寺の副住職になって今りっぱにやっています。子猫を救ったことにより、彼自身も救われたのです。

「救った人だけでなく、救った人も救われる」これが仏陀の教えです。

この世は無常ではあるが、そのなかでも消えない愛の心がある。これは確かなものである。それが生きるということではないか。

「生きることとは
生きとし生けるものを
いつくしむことだ」
(坂村真民『生きることとは』の一節)

※その後、『二度とない人生だから、今日一日は笑顔でいよう』(PHP研究所刊)を出版していただきました。早速、増刷もかかり大好評です。

また『松下幸之助塾 2016.3-4号』〈4月より『衆知』としてリニューアル創刊〉では、「出逢いで人は成長する」というテーマで横田管長VS鍵山相談役と特別対談していただきました。

また、9月末には日めくり『鍵山秀三郎 良樹細根』を発刊する予定です。書は、横田管長に揮毫いただきました。

今後『衆知』では巻頭言「PHP 言志録」に横田南嶺管長にもご登場いただく予定です。 お楽しみに!

経営・マネジメント誌「衆知」

2017年3・4月号 特集「最強のブランドを育てる」

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発売日:2017年02月27日
価格(税込):1,080円

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