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リーダーは「ほめる」ことと「勇気づける」ことの違いを認識せよ

2017年06月25日 公開

岩井俊憲

リーダーシップ

リーダーシップに「勇気づけ」を! 実践アドラー心理学

欧米ではフロイトやユングと並ぶ存在であり、日本でも近年絶大な支持を集めるアドラー心理学は、「勇気づけの心理学」と称される。長年その研究と普及に努める岩井氏が、経営や仕事に活かす実践法をレクチャーする。

岩井俊憲いわい・としのり
1947年栃木県生まれ。早稲田大学卒業後、外資系企業の管理者等を経て、85年有限会社ヒューマン・ギルドを設立、代表取締役に就任。86年アドラー心理学指導者資格を取得。上級教育カウンセラー。アドラー心理学にもとづくカウンセリングや公開講座、カウンセラー養成を行なうほか、企業や学校から招かれ、研修や講演を多数行なっている。

 

「ほめる」と「勇気づける」の違いとは?

最近、学校や企業などの教育の現場では、「ほめて伸ばす」という言葉がよく聞かれるようになりました。これは近年の指導スタイルが、「恐怖」を用いた従来型のスパルタ指導と対になるものとしてとらえられていることの表れでもあると思われます。

しかし、実はこの「ほめる」という行為は、アドラー心理学が提唱する「勇気づける」とは異なるものなのです。というのも、「ほめる」という行為は、外発的動機づけにほかならないからです。

これに頼り続けていると、次のようなリスクを背負うことになります。

1)賞罰に依存せず、好奇心や関心によってもたらされる「内発的動機づけ」を失わせる
2)かえって成果が上がらなくなる
3)創造性を蝕む
4)好ましい言動への意欲を失わせる
5)ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長する
6)依存性がある
7)短絡的思考を助長する

外発的動機づけにはこうしたリスクが伴うことから、近年、内発的動機づけが重視されてきています。

アメリカのクリントン政権でスピーチライターを務め、世界各国の企業、組織、大学で戦略やモチベーションなどに関する講義を行なっている文筆家のダニエル・ピンク氏も、その一人です。彼は、自分の内面から湧き出る「やる気(ドライブ)」にもとづく内発的動機づけを二十一世紀型のモチベーションと位置づけ、その重要な要素を次の三つだとしています。

1)自律性 自分の人生をみずから導きたいという欲求
2)マスタリー(熟達) 自分にとって意味のあることを上達させたいという衝動
3)目的 自分の目的よりも大きな目的や、自分の利益を超えたことのために活動したい、という切なる思い
(詳しくは『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』〈ダニエル・ピンク著、大前研一訳、講談社刊〉をご参照のこと)

アドラー心理学の立場から言えば、「勇気づけ」はまさにこの内発的動機づけにもとづく支援法といえます。私は常々、外発的動機づけに類する操作法の「ほめる」ことと「勇気づける」ことには、次のような根本的な違いがあると説いています。

●「ほめる」ことは、優れている点を評価し、賞賛することであるのに対して、「勇気づける」は、本人が直面する課題を克服する活力を与えることである
●「ほめる」ことは、上の立場の人間が下位者に対して「えらい」「よくやった」と評価する態度であるのに対して、「勇気づける」ことは、役割や地位の上下があることは認めつつも、評価・賞賛を与えることでなく、ともに喜ぶ姿勢を示すことである
●上司が「ほめる」ことをやっていると、部下は、ほめられることを求めて行動するようになる。逆に言うと、ほめられなくなると、その行動をしなくなりがちになる。

しかし、「勇気づける」ことは、部下が上司頼りにならず、評価・賞賛を求めることなく、みずから進んでセルフコントロールの仕組みを活かして課題に直面できるようにすることである。そして、その後は、勇気づけられた部下は、上司の勇気づけの言葉をいつまでも期待することなく、自分で自分を勇気づけられるようになるのです。

 

上から目線のほめ言葉は逆効果

「ほめる」と「勇気づける」の違いについて、もう少し具体的にご説明します。テレビドラマでも話題になった『下町ロケット』(池井戸潤著、小学館刊)の佃製作所をイメージしていただくとわかりやすいかと思いますが、中堅企業の社長と従業員のやりとりで考えてみましょう。

ある時、社長が従業員を集めて、会社の危機を乗り越えるために社員の結束を煽るスピーチをしたとします。社員が感動している中で、ある管理者が社長に近づき、「社長、やればできるじゃありませんか」と言ったらどうでしょうか? 上から目線のほめ言葉で、言われた社長は小ばかにされたような気分になることでしょう。

しかし、管理者が社長に向かって、「社長のお言葉に震える思いがしました。私はこの会社の一員であることに誇りを持ちました」と勇気づける言葉を伝えたらどうでしょう。社長の意欲はよりいっそう高まり、結束も強まるはずです。

もう一つ例を挙げると、毎朝早く来て、会社の玄関前を掃除している社員がいたとします。それをみた社長が、「君はえらいな。感心だ」と声をかけると、その従業員は張り合いを感じることでしょう。

しかし、その後、社長が長期出張で不在になったり、早朝の掃除がまるで当たり前の行動のように思われて、言葉をかけなくなると、どうでしょうか。従業員は掃除をしなくなる恐れがあります。つまり、社長の承認を求めて掃除をするようになると、承認が得られなければ続かなくなるわけです。

もし社長が、「人が気づいていなくても、こんなにきれいにしてくれてありがとう」と声をかけていれば、そうはならないでしょう。

このように、「ほめる」と「勇気づける」は基本的に大きく異なるものですが、両方に該当するような表現もあります。相手の強み・持ち味を指摘する「ヨイ(良い)出し」です。これは悪いところを指摘する「ダメ(駄目)出し」の反対の行為と考えてください。

例えば、特定の部下が重要な得意先に向けて見事なプレゼンをしたとします。このことに対して「内容・表現力ともに目を見張るものがあった」と表現すれば、この言葉は「ほめる」とも「勇気づける」とも解釈できます。

厳密にいえば「こんな言葉をいうと、相手はいい気持ちになり、もっとそのことをやるようになるだろう」というような、支配的・操作的な意図があるとしたら、「豚もおだてりゃ木に登る」もどきのほめ言葉になります。しかし、感動のあまりの表現として発せられたら、相手は勇気づけられたと思うことでしょう。

※本記事はマネジメント誌『衆知』2017年3・4月号掲載「実践!アドラー心理学」より、一部を抜粋して掲載したものです。

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