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山中伸弥×松下正幸 イノベーションはいかにして生まれるのか

2017年08月29日 公開

「志」対談

山中伸弥×松下正幸

山中伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長・教授)
やまなか・しんや。1962年大阪府生まれ。神戸大学医学部卒業、大阪市立大学大学院医学研究科修了(博士)。米国グラッドストーン研究所博士研究員、京都大学再生医科学研究所教授などを経て、2010年より同学iPS細胞研究所所長・教授。2006年iPS細胞をマウスの皮膚細胞から作製したと発表。翌年ヒトの皮膚細胞からiPS細胞を樹立したと発表。2012年ノーベル生理学・医学賞を受賞。

松下正幸(パナソニック副会長、PHP研究所会長)
まつした・まさゆき。1945年生まれ。1968年慶應義塾大学経済学部卒。1968年松下電器産業入社後、海外留学。1996年に同社副社長就任。2000年から副会長。関西経済連合会の副会長を務める一方で、サッカーJリーグのガンバ大阪の取締役(非常勤)を務めるなど、文化・教育・スポーツの分野にも貢献する。
 

世界の最先端を走り続ける研究哲学

2012年、あらゆる臓器の細胞や組織に成長するiPS細胞を作製したことで、ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所所長・教授の山中伸弥氏。今や世界最先端の研究者として国内外から注目を浴びているが、iPS細胞に辿り着くまでには、数々の迷いや逆境があり、一時は研究者の道を断念しかけたこともあったという。山中氏はいかにして困難を乗り越え、医学界にイノベーションをもたらすことができたのか。対談では、研究にとどまらず、ビジネスにも通じる様々な話題も飛び出した。

*iPS細胞(induced pluripotent stem cell):人工多能性幹細胞のこと

取材・構成:高野朋美
写真撮影:白岩貞昭

 

回旋型の研究、発想がイノベーションをもたらす

松下 画期的な研究成果をどのようにして上げられたのかについて、おうかがいします。ご自身のタイプを「回旋型だ」とおっしゃいましたが、iPS細胞をつくるようなイノベーションを起こすためには、成果主義的な直線型の研究だけでは難しいということですね。

山中 はい。その通りです。直線型の研究は、短期的な成果を出すのには向いています。しかし、ブレークスルーは生まれにくい。
例えば、「リーバイス」のジーンズ。創業者のリーバイ・ストラウス氏は、元々、布地を販売していたのですが、デニムを使った丈夫な作業着としてジーンズが生まれ、広まったと聞いています。「コカ・コーラ」もそうです。最初は何かの薬をつくろうとしていたけれど、炭酸水を混ぜた別の飲み物ができた。でもなんだかおいしいということで売り出したところ、世界中で飲まれる飲み物になったそうです。これらはまさに回旋型から生まれた商品です。

松下 回旋的な発想の転換がないとブレークスルーは生まれなかったわけですね。

山中 そうなんです。しかし、もちろん研究には、直線型も欠かせません。両方が必要なんです。iPS細胞は回旋型の研究によって生まれましたが、それをどう応用するかというステージになると、今度は直線型の研究のほうが役に立ちます。アルツハイマー病を治したい、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を治したいなど、はっきりとした目標を一直線に目指す必要がありますから。

松下 思えば、パナソニックの創業者である松下幸之助も、直線型と回旋型、その両面を持っていたと感じます。幸之助が残した「成功とは成功するまで続けること」という言葉は、どちらかといえば直線型ですね。一方で、判断が間違っていると思えば、朝令暮改を恐れず、すぐに改めるよう説いていました。「君子は日に三転す」どころか、百転してもよいぐらいだというわけです。これは回旋型ですよね。

山中 なるほど、同じような意味合いですね。

松下 ところが、先ほど山中先生がおっしゃったように、今の経済界はどちらかというと直線型に終始しており、短期で成果を出せないものは「無駄な研究」と位置づけてしまうきらいがあります。大学もそうではないでしょうか。私は思うのですが、大学などは、すぐに社会の役に立たない研究をやるところに意義がある。将来何の役に立つかわからないけれども、ともかく研究してみるというのが大学の役割だと思います。

山中 本当におっしゃる通りです。実は私には、一つの信念みたいなものがあります。それは、今までわからなかった真実を見つけるような新しい研究であれば、どんなことでも必ず役に立つということ。5年後に何の役に立つかわからなくても、いつか絶対に役に立つ時がきます。

逆に一見社会の役に立ちそうな研究でも、他人の真似をしているだけなのではないかという観点で評価すべきだと思うんです。単に真似するだけだったら、一カ所か二カ所の研究機関でやればいいのであって、日本中のあちこちでやる必要はありません。それよりも、すぐに役には立たないけれど、世界で誰もやっていないような研究を応援する気風が、日本にも生まれればいいなと思っています。

 

「目利き」が研究を育てる

松下 そのあたりのことも含めて正しく評価するには、評価する側の力量が問われますね。

山中 研究の将来性を見極める「目利き」が必要だと思います。

私がiPS細胞の研究を始めた2000年頃、まだiPS細胞の影も形もなかったためか、なかなか研究費をもらえませんでした。ですが一人だけ、多額の研究費をボンと出してくださった方がいた。それが大阪大学の総長を務められた岸本忠三先生です。

松下 あの免疫学の世界的権威でいらっしゃる?

山中 そうです。当時iPS細胞の研究は、成功するかどうか全くわからない投資リスクの高い研究でした。それなのに、毎年数千万円もの研究費を5年間にわたって出してくださった。そのおかげでiPS細胞は日の目を見ることができました。

松下 日本でなかなかベンチャーが育たないといわれているのは、成功するかどうかわからないけれども、いいアイデアだからお金を出してあげましょう、という目利きの存在が少ないからかもしれませんね。

山中 私が「アメリカは強いな」と思うのは、先行きがわからない回旋型の研究を、億万長者が寄付金によってサポートしているところです。例えばマイクロソフトや、フェイスブック創業者マーク・ザッカーバーグ氏の奥様であるプリシラ・チャン氏などですね。チャン氏は小児科医でもあるんですが、3000億円を拠出して生命科学の研究のサポートを始めました。ハワード・ヒューズ医学研究所という巨大な民間団体も、過去の成果ではなく、これからのアイデアでどの研究に資金援助をするか決めています。ですから、回旋型の研究がどんどん育っています。

松下 なるほど、そうですか。私の勝手な持論ですが、富の偏在がないところに文化は育たないと思っています。今に残る素晴らしい文化は、王侯貴族やお金の使い方に困るほどの富裕層が、将来モノになるかどうかわからない芸術家や学者に投資して生まれたものだと思います。

山中 確かに芸術も音楽も研究も、道楽に支えられてきたところはありますね。

※本記事は、マネジメント誌「衆知」7-8月号掲載《松下正幸の「志」対談》より一部を抜粋編集したものです。

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